「最近よく眠れないのよねー」
「寝不足なのか?」
「なんか、眠りが浅いというか…」
「サソリさんにでも聞いてきたらどうだ、確かあの人薬に詳しかっただろう」
「あ、うん、そうしてみる」

何気なく悩みをこぼしてから数十分、意外にも笑顔で戻ってきた彼女は持ってきた小瓶をぷらぷらと見せながら「よく効く薬をもらったの」と嬉しそうに言った。同室の住人であり、彼氏であるイタチは良かったな、と一言つぶやき、視線を手にしていた書物へと戻す。休日の彼が本の虫になることはわかりきったことだったので、さほど気にせず小瓶の蓋をきゅるりと開けた。なんとも言えない嗅いだことのない香りが鼻腔を刺激する。流石に一応仲間だし、命に関わるような薬を渡してくることはないだろう。効果抜群と言っていたから、それも試してみたいし。ああ、効果抜群ということは、飲んですぐに眠たくなってしまうのだろうか。それならベッドの近くで飲もう。
そんな考えのまま、寝室のベッドに座ってそれを一気に飲み下し、サイドテーブルに空の瓶を置いて布団に潜り込んだ。

までは、良かったのだ。

しばらく経っても、眠気は来ない。
それどころか身体が火照り、目が冴える。これでは全くの逆効果じゃないか。それどころか、寝返りを打つだけで身体を襲うこの痺れるような感覚はなんなのか。気のせいでなければ、この感覚は時間が経てば経つほど敏感になっているようにも思える。頭がだんだんぼうっとして、これは、この感覚はもしや、と思いつつ、それを認めたくないヒメはとりあえずイタチに相談したくて布団から這い出ようとした。

「ひゃ、あ、」

が、がくんと腰が落ち、立とうとしているのに足腰がまるでいうことを聞かない。
同時に気づく。下着が嫌というほどに湿っていると。この数分で…汗、では、ないだろうし。

「どうした?何かあったのか、」
「や、やだ、来ないで…!」

制止虚しく、一足早かったイタチが寝室の扉を開ける。
きっと自分でもわかるくらい身体が火照っているのだから、顔は真っ赤になっていることだろう。しかも今はまだ昼間だ、明るい室内ではこの状況を隠せるわけがない。
満足に身動き取れない私に近づいた彼が「大丈夫か?」とぽんと肩を叩いた瞬間、私の身体は想像以上にびくんと跳ねた。

「ああっ!!」
「す、すまない」

そしてまたじわりと滲む下着、生理的に溢れる涙を拭うこともできぬまま、私はようやく自分が飲んだ液体がなんだったのかを悟り始める。こんなものを寄越したサソリのことはあとで処理するとして、今はそんな場合ではない。更に言えば、まだ昼間だとか、そんなことを考えている暇もなさそうだ。
ばくんばくんとうるさい動悸が頭を支配する。
ああ、イタチにどう思われようが、いいや。

震える手で、彼の服の裾を握った。

「ヒメ…?」
「イタチ、」
「体調がそんなに悪いのか、」
「えっち、しよ…?」

彼の返事は、待てなかった。
そのまま服ごと手繰り寄せて口を塞ぐ。
抱き締められた瞬間また身体が跳ねて、その度にもう気を失ってしまいそうだ。
絡み合った舌がビリビリと痺れて心地いい。もっと、もっととねだる私の下半身へと手を伸ばしたイタチが、茶化すように耳元で囁いた。

「さっきまで1人でシてたのか?」
「ちが、う、ひああっ」
「いつもよりびしょびしょじゃないか」

彼の2本の指が、円を描くように私の蜜口を撫でる。
私は今すぐにでも突っ込んで掻き回して欲しいのに、それを知ってか知らずか愉しそうにゆっくりと指を動かす。取り払われた衣服をベッド脇に落として、赤い舌が胸の頂きをちろちろと刺激した。なんでだろう、もうだめだ、これだけで達してしまいそう。ぎゅうと握った腕の力でそれを察したのか、彼の口が私の口へと戻ってきた。深い深いくちづけを落としながら、2本の指で陰核を捏ね潰す。

「んっ、んっ、んん!」
「本当に今日はどうした?まだまだ序盤だぞ…」

そう言いながら、達したばかりの膣内へ指を押し入れる彼も大概だ。もう、挿れてもいいとわかっているのに。わかっていながら、彼は私に挿れようとはせずに様子を見ては微笑んでいる。わざとらしく「気持ちいいか?」なんて聞きながら、膣壁をなぞり私の懇願を待っているのだ。
痺れを切らし、震える右手で彼の下半身の中心へと手を伸ばす。もうすでに反応しきっているそれを握って上下に擦ればぴくんと震えて。随分準備万端じゃないと思いつつ、一気に下着をずり下ろした。ちょっと積極的すぎるんじゃないか、なんてお咎めは無視だ。てらてらとぬめる先端、血管が浮き出るその雄を根元から舐め上げればすぐに聞こえた呻き声が嬉しくて仕方ない。その辛そうな吐息を聞くだけで腰が震えるのだから私も充分おかしいのだけれど。
一層張り出た先端を口に含み、柔く吸えば我慢できずに動く腰。そのまま顔を上下に動かし、彼の余裕を更に奪っていく。やめろ、なんて言われたところで止める気もない。いよいよ彼の呼吸が荒くなってきたところで、両肩がぐっと押されて雄が一気に遠ざかった。

「やめ、ろ、」

そのまま押し倒されたかと思えば、両足をこれでもかというくらいに大きく広げられて可愛げのない声が出る。そんな私を見下ろしながら、彼は膨張しきったそれを蜜口に擦りつけた。
でも、なかなか入っては来ない。ぐりぐりと押し付けられて、撫で回されて。なのに彼はそれ以上腰を進めようとはしなかった。

「イタチ…」
「どうしてほしい?」

なんて、なんて意地悪な質問だろうか。
こんなになるまで弄って、弄られて、さあこれからやっと本番だという時に全くこの男は。
でも、いつものように意地を張っている余裕なんて、今の私にはまるでないのだけれど。

「今すぐ…いれてほし、い、ああああ!」
「今日は素直だな、」

ずん、と一気に挿入ってきたそれに目眩がする。
言い様のない感覚が身体中を支配する。
太股の裏をぐっと押され、彼が腰を打ち付けるたびに私の喉から厭らしい音が鳴る。
もっと、もっとたくさんちょうだいとばかりに彼の首に巻き付いた私にキスの雨が降る。
口の中で絡み合う舌に夢中になっていると、腕を引かれて抱き起こされた。水音を立てながら沈む腰がびくびくと反応する。一番深くまで侵入したそれは私から理性という理性を全て奪うかのごとくいいところを的確に突き上げてくるのだからどうしようもない。逃げようとする腰を抑えて、文句を言おうとする口を塞いで、抵抗しようとする手を片手で制して、彼は私を貫く。
生理的な涙をぽろぽろと流す私に愛していると何度も呟いて、嗚呼、もう、

「イ、タチ、もう、だめ、」
「んっ、は、あ」
「きもち、いい、きもちよすぎて、おかしっ…なる、」

どちらからともなく重ねた唇、目の前がチカチカ輝いたと思った瞬間、私は意識を手放した。


特製媚薬



「ん…」
「やっと起きたか、気分はどうだ」
「…悪く、ない」

真っ暗な部屋で、私は目を覚ます。
私を抱きしめるようにして隣にいてくれたイタチに時刻を尋ねれば、丁度丑三つ時だという。ということは、私は半日以上寝ていたことになるのだろうか。
それよりなにより、事の発端はサソリが渡してきた変な液体だ。身を持って知った身体の変化からして、あれは絶対に媚薬の類だろう。許してはおけん。

「…あの薬だが」
「うん、あとで文句言わなきゃ…」
「サソリさんにまたお願いしますと言っておいた」
「はあ!?」

驚きのあまり大声を出して飛び起きる。
あ、あんな恥ずかしいことになる薬、2度と飲みたくないのに、この男は一体何を考えているんだ。

「ぐっすり眠れたんだから、効果はあっただろう?」
「いや、だからってねえ、」
「ちなみに俺は全然眠れていない。ヒメ、もう1回だ」
「え!?」


(20141126)


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