さくらんぼ



リコ様へ 35000Hit記念



「ねぇ、イタチ、」

さくらんぼのヘタを口の中で結べる人って、キスが上手なんだって!と、彼女はまるで自慢するかのように俺に言った。だがその噂は既に知っており、しかも全く興味がなかった俺は彼女に大した反応も見せず、黙ったままさくらんぼを口に含んだ。噛んだ途端、甘酸っぱい果汁が口内に広がる。彼女は、つまらないと言った風に右手につまんでいたさくらんぼのヘタを種と共に小皿に放り入れた。

「ねぇ、」
「なんだ、」
「今の私の話、聞いてた?」
「…ああ」
「やってみて。」

彼女は、まだ手をつけられていないさくらんぼからヘタをむしり取り、俺に手渡す。俺の考えが当たっているのであれば、恐らくこのヘタを口の中で結べと言うことなのだろう。しかしアカデミーの頃から成績優秀だった俺は(多分関係ないだろうけれど)、全く別の答えを導き出した。テーブルを挟んで俺の向かい側に座り、さくらんぼをもぐもぐと咀嚼しながらこちらを見ている彼女の後頭部に素早く手を回す。案の定じたばたともがいたが、唇の隙間から舌を捩じ込むと大人しくそれに応えてきた。そしてさくらんぼ味の其れは暫く続く、

「っ、ん、んん、は、あ、」
「これで満足か?」
「…ちが、う!」
「どこが違うんだ、」

上手なキスをして、と言うことだろう?と彼女に言ったら、さくらんぼみたいに顔を紅くしてそっぽを向き、ぶつぶつとごねている。かと思いきや、にやりと笑って俺に反論してきた。

「イタチは自分のキスに自信、あるんだ?」

こいつ、ついさっき俺のキスで甘い声を漏らしていたくせに何を言う。完全に負け惜しみの口から出任せである。そっちがその気なら、と、俺は柄にもなく珍しく彼女に挑発的な言葉を返す。

「文句があるなら、今すぐ俺にもっと上手いキスをしてみろ。」

ずい、と彼女に顔を向ける。彼女は俺が話に乗ってくるとは思わなかったらしく想定外のことに動揺し目を泳がせているが、今更引くつもりはない。催促するかのように両手の平で顔を押さえつけた。

「や、やめて、」
「先に喧嘩を売ってきたのは○○だろう?お前が断る権限はない。」
「っ…」

数秒の沈黙の後に、彼女は俺に触れるか触れないかのキスをしてパッと離れ、先程よりも紅い顔で俯いて小さくごめんなさい、と呟いた。それが思いの外 俺には刺激的で、煽られた感覚に陥ったその脳が出した答えはまさに動物的だった。彼女を胸中に強く抱けば、空気を求めて上がる顔。

「は、あんっ、ん、」

ベッドまでの距離が酷く煩わしい。いっそこのカーペットの上で抱いてしまおうか。そんなことをぼんやりと考えていた時、悪魔はやって来る。

「あのー、○○さん、さっきのさくらんぼ、私にも少し頂けませんか?」

ドアを少し開けて遠慮がちに問うたその声を聞いた瞬間緩んだ俺の腕を押し退けて、彼女は声の主の方へ小走りで向かった。そして何事もなかったかのように会話し始める。

「ごめんね鬼鮫、あまりの美味しさにすっかり忘れてた。」
「良いんです。それより、顔が紅いですが大丈夫ですか?まるでさくらんぼの様ですよ、くくっ」

2人の会話を呑気に聞きながら、俺はこれから○○をどう味わってやろうかと思い巡らせていた。とりあえず、鬼鮫を笑顔で見送った彼女を逃がさぬよう、彼女の名を呼ぶ。やはり彼女の頬は未ださくらんぼのように紅く色づいていた。


さくらんぼ

(美味しくいただきます。)


2012/05/29
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thank you!! :)



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