初冬
(イタチ)




今は冬の初め、白鳥が空を舞う季節。私は長期任務から帰宅したばかりで、中忍試験を終えたばかりのサスケと一緒に買い物に出かけていた。サスケはあれから逞しく育ち、最近はカカシに千鳥を教えてもらったと得意げに報告してきたほどだ。しかし千鳥を習得した本当の理由が「中忍試験合格」ではなく、あの人への復讐のためだと知っている私は辛くて仕方がない。結局、彼の思惑通り、サスケは彼を憎み恨みながら今日まで生きてきてしまっている。彼のこの捻じ曲がった考えをどうにかして緩和できないものかと試行錯誤しながら歩いていた時、ふと、甘味処の前でカカシと出会いサスケは呼び止められた。と、同時に私は不穏な空気を感じる。久々に感じる、この嫌な予感は絶対に勘違いなどではない。

「サスケ、良いねぇ**と買い物なんて。」
「うるせぇ。」
「…なんか食べてく?」
「俺は甘いものが嫌いなんだ。」
「ねぇ…サスケ?これ、先に家に持って行っててくれない?私…買い忘れちゃったものがあって。」
「おぅ。」

私が踵を返して走り出すのと同時に動き出したカカシ、アスマ、紅。やっぱり何かある。とりあえず無作為に思いつくまま里の端の人気(ひとけ)のないほうへ走る。と、黒いコートを着た男2人組が視界に入った。1人は明らかに背が高く大きな獲物を担いでおり、なんだか嫌な雰囲気を纏っている。顔は目深にかぶっている笠のせいで確認できないが、里でこんな人物は今まで見たことがない。久々に腕のなる状況に気持ちを落ち着かせながら、私は深く息を吸った。

「…不法侵入者かしら」
「女を削るのは少々気が引けますが…まぁ、仕方ないですかねぇ」
「**!そいつらには近付くな、お前は帰れ!!」
「アスマに言われる筋合いはないわ。馬鹿にしてるの?」
「違う、奴はそう言うんじゃない!」

私の後を追って来たらしいアスマと紅に呼び止められ、私は彼らの方へ顔を向ける。なぜ実力のある自分を帰したがるのか謎で仕方ない。『そう言うんじゃない』って、どういうこと?まさか、この人たちは私の力が目的とか?それとも、それとはまた別の理由があるの?だとしたら、一体。

ちりん、

途端、背後から聞こえた鈴の音。少し遅れてアスマの舌打ちが右耳を過った。侵入者の方を振り返って私が見たものは、

「うちは…イタチ…!」

一時も忘れることなく愛し続ける人、私がずっと逢いたいと待ちわびていた彼そのもので。最後に会ってから数年経ち、だいぶ大人びた彼は思ったよりずっと、ずっと憂いた眼をしていた。私はあまりの驚きに声も出せず、紅に押しやられるがまま後方に下がった。なんで今、このタイミングで?ハッと気付いたときには目の前に長身の忍の大きな刀が迫っていて、私は思わず声をあげてギリギリのところで避けきった。

「**!」
「しっかりしろ!戦えないなら帰れ!」
「…カカ、シ、」

私は、ここでイタチと戦わなければいけないの?なんのためにこの数年間、里で大人しく生きてた?ただ、私は彼のために、彼と私が出逢う日まで約束を守ってただけなんじゃないの?彼だって、自ら私と結んだ約束を果たしてくれた。また、こんな私に逢いに来てくれたんだ。自らの命を危険に晒してまで、里に戻ってきてくれたんだ。

「イタチ…お願い…私、どうすれば良い…?」
「…俺が**を拒むことはない。」

彼の声を聞いた瞬間溢れ出す涙。つまりは、ねぇ、私これからはあなたと一緒に居れるってこと?もう我慢しなくても良い?1つ1つ思い出してみれば、木ノ葉で上忍には就任せず、ひたすら暗部でSランク任務をこなしていたのは、強さにこだわったのは全部イタチのためだった。里を離れたあとも、彼はずっと私の中で生き続けていたの。

「**!!」

紅が私の名を叫んだけれど、私が振り返ることはなかった。イタチの目の前で崩れ落ちるカカシに手を差し伸べる気は毛頭ない。私は5年前のあの残虐な出来事があった日から、彼のために生きるって決めてた。もう充分我慢したし、頭がおかしくなりそうなほど待った。

「本当に…良いんだな。」
「そんな安っぽい未練、持ち合わせてないわ。」

そう言って私は額当てを外し、真ん中に亀裂を入れる。これは忍が里を抜けた証、私が彼についていくと言う印。決して勢いなんかじゃない。私はこの時をずっと独りで待ってたんだ。後ろで、今さら駆けつけたマイト・ガイがなにかを言っているのがうっすらと聞こえるが、時すでに遅し。

「あなたたちが私たちがこうなっていることについて何も知らないと言うことは、もはや罪よ。」


初冬

(でも、それでも満たされないこの心は一体何を望んでいるのでしょう?)



2013/2/22
朱々



[*←] | [→#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -