馬鹿は風邪引かない



cayo様へ 40000Hit記念



はあ、と大袈裟に吐かれた溜め息がやけに耳障りで、私は目を覚ます。ぼやけて見える視界の端には冷水にくぐらせたタオルを絞るサイの姿。寝起きのせいか声がうまく出せそうになかったので、ゆらゆらと腕を動かし彼の膝を叩いた。彼は驚いた顔をしてこちらを見たが、すぐに笑みを浮かべた。額に乗せられたタオルがひんやりと心地よい。

「やっと気がついたんですね。」

安堵の表情を浮かべた彼は、私の手を取りぎゅっと握る。さっきまで冷水に触れていたその手もひんやりとしていて、その気持ちよさに思わず目を細めた。逆に彼は私の体温の高さに顔をしかめ、体温計を持ってきて私の口に突っ込む。

「んむ、」
「少し我慢してください。なにか食べる元気はありますか?少しでも食べていただかないと薬が飲めません。」

淡々と話してはいるが、サイはあぁ見えて割と焦っている。体温計をくわえているために話せない私は、適当に んー、と唸った。回りを見渡すと、どうやら私が寝ているのはサイの家のようで、今までの記憶が少し曖昧な私は首を捻る。彼はそんな私にお構いなしの様子で、私の口から体温計を抜き取り心配そうな顔をした。

「38.6℃!なんでこんなになるまで僕になにも言わず無理するんですか!」

普段はとことん大人しい彼が珍しく声を荒げる。嗚呼、思い出した。私は昨夜微熱があるにも関わらず身体に鞭打って任務に赴いたのだった。彼の方を見やれば、これまた珍しく怒った顔。これ以上なにか言われるのも面倒なので、ふいっと目線をそらして知らんぷりをする。

「任務から帰る途中、倒れたんですよ。○○は、それからずっと熱に魘(うな)されながら眠り続けてました。」

怒られると思いきや、私に与えられたのは彼の優しい手のひらで。それが髪を撫でたので、驚いて彼の方を向けば強く抱き締められて。ここで少し罪悪感に胸がちくりと痛んだ私は、彼を抱き締め返す。

「ごめんなさい。」
「雑炊とうどん、どちらが良いですか?綱手様から解熱剤をもらってあるので、早く飲みましょう。」
「うどんが良い、」
「わかりました。少し待っててくださいね。」

するりと私から身体を離すと、触れるか触れないかくらいのキスをして台所に向かった彼を笑顔で見送る。暫くして部屋に立ち込めた良い香りを吸い込めば、腹の虫がぐぎゅりと鳴った。それはどうやら彼にも聞こえてしまったようで、くすくすと笑いながらこちらに食事を運んでくる彼と目が合うと、私も微笑を返す。いただきます、と言ってちゅるりと口に入れたうどんは、温かくて優しい味がした。

「おいし、」
「それにしても、○○が風邪を引くなんて本当に珍しいですね。馬鹿だと思ってたのに」
「ごふっ」

笑顔で悪気もなく私にとんでもないことを言うサイ。そもそも馬鹿は風邪を引かぬと言うのは、馬鹿は馬鹿だから風邪を引いたのにも気付かない、と言う意味であり、文字通り風邪を全く引かないと言うことでは断じてない。若干頭にきた私は彼に歯向かう。

「サイにうつしてやる!」

ばっ と飛びついて唇を深く重ね合わせた。が、それを嫌がると思っていた私の予想に反してどことなく嬉しそうな彼は、あろうことか舌を差し込んでくる。くちくちと音を立てて暫く続いたディープキスに、私はすっかり息を乱されていた。そしてそんな私を見て、彼は勝ち誇ったように笑う。

「僕が風邪を引いて寝込んだら、○○が付きっきりで看病してくださいね。」

彼はまた、私に唇を寄せた。


馬鹿は風邪引かない

(サイは風邪引いても気付かないんじゃない?)
(…熱出しててもやろうと思えば出来ますよ、僕は)
(ご、ごめんなさい)


2012/05/30
- 54 -

prev  +  next
(back)

thank you!! :)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -