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庭で遊ぶ短刀のみんなと主、それから縁側で見ている名前さんにおやつを持って行くと、主は短刀の子たちに童謡を教えているようだった。歌いながら主の動きを真似て踊る姿は大変微笑ましく、お鶴さんも無表情ながら愛しむ目で見守っていた。
おやつだよ!と呼びかけると元気に駆け寄ってくるみんな。主も一緒になってかけてくる。濡らした手拭いて手を綺麗にしてから、みんなで一緒にお団子を食べる。僕もご一緒させてもらって、食べ終わるなりお礼を言って遊びに戻る短刀の子たちを見送った。やっぱりみんな元気が一番だよね!
手伝うと言ってくれる子も行っておいでと送り出してお皿とコップを片していると、コップ集めを手伝ってくれている名前さんに主が話しかけた。

「みんな楽しそうだったろ。…なぁ。名前も何か歌ってみないか?今夜は満月だから、みんな歌って踊って大騒ぎだ。歌や踊りは、心をあらわす一番の方法だと思う。名前は普段そんなにもの言わないだろう?勿論全然悪いことじゃないが、たまには仕舞ってあるもの出さないとな!あ、楽器でもいいぜ。鳴狐は琵琶だ!」

主はその後もいつもの宴会の様子を面白可笑しく話す。僕も捕捉して話す。今夜の宴会、ぜひ名前さんにも楽しんでほしいな。

「ま、気が向いたらでもいいから、名前も何か見せてくれると嬉しい」

そう言いながら、主は皿と麦茶の入っていたボトルの乗ったお盆を持って歩き出す。僕も名前さんに挨拶し、コップの乗ったお盆を持って主を追った。

「光忠、今夜も美味しいつまみ期待してるぜ!」

「うん、任せてよ!でも、ちゃんとご飯も食べてね?」

わかってると軽く返してくる主に、先ほどのことを聞いてみる。

「何で名前さんに歌や踊りを薦めたんだい?名前さん、きっと内心は嫌でも、主のために何かするんじゃない?」

「そうだろうなぁ。でも、それでも名前には、何かしてほしかったんだ」

主は足を止めて振り返る。笑っているのに、目だけは寂しそうに揺らいでいた。

「名前も少しずつ笑うようにはなったが、まだ表情が薄すぎる。もっと感情的に動いてほしい。顔に出せなくても、歌やダンスや、それ以外でもいい。自分を表現することをしてほしいって思ったんだ。あいつは全部しまいこむからな。嬉しいならそれを表にもっと出してほしいし、爆発する前に気付けるなら、ツラい、悲しい、苦しいでもかまわない」

外に出してくれねえとわかんねえ駄目な主の、我が儘みたいなもんだな。と自嘲する主に僕は首を横に振った。

「我が儘じゃないよ。僕も名前さんの思っていることがわかればって思ってた。でも、思い詰めたらいけないし、無理そうなら止めてあげてね」

わかってると返した主はまた歩きだした。

「今夜は無理でも、いつかは…」

そう呟いた呟いた主の顔は見えなかったけど、きっと僕と同じような表情なんだろうな、と予想できた。

腕によりをかけて料理を仕上げ、場のせってぃんぐを終えるとだいぶ日が暮れた。慣れているみんなは自然に集まって来ていたので、宴会に参加するようくりちゃんを部屋から追い出し、しぶしぶ会場に足を向けた姿を見送ってそのまま名前さんを迎えに行った。
部屋から出てきた名前さんを見た瞬間、思わず息を飲んでしまった。普段下ろされている髪は所々編み込みながら上半分が結い上げられ、首筋があらわになっている。桃色の唇は鮮やかな赤で彩られ、目尻にも飾られた紅でたっぷりと艶に満ちていた。僕とくりちゃんで選んだ着物を着ていることに気づいて、即座にとてもよく似合っていると褒めた自分偉い。勿論お世辞などではなく、こーでぃねーとも決まっていて、名前さんの儚い美しさが一層際立っている。月が印象的な帯は三日月さん、金が然り気無く華やかさを添える髪紐は長谷部くん、繊細で可憐な桜の簪は一期さん、鮮やかな口紅は宗三さん、月の瞳が瞬くのを飾る化粧は次郎さんにそれぞれ頂いたものだとか。たおやかな手を飾る、桃色とその上にちりばめられた星の輝きの爪紅は加州くんが塗ってくれたとか。他にも山姥切くんが綺麗な布ををくれたくれたとか、とても雅な扇を歌仙さんに頂いたとか。そんなことを一生懸命話してくれる名前さんは嬉しそうで。表情がさほど変わらなくとも、たとえ自分のことを普段話さなくとも、お鶴さんは幸せを感じてくれている。そう確信出来た。だがーーー
自分は甘かったのだと、表面ばかりで安心してしまった自分は愚かだったのだと、
そう時を待たずに知ることになる。

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