肌を撫でるように吹く風に、なんだか肌寒いなと布団をたぐり寄せる。
風の吹く方を見れば、たしかに窓が少し開いてすきま風が入ってきてしまっているようだ。寝る前はちゃんと閉めたはずなんだけど。そう思いながらも、眠い身体に鞭打って再度窓を閉めるために起き上がる。
鍵をかけて、よし、これでもう大丈夫とベッドに戻ろうとした瞬間、後ろから口を抑えられて目を見開いた。
突然なに?誰!?
思い切り身をよじったけれどびくともしない背後の人物は、そのまま私をくるりとベッドのほうへ向かせてうつ伏せに押し倒す。おでこからベッドに沈んだ私、両手はがっちりと掴まれていて振りほどけない。微塵も抵抗できないこの状況に涙が滲んできたところで、耳元に熱い吐息と聞き慣れた声がかかった。

「随分と無防備な格好でうろついてんなァ、ヒメちゃんよお」
「んっ、んんっ」
「久々に会えたってのにちっとも嬉しそうじゃねえなァ」

ま、それも当然か、なんて零しながら、声の主は私の口を抑えていた手を離してつうと太ももの内側をなで上げる。無防備な格好、って言ったって、ただの寝巻きのキャミソールとショートパンツだし、逆に勝手に欲情されたこっちがたまんないっての。
そう言い返そうとした矢先に引き摺り下ろされたショートパンツはあっという間に床に落とされ、少し骨ばった指が下半身の割れ目をゆっくりとなぞった。

「ちょっ…サソリ!いきなりなん、っ!」
「うるせェな…久々に帰ってきたんだから慰めてくれたっていいだろ?」

抗議しようと開いた口に舌を挿し込まれて、絡め取られてしまえばもうなんの抵抗もできず、いつの間にか自由になっていた手でシーツをきゅっと握る。
割れ目をなぞっていた指がショーツの隙間から入ってそこに直に触れたことでふるりと震えた腰、くつくつと楽しそうに喉を鳴らしながら中へ中へと指を侵入させる彼に私はもう半ば諦め気味だ。
彼が夜に帰ってくると大体毎回彼の欲のままに食べられておしまい。そんな日常に慣れてしまっているのもどうかと思うけれど、慣れなきゃ慣れないで頭が追いつかないのだから致し方ない。

けれど、指を抜き差ししながら器用に服を脱いだ彼が、もうそろそろかと言うところで突然ぴたりと動きを止めてその指を抜いた。
突然遠のいた快感に何事かと後ろを向いて目で訴えたけど、彼は私の方すら見ずに「忘れてた」と一言漏らしてベッド脇に置かれていたビニール袋へと手を伸ばす。その中から出てきた白い箱に書かれた「0.02」の数字を見るなり、私は思わず笑顔になった。

「ゴム買ってきたの?珍しい!」
「まあいいから黙って抱かれとけよ」

いつも何回やめてと言っても避妊してくれないサソリに、何度溜め息をついたことか!
何があったのか、なんでこのタイミングなのかはさっぱりわからないけど、つけてくれるならそれに越したことはない。ありがとサソリ、と珍しく自分からキスを贈った私に、彼もまんざらではなさそうな表情で応えてくれた。
普段つけないくせに、そこはやはり男だからなのか妙に慣れた手つきで開封するサソリをまじまじと観察しようとしていたところで

「見せもんじゃねえぞ」

そのまま優しく押し倒されて、私の両足の間に彼の身体が割り入り、ゴムをつけたサソリのそれが、ゆっくりと私の中に入っ…て…?

「…あれ?」
「なんだ」
「…なんか…サソリのじゃないのが入ってる気がする」
「…いや…気のせいなんじゃねえのか、…それともお前、他の奴に抱かれでもしたか?萎えること言うんじゃねえよ」
「違う!そんなことないよ!でも、だって、これ絶対なんかおかし、」

ウイーン

ふと聞こえた機械音と、股間に感じた違和感に慌てて上体を起こす。
私の下半身の中心に向かってサソリの右手が伸びていて、彼が掴んでいるものは私の中に入っている。そして肝心の彼が握っているものは、とても鮮やかなピンク色をした、いわゆる大人のおもちゃと言うやつで…、

「さ、サソリッ、ちょっと、これ、」
「分かったから大きな声出すな、…ったく、お前気づくの早すぎなんだよ」

どっちにしろ萎えたわ、と言いつつも手に持ったままのそれを抜き差しする手を止めないサソリを少し冷めた目で見ながら、ああ、ゴムって自分に使うんじゃなくてこれに使うためだったんだなと気づいた私も気分的にはだいぶ萎えている。
休みなく動くピンク色に演技の喘ぎ声すら出す気にもなれず、ひたすら続く沈黙の中、ウインウインと機械音だけが虚しく響いていた。

「…これ、どうなんだ」
「どうって…私のリアクションからしてお察しでしょうよ」
「だよな」

だけど、そっからよがらせんのがいいんだよなァとサソリが呟くのと、
とにかく異物感がひどいと私が唸ったのはほぼ同時で。
ん?と聞き返す暇なく私をまた押し倒して口を塞いだ彼は、中に入ったままの右手のそれを思い切り奥まで捩じ込んだ。

「んー!!」
「これでも一応性感帯を刺激するアダルトグッズなんだから感じねえわけはねえよな」

中を抉るように半回転させながら抜き差しを繰り返されれば、そりゃ流石に私だって濡れるしそれなりの快感は感じてきてしまうわけで。
正直、もうこんなおもちゃなんてやめてサソリが欲しい。訴えるように彼の胸を叩くけど、それを自分の都合のいいように解釈したサソリは私が気持ちよさ過ぎてどうにかなりそうなのだと勘違いしたらしい。

「イくならイけよ」

なんて耳元で囁きながら鼻を鳴らして満足そうな顔。
だから違うんだってば、これじゃなんか…なんか物足りなくてイけないの!
ぶんぶんと首を横に振る私にやっとなにかを察したのか、右手の親指の腹でクリトリスを擦り上げながら、もう一度手にしたおもちゃをさっきまでとは比べ物にならないほど勢いよく動かし始めた。

「は、あ!」
「俺がお前のイイトコ知らないとでも思ったか?さっきまでのは遊びだ、遊び」

今のこれもあなたにとっては遊びなんじゃないの…と言ってやりたかったけど、その言葉たちは全部喘ぎ声となって部屋に響く。やだ、こんなんでイきたくないと思いつつも、サソリの言葉通り私の感じるところを知り尽くしている彼は私を攻め立てる手を止めようとはしない。今だってほら、キスされるの好きってわかってるから舌を絡めてくるんだ。ずるい。
ぐじゅぐじゅと聞こえる水音に羞恥心も麻痺してきて、奥ばかりを突いてくるそれにもう音を上げてしまいそうだ。

「や、やだあ、サソリッ」
「善くなれよ」
「イっちゃ、ああ!ああ、あ!!」

びくんと腰が跳ねて、体中の力が抜ける。
しばらくしてゆっくりと抜き出されたそれを、サソリがわざとらしく私の目の前に掲げた。そんなもの見たくないと肩を押せば、彼はさぞ楽しそうに笑う。

「さっきは全然感じてないみたいだったのに…たった数分でこれか?」
「最初っからこうするつもりでやったんでしょ、サソリの馬鹿!」
「馬鹿で結構」

でも、まだ終わらせやしねえよと口角を上げた彼は、今度はおもちゃを投げおいて自分の雄を私に押し付けた。もちろんそれにはゴムなんてついてない。
ずぶりと侵入した瞬間びくびくと震えた私を抱き締めて、なあ、実際気持ちよくてたまんねえんだろ?って、それを一番奥まで突き入れる。
そりゃ、あんな無機質なおもちゃよりサソリのが良いに決まってるじゃない。とは言わずに首に腕を回してキスを強請る私。

だから、もうあれは2度と使わないでってあとで文句を言っておこう。


禁断のオモチャ

(俺にとっちゃ、アンアン言ってるヒメのがオモチャみてえだったけどな)


20150109

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