(イタチ)



あの夏に聞いた衝撃的な言葉から、早数ヶ月が経過した。私たちはあの後暗部の部隊長昇格Sランク任務を無事にクリアし、新人を育成しながら部隊長として任務をこなしている。当の彼は非常に気丈で、2人きり以外のときはその辛さや悲しみを全く表に出さず、黙々と任務を遂行する毎日を送っていた。でも、夏の夜のイタチの言葉で私たちの生活はがらりと変わってしまった。見るもの、感じること全てを絶対に忘れまいと、私はあらゆる思い出を物で残したがった、例えば、ミコトさんが私に作ってくれる美味しい料理のレシピをわざわざ頼み込んで書いてもらったり、全く物を欲しがらなかった私が、フガクさんに頼み込んで愛用していた手裏剣を1枚もらったり。そんな風にうちは一族のみんなと積極的に関わっていく私を見て、2人とも凄く喜んだ。逆にそれが後々私自身の首を締めることになるだろうと解ってはいても、止められなかった。とにかく今このときは幸せを噛み締めながら生きたい。その代償として、いつか襲い掛かる悲しみが私自身への戒めになるだろうから、と、自分でも意味のわからないエゴを貫き通していた。

「…明日の満月の夜、決行することになった。」
「…そう…」

平和な日常が続いていた、とある日の夜、イタチが私に弱々しくそう告げた。予想していたことだけに私はただ頷くことしか出来ず、2人の間には長い沈黙が流れる。暫く時が経った後、彼は私の隣に座り直し、私の手を握り、私の目を見て言った、

「俺には、**を幸せにしてやることができない。でも、それでもここまで一緒に来てくれたこと、本当に感謝しているし、俺は**なしでは生きていけないほどに**を愛している。…だからこそ、**には心から頼みたいことがあるんだが…」

ここまで台詞を聞いて、私は彼が言わんとしていることがなんとなく解ってしまった。本当は聞きたくない、私はこれからもイタチと一緒に居たい。けれどその私の想いはやっぱり彼の言葉によって打ち砕かれたのであった。

「サスケのことを、暫く見てやってほしい。」

あー、やっぱりね。って、少し不謹慎な考えが脳裏をよぎる。確かに、まだ下忍にもなっていないサスケを1人里に残していくのは気が引けてしまうけれど、私が一緒に居たいのはイタチな訳で、でもサスケも気になるわけで…あぁ、こんがらがってきた。とにもかくにも、彼が私に言いたいことは「里に残ってサスケの面倒を見てほしい」と言うことだ。断ることも、はたまた素直に受け入れることもできないその要求に、私は勿論戸惑った。イタチの願いならなんでも聞き入れたいと思う。思うけれど、それを受け入れたら、きっと私たちはこの先ずっと、下手したらもう一生会えなくなるかもしれない。そう考えたら、簡単に首を縦に振れなかった。

「…もちろん、あなたの言いたいことは良く解るわ、だけど…私は、イタチの傍に居たい。」
「『もう会えない』なんてことは絶対にない。それは俺が保証する。」
「保証なんて…そんなこと言ったって、どうやって、」
「…すまない…**、また今度だ。」

とん、

と言う歯切れのいい音を聞き終わらないうちに、私の視界と意識はそこで途絶えた。いくら私が彼に気を許しているからって、それはずるい。目が覚めた時にはもうすっかり日が落ちていて、私は焦る。まだぐらぐらと揺れる頭を抑えながら、無我夢中に家を飛び出し必死で走った。まさか、もう間に合わないだろうか、彼はもう、独りで実行してしまっているのだろうか。あの、非常に恐ろしい最後の任務を。夏に聞いたおぞましい言葉 -うちは一族の殲滅- を。やっとの思いでうちは一族の家紋が描かれている暖簾をくぐった瞬間、ツンと鼻を突き抜ける血液の臭いに顔をしかめる。もう、遅かった。でも、それでもまだ私は諦めずに彼の家を目指した。荒々しくドアを開け、土足で上がり込む。幸い、彼等の気配はまだここにあった。

「…そうか、お前は、自分の意思でそう決めたんだな。」
「…はい。」
「お前がそう決めたのなら、それでいい。自らを責めることはない。」
「…父上、母上、…っ、」
「イタチ!!」

フガクさんとミコトさんの後ろ側に刀を持って立つ彼の姿を見た瞬間、居ても立ってもいられなくなった私は衝動的に彼を後ろから抱きしめていた。顔を見なくとも、彼が泣いているのがわかる。ミコトさんが驚いてこちらを振り返り、私に向かって笑顔で切なそうに告げた。

「**ちゃん、…もう、いいのよ。」
「お母様!だって!!」
「**、…イタチとサスケのことは、頼んだぞ。」
「…そ、そんな、」

途端に力が抜ける私の、なんと無力なことか。もう今しかないと言うのに、伝えたい言葉すら思い浮かばず真っ白な思考回路。私の力が抜けた瞬間、両親に斬りかかるイタチの背を見ていることしか出来なかった。
それからはもう、本当に悲惨だった。アカデミー帰りのサスケが丁度現れてしまい、イタチはその行き場のない感情を発散させるかの如く、サスケに自らを悪だと刷り込ませた。もともと「そうする」と聞いていただけにある程度シナリオは解っていたつもりだったが、実際にそれを目の当たりにして、改めて実行することの残酷さを叩きつけられる。彼は、こんな風に利用されるために産まれてきたわけじゃないのに。

「…イタチ…」
「サスケは頼んだ。…本当に…心から愛している。」
「…ずっと、待ってるから。」

そして彼は大切なものを2つも里に残したまま、里を去ったのであった。




(そうして、私たちの恐ろしい【子供】時代は幕を閉じる。)



2013/2/21
朱々




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