壊せない壁


「ん…っ」

朝の日差しに目を覚ます。なんだか暖かい。まるで大きな何かに包まれているかのような、そんな感覚…

「っ!?」

薄く目を開けた瞬間、思わず叫びそうになるのをぐっと堪えた。
顔を少し上げれば、目の前にはイタチ先生の顔がある。あれ?なんでこんな、と思った瞬間に思い出した。そうだ、昨日ホテルの部屋のドアが壊れて、私は仕方なくイタチ先生の部屋で一緒に寝ることになって、気を使ってソファで寝るって言った先生を「そんなんじゃ風邪を引く」とベッドで寝るように言ったのは、他の誰でもない、私だ…。

そこまで思い出して、もう1回そろそろと顔を上げる。
前から綺麗な人だとは思っていたけど、寝顔もやっぱり綺麗。色が白いし肌も綺麗で、まつ毛は私よりも長い。
非が全くないと言っていいくらいの申し分ない容姿に、頭脳も明晰、完璧すぎる人だなぁ。

私が先生の顔に見とれたままぼけっとしていたところで、目の前のふたつの目がゆっくりと開いた。
私は私で、先生に抱き締められているから身動きが取れず、そのまま視線がかちりと噛み合う。

「…おはよう」
「お、おおおおはよう、ございます」
「…まだ6時、か」
「え、」
「あと5分…」

そう言って私をぎゅうと抱き締め直して目を閉じた先生は、寝ぼけているんだろうか。
いや、もし、そうだったにしても、そうじゃなかったにしても。

「…(こ、この状態は…まずいでしょ…)」

でも、私に声を出して彼を引き剥がすことなんか出来なくて、結局あっという間に5分どころか30分が経過して、そうこうしているうちにホテルに備え付けてある時計の目覚ましがジリジリと音を立てた。先生はびく、と身体を震わせて小さく呻き声を上げる。あはは、もしかしたら先生は朝が弱いんだろうか。

「おはようございます、イタチ先生」
「…んー…」
「早くしないと朝食バイキングの時間になっちゃいますよ、」
「…直ったのか?」
「え?」
「ドア」
「あ、ああ、見てきますね、」

と言って身体を離そうとしたところで、まだ抱き締められていることに気付く。もしや先生ってばまだ寝ぼけてる?もう一度顔を上げてみたけれど、先生は目をしっかり開けているし意外とちゃんと起きているみたい。でも、2本の腕が私から離れない。
仕方なく、私は起き上がろうと腕に力を込めた。

「…せんせ、」

ぐん、と腕が引かれてよろけた私の顔はイタチ先生の顔の前でぴたりと止まる。顔と顔の距離は多分、1センチくらい。心臓がばくばくとうるさくて、もう1回鳴り始めた目覚ましの音なんてイタチ先生が止める直前まで全く耳に入ってこなかった。目覚ましの音をきっかけに少し離れた私たちは、何事もなかったかのように身体を起こす。
さっき、目覚まし時計が鳴らなかったら。イタチ先生はどうするつもりだったんだろう。それとも、ただ単にまだ寝ぼけてただけなのか、それとも。あのまま、顔がもっと近づいていたり、くっついちゃってたり、したんだろうか。
そんな複雑な気持ちで回したドアノブは、少し重たいながらもゆっくりと開いた。

「せっ、先生!イタチ先生!ドア開きました!」
「あれから直してくれたのか…良かった…」
「私、荷物受け取ってきますね!カカシ先生が預かってくれてるみたいなので、」
「…ああ」

少し耳障りな音を立ててドアが閉まる。
それを確認して、俺は拳を布団に叩きつけた。俺はさっき、彼女に何をしようとした?抱き締めて、抱き寄せて、腕を引いて近づけて。それからどうするつもりだったんだ。もしキスをしたとして、それからどうなる?嫌われたとして、遠ざけられたとして、なにも良いことなんてありゃしない。
そもそも、自分の立場を考えろ。

「俺は一体…何がしたいんだ…」

彼女が部屋を出て行く時のあの乾いたような笑い顔が目に焼き付いて離れない。
困らせてしまったか。これから、まだ修学旅行はあと2日もあるし、そもそもこのクラスの副担任なのだから生徒たちとは1年付き合っていくことになる。今やりづらくなったら元も子もない。
でも、そうだとしても。サスケの同級生で家が近いと言う手前、かまいすぎたのか。だから、必要以上に惹かれてしまったのか。あるいは、もしくは。

いや、考えていても仕方がない。

「イタチ先生、先生の手荷物も受け取ってきました!」
「あ、ああ…ありがとう。」

とりあえず俺は、教師としての職務を全うしなければ。
そう念じて、朝食へと向かうために彼女から手荷物を受け取りながら部屋の扉を閉めた。


(20131203)

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thanx!! :)


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