時経て更に珠の如く


「…そ、そん、な、」

ぱたぱたと畳へ落ちる涙もそのままに、私は目の前の忍から目をそらせずにいた。その顔を見てはっきりと思い出す、数年前の思い出。思いのままに交わした愛の言葉。この簪を手放せない理由。そうだ、私は、私は、心のどこかできっと待ってたんだ。あの日あの時夢中で恋した彼のことを。真っ直ぐな愛情を私にくれた、彼のことを。
彼はひたひたと私の目の前へ歩み寄って屈み込み、視線を合わせた。右手の親指で涙を拭い、私を掻き抱く腕は逞しい。どうしてだろう、私に何も言わず消えたことを咎め立てたい気持ちは山ほどあった筈なのに、それはいつの間にか泡となり消えていた。それほどまでに私は彼のことを待ちわびていたのかと自分でも驚く。と、同時に胸中に蠢く罪悪感。そうだ、私はもう数年前のように綺麗ではない、身体も、心も。彼に初めて抱かれた時とはまるで別人な私を、彼はなんと思っているのだろうか、全て知ったら、穢らわしいと罵るだろうか。もうそんな女に興味はないと言って潔く捨て去るだろうか。

今更、自分は花魁だと言うのに、何をそんな馬鹿なことを。

「やっと…会えた、」
「…主様、どうして…」
「成せばならぬことがあった。お前も聞いただろう、俺の一族が滅ぼされたと言う話を」
「辛いことなど言わぬとも、わっちは主様にまた会えただけでも充分でありんす、」

ぬめり、突然首筋へ這った舌に肩を強張らせる。その後ちりりと走る痺れに身体を震わせれば、目の前の綺麗な顔はにやり口角を上げた。嗚呼、顔つきこそ大人びて変われど、やはり数年前のあの人そのもの、そう思ったらまた涙がこぼれる。その涙を追うように、頬へ彼の唇が落ちた。そしてそれはまた首筋へ、そして今度は胸元へ。躊躇いなく開かれた着物の間から見える乳頭に舌を這わせ、吸うだけで跳ねる身体。職業柄、慣れている行為とは言え愛する人にされるだけでこうも違うものかと身を以て知る。

「随分と…妖艶になった、」
「んっ、主様、こそ…」

すっかり火照った身体を布団に横たえられて、外套を横へ投げた彼は私の両足を開いた。足の付け根のその割れ目へ指を滑らせた瞬間、また上がる口角。羞恥のあまり顔を背けた私の秘部へ予告なく衝き入れられた男根に、歓喜の吐息が漏れる。随分と性急なところを見るに彼はどうやらあまり余裕がないようで、心なしか少し苦しそうな顔で私を見た。彼の首に腕を回せば彼も私の背に腕を回して、そうして自然と重なる唇、絡み合う舌と舌。ゆるゆると動く腰がなんとももどかしい。

「…愛している」
「わっちも、…主様だけをお慕いして、ああ!」

強く打ち付けられた腰からの快感に悶えながらも、私は彼に愛の言葉を告ぐ。ぐちゃぐちゃと卑猥な水音と肌のぶつかり合う音だけが響く中、彼が私の耳許で囁いた。

「名で…呼んではくれないか、」
「は、あっ、あ、イタチ、」
「…火芽、」
「イタチィ、イタチ、っんん」

深く塞がれた唇、ぐぐっと一層奥深くまで挿入された彼の男根は私の中へ精を吐き出す。その全てを余すことなく膣内へ注ぎ込むかの如く、果てた後も小さく律動する彼の腰。暫く舌を貪った後、彼は私の上に倒れ込んだ。大きく肩で息をするその様子に、思わず顔が綻ぶ。

「そんな大袈裟な、」
「大袈裟じゃない、こんなに我を忘れるくらい、ずっと会いたかったんだ。ずっと…こうしたかった。」

そう言いながらゆらりと腰を動かした彼の男根は既に硬く、私はまた微笑う。随分と元気、そう言えば彼は照れくさそうに顔を背けながら私の上体を起こした。自らの体重がかかりぎちりと深く繋がるそこにか細い悲鳴をあげれば、彼は満足そうに私の腰を掴む。そして何を思うたか、親指の腹で陰核を押し潰した。

「ひぅん!」
「火芽の膣壁が俺を締め付けてくるぞ」
「や、あ」
「これくらい慣れているだろう?」

なぁ?火芽花魁。
意地悪くそう言って彼は私の陰核を休みなくぐりぐりと押し潰し、撫で回しながら首筋や胸元へと紅い華を幾つも散らしていく。私は陰核への刺激のせいで腰をびくびくと跳ねさせるけれど、彼が腰を強く押さえ込んでいるせいで逃げることはできず、むしろ彼の男根に自分から腰を打ち付けるようなかたちになってしまい、結局のところ快感は倍になって止めどなく私を襲い続けた。

「こ、こんな、っ、初めてっ」
「善いか?」
「んんっ気持ち、い、」
「イって良いんだぞ」
「だめ、おかし…っなる、」
「どうなる?」
「なにかが…出、っ」
「…出せ。」

私の言葉を受けて、彼が先程よりも幾分か強い力で陰核を刺激し、腰を振る。私は今までに経験したことがないほどの快感に目眩を感じながら必死で彼の身体にしがみつき喘ぐことでいっぱいいっぱいだった。けれど段々と込み上がる妙な排泄感には逆らえず、遂に私は嫌々と首を横に振る。しかしそれを見た彼は手を止めるどころか、更に動きを速め私の耳を舐めた。もう、弾けてしまう。

「火芽…イけ、」
「やっ…やぁ、ああ!あ!!」

びくんと身体が跳ねた瞬間、ぷしっと音を立てて噴き出した透明の液体。さながら尿のようではあるが、匂いも色もまるで違うそれは私と彼の結合部を伝い布団を濡らした。いつの間にか愛撫の手を止めた彼が私へ口づけを寄越す。それに酔いながら、私は全体重を彼の胸に預け、くたりと意識を飛ばした。




(20130704)


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