テスト期間


「また、断られた…」

携帯片手にため息をひとつ。
目の前の画面には、「また今度な。」の一言だけが映し出されていた。
少し前までは、テスト期間中はあまり残業がないからテスト勉強教えてやるって言ってくれていたのに。おかしい。それもこれも、たぶん修学旅行を終えた後からな気がする。どこかよそよそしくなって、私をあまり見てくれなくなって、連絡も減って、一緒にご飯を食べることもなくなって…。そもそも私たちのその関係がおかしいって言われてしまえばそれまでだけれど、でも、それにしては急すぎるんじゃないだろうか。また今度な、って言ったって、今度がいつかってのは教えてくれないし、これはちょっと酷いんじゃないの。
だめな理由があるなら、ちゃんと言ってくれたら良いのに。

「おい、ヒメ、帰るぞ」
「あ…サスケくん」
「お前、今日はスタバ付き合えよ」
「う、うん、ごめんね、なかなか予定合わなくて…」
「気にしてねぇ」

もやもやした気持ちを引きずりながら携帯の液晶を落とし、私のかばんをひょいと担いで歩いていってしまったサスケくんの背中を走って追いかける。
生徒玄関まで追いかけたところで、前方から歩いてきたのはイタチ先生だった。なんて運が悪い。

「サスケ、今から帰るのか」
「ああ」
「…ヒメさんと?」
「兄さんには関係ないだろ」
「…そうだな」
「さ、すけ、待ってよ…」
「ほら、早く行くぞ」
「うん」

ぱしっ、

サスケくんの声に生徒玄関の方へ体を向けた瞬間、腕を掴んだのはイタチ先生で。
時が止まったかのように動かない私たちは、視線を合わせたままかたまった。イタチ先生は何か言いたそうにしているけれど、生憎私にそれは読み取れない。むしろ避けられている側の私に、彼の気持ちなんて解るわけがないんだ。

「ヒメ、さん、」

ゆっくりと私の名を紡いだ瞬間、腕を掴んでいた手はするりと離れていった。

「イタチ、こんなとこに居たの。」
「カカシさん、」
「もうすぐで会議始まるよ」
「はい、すみません。…気をつけて帰るんだぞ」

ぽんぽんと私の頭を撫で付けて、イタチ先生はカカシ先生のほうへ走って行く。
下駄箱の向こうで私を呼ぶサスケくんの声に我に返った私は慌てて内履きを脱いでローファーを玄関に投げ置く。顔が赤いのは、きっと驚いたから。そう自分に言い聞かせて、サスケくんの背を追った。



「キャラメルフラペチーノ!」
「俺はエスプレッソ」

大きなショッピングモールの一角にあるスタバに入って、お気に入りの窓際を陣取って、大好きなキャラメルフラペチーノを注文。さっきまで膨れっ面だったサスケくんも、エスプレッソを飲んで落ち着いたのか笑顔を見せた。ああ良かった。テーブルの上に同じ教科書を広げて、お互いのノートを見ながら「そこはこうだ、あそこはこうだ」と教え合い。
わあ、なんかこう言うのって物凄く高校生っぽい。

「次は…数学か、ここの公式がいまいちよく解らないんだよな…」
「あ、そこはね、この式をここに代入して、こうしてみて!」
「…あー、ここで割るのか…この説明あったか?」
「教科書見たら載ってるよ、ほら。あとね、イタチ先生が―」
「イタチ?」
「あーっ!サスケくんとヒメー!あんた達も来てたのねー!」
「チッ、いのとサクラか…」
「テスト勉強するなら私たちも誘ってくれれば良かったのに!スタバでテスト勉強なんて大人ぶっちゃってぇー!」

アイスクリーム片手にこちらへ駆け寄ってきたいのとサクラは、きっとゲーセン帰りかなにかだろう、かばんに初めて見るようなキーホルダーをつけている。
それにしても、さっきは危なかった…前にイタチ先生に教えてもらった問題の解き方だったから、そのまま言ってしまうところだった。
あたふたする私をよそに、私たちも一緒に、と周りの椅子を集め始めたサクラたちに慌てて席を譲る。流石にスタバで騒ぎすぎてはよろしくない。

「わ、私はもう帰るから、ここ使って、ね」
「おい、ヒメ、」
「ごめん、また今度!」

サスケくんには悪いけど、私はもうテスト勉強なんて気分じゃなくなってしまった。
イタチ先生の名前を出してしまったら、もう先生のことが気になってしまってそれどころじゃない。私の誘いを断っておいて、何も言わないでおいて、今日なんで私を引き止めたんだろう。
もしかしたら、と思いながら手にした携帯電話はなんの情報も受信していない。

言いようのない消化不良の気持ちを抱えたまま1人で歩く帰り道、掴まれた右腕が熱かった。


(20131211)


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thanx!! :)


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