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※名前変換無し
※かなり長い





とある少女がいました。
彼女は両親を事故で失い、駆け落ちした両親は縁を切っていたので親戚にも引き取られませんでした。
一人ぼっちだった彼女は最終的には孤児院に引き取られました。
その孤児院では、院長が気に入らない人は苛められていました。苛めないと自分も苛められるから子供達は皆その子を苛めていました。
でも、その少女はそれを拒否しました。
今は居ない優しい両親の元で育った少女は優しい子でした。
そんな少女を気に入らなかったのは院長でした。
院長は少女を少女だけを苛める様になりました。苛める事をわるいと思わなくなっていた子供達も院長を真似る様に苛めます。
少女が来るまで苛められていた子は唯一の味方でしたが、直ぐに新しい親へと引き取られました。
また一人ぼっちになった幼い少女の心はボロボロでした。
1年後、さらに心がボロボロになった少女を引き取ったのは狐の仮面を被った男性でした。
男性は何も話さず、少女の腕を強く掴んでひとつの建物に連れてきました。
薄暗く空気が重く、木や花は枯れていて、ボロボロの大きな家の前に少女を置いて何処かに行ってしまいました。
何も分からない、無知な少女はその大きな家へと入って行きました。
そこに確かに感じる"気配"だけを頼りにその部屋へと向かっていきます。
そしてたどり着いたのは家の中でも一番大きな部屋でした。
何も分からない少女はただ"気配"を頼って中にへと入って行きます。

そこに居たのは禍々しい"気配"を持つ 9人の男の人でした。

青い髪に紅い瞳でその瞳の中の三日月も紅い男の人と白銀の髪に赤黒い瞳をした男の人と水色の髪に紅い瞳の男の人と
鶯色の髪の毛の男の人と白色の髪に紅い瞳の男の人と黒紫の髪に紅い瞳に眼鏡をかけた男の人と黒髪ポニーテールで紅い瞳の大きい男の人と短い橙の髪で紅い瞳の男の人。
そして月白色をした長髪で紅い瞳の男の人がいました。

全員、鬼の角が生えていました。


彼らは少女をただ見詰めます。刀を向けたりも怒鳴り散らしたりもしませんでした。
ただ、小さな少女に彼らは哀れんでいました。

ここに少女を置かれた"意味"に気付いたからです。少女が自分達の怒りを鎮めるただそれだけの為に寄越された"供物"だと分かったからです。
彼らは人間…いわゆる審神者に酷い事をされました。自分達の兄弟刀を何度も折られたり、夜伽として使われたり、それこそ人間を怨み憎みたくなる事をたくさんされました。
でも、彼らは人間を憎めなかったのです。
なぜなら、元々自分達を使っていた"主"という存在があったからです。例え刀という姿であっても"主"の生き様を一緒に歩んできた彼らはどんなに酷い事をされても、どうしようもなく人間という存在を愛していたから憎めなかったのです。
けれど、審神者に酷い事をされる日々で穢れを纏う様になるのは時間の問題でした。纏う様になった彼らは酷く絶望しました。
穢れを纏った刀剣は、本霊には絶対に還れないからです。
穢れを払う事は今の状態では絶対に出来ない、 こんのすけも既に審神者の手によって消されていて、このままでは還りたい場所に還れない。

そんな時、大太刀の少年が黒紫色の髪の男の人に言いました。

「俺を、殺して」

泣いているかの様に笑いながらお願いをしたのです。黒紫色の髪の男の人にどれだけ酷な事を言っているのか分かっていました。自分を大切にしてくれている彼に言った事がどんなに酷い事なのか分かっていました。
でも、願わずにはいられなかったのです。
少年にとって何より守りたかった短刀の"彼"を黒紫の髪の男の人が来る前から何度も折られてきた少年の心はボロボロでした。けれど、人間を心の底から憎む事をしたくなかったのです。人間を憎む様になる前に彼は助けられたかったのです。
彼はそんな少年の最初で最後の願いを聞き入れて少年の刀を砕きました。
刀を砕かれた少年…分霊は空へと昇り、本霊へと還れました。
それを見ていた他の刀達も同じ様に兄弟刀や縁のある刀達に懇願しました。彼らも又、大切な刀達を折られて心がボロボロだったのです。プライドの高い刀剣も皆、願いました。
9本の刀達は、自分達を探し出す為だけにどんなに苦労したのかを分かっていて、そして負い目もあったのでソレを引き受けました。
彼らの苦しみを…穢れを全て引き取って彼らを本霊へと還しました。



そうして残された刀達はレアと呼ばれるものだけになりました。
9本の刀を除く全ての刀剣を砕いた彼らは本霊には絶対に戻れない程の穢れを魂に宿し、神格を失い鬼へと変貌したのです。
特に、最初の方からいた月白色をした長髪の男の人は他の刀剣よりも刀剣を砕き、誰よりも禍々しい力を持っていました。
彼らはそれでもよかったのです。
大切な"仲間"を助けられた彼らは鬼になったことはどうでもいいのです。
例え本霊に還れなくても、人間を愛する事を忘れない彼らは本当の意味での"悪鬼"へとはなりませんでした。

その頃になって初めて政府はこの本丸をブラックだとし、審神者を捕まえました。庇えきれなくなったのと、この様な容姿になった彼らからの祟りに恐れたからです。例え神の末席であっても、今は鬼でも彼らは人間を呪える力があったからです。
彼らは何もするつもりはありません。
ただ、静かにこの本丸と共に朽ちろうとだけ考えていました。
それを分からない政府は、祟られる事を恐れて無知な少女をこの本丸の"供物"として差し出したのです。
少女が審神者であった人とは比べ物にならない位の優しい力を持っている事に、少女がこの本丸に足を踏み入れた瞬間に分かりました。
こんな場所に置かれた少女を哀れんだと同時にその力に強く惹かれました。
惹かれたからこそ、少女をこの本丸で生かせては駄目だと9本の刀、全てが思いました。

「優しく哀れな少女…貴女は何を望むのでしょうか?」

月白色をした長髪の男の人が屈んで少女に言います。少女がこの本丸から帰りたい、そう願うと思っていて、そしてそれを政府に言い帰して貰おうとしたのです。だが、そんな彼らの心情を他所に少女はただ一言、言いました。

「かぞくが、ほしい」

愛情をたっぷり注いでくれた両親の顔は殆んど覚えていません。孤児院で一人ぼっちだった少女は甘えられる存在はいませんでした。自分を引き取ってくれた人も自分を育てる為ではないと薄々気付いていました。
そして、彼らが自分に敵意を持っていない事も無意識に感じていました。
だからこそ、彼らに望んだのです。

「私達の事、怖くはないのですか?」

「なんで?ここにいるひとたちはやさしいしきれいだよ?」

恐る恐る聞いた月白色をした長髪の男の人不思議そうに少女は答えました。その答えには、全員が固まりました。そして、全員が嬉しく感じました。
気にしていなくても、愛していた人間に怖がれていた事は堪えていたのです。
心の奥に確かに存在していた"負"の感情が全て浄化された様に感じました。
月白色をした長髪の男の人は皆の様子を静かに見つめ、そして少女に向き合った。

「私達は、貴女の"家族"になれるのでしょうか?」

最終確認であり最終の逃げ道だった。
これを嫌がれば政府の元へと帰して、頷けば彼女の望む家族となろうとしたのです。だが、そのどちらでもなく少女は表情をくもらせました。

「いやじゃ、ないの…?」

なにも出来ない、駄目な子、全ての人に嫌われる…言われてきた様々な言葉は呪縛となり少女を縛りつけていました。
不安そうに悲しそうに、でも何処か期待する様に彼らを見る少女に彼らは"愛しい"と素直に感じました。
哀れに感じる以上に"家族になりたい"と強く感じたのです。

そして9人の男の人と少女は互いに手を取り合いました。

その生活は決して優しいだけではありませんでした。無知な少女に一般常識を教えるだけではなく、教養も施しました。
時には喧嘩もしました。
少女が大きくなり、女性へとなる頃には政府がこの本丸へと奇襲を仕掛けました。"鬼"である彼らが敵意を向けるのを恐れるあまり全て無くそうとしたのです。
勿論、彼らと少女…女性は最後まで自分達に敵意はないと伝え続けました。でも、政府は信じませんでした。
本丸を無くそうとする政府に女性は1人、本丸の外に出て説得しようとしました。様々な事を教えて貰ったお陰で、自分の力には価値があると知った女性は、価値のある力をもつ自分を殺そうとはしないと思っていました。その力を、自分を政府に差し出すのを対価にこの本丸を見逃して貰おうと考えたのです。
大切な家族を守ろうとしたのです。
そんな彼女を政府は殺そうとしました。
長年この本丸にいた女性が政府にとって凶と出ると決めつけていたのです。
避けられない攻撃を目の前で出された女性は死を覚悟し目を瞑りました。守れ切れなかった家族を心に思い浮かべて。
でも、何の痛みもありません。

恐る恐る目を開いた女性の前には、女性を庇い彼女へいくはずだった攻撃を全て受けて、砕ける寸前までボロボロになった刀を構える月白色をした長髪の男の人がいました。
酷く動揺した女性が彼に近寄った時、8人の男の人達が政府と女性と月白色をした長髪の男の人の前に立ちました。

「こんなことはしたくなかったが……この娘を傷付けるのなら容赦なくお主ら政府を呪うぞ。」

青い髪に紅い瞳でその瞳の中の三日月も紅い男の人が袖で口許を隠しながら政府に告げます。彼が元は"なに"なのか知っている政府はぐっと押し黙りました。
更に彼は言葉を紡ぎます。

「なに、そっとしておいてくれればよいのだ。そうすれば俺達は何もしない。…今は"鬼"だろうが"神"の時と同じく約束は絶対だぞ。」

その言葉に取り敢えずは納得したらしい政府は帰っていきました。
女性はそれにさえ気付かない程までに動揺をして、彼をその様にした"政府"を憎いと感じました。
その時、月白色をした長髪の男の人が女性の手を弱い力で触れました。
震える声で名前を呼ぶ女性に彼は小さく微笑み、

「憎ん…では…駄目です…誰も…救われ…ませんよ…」

そう告げました。
その時、女性は初めて自分を心配する8人の"家族"の存在に気付きました。
"独り"ではない事を思い出しました。
8人の"家族"は虚ろな瞳を浮かべたいた女性が元に戻った事にとても安心しました。

女性は急いで月白色をした長髪の男の人に手当てを施しました。
自分にとって彼がどんなに大切な存在か気付いた女性は、彼が目覚めるまでずっと側にいました…1つの覚悟を決めて。

彼が目覚めた時は誰よりも喜びました。そして、その日から彼を避ける様にもなりました。

家族にこんな"感情"を抱いては駄目だと良くも悪くも純粋な女性は避ける様になったのです。避けて、避けて、この"感情"を捨てようとしたのです。

そんな女性の心情を誰よりも早くに知ったのは水色の髪に紅い瞳の男の人と眼鏡をかけた男の人でした。本当の"妹"の様に可愛がっていたからこそ気付いたのです。月白色をした長髪の男の人はただいきなり避ける様になった女性に困惑しました。自分を避けるのに、他の人とは笑顔で話す女性にモヤモヤとした感情を抱いたのです。でも、それが何なのかはさっぱり分かりませんでした。

そんな日々が暫く続いた時でした。
女性が誘拐されたのです。9本の刀剣全員が油断している時に"政府"に誘拐されたのです。
女性が連れられた先は………またもやブラック本丸と呼ばれる場所でした。そこで"見習い"になる様に言い渡されたのです。
その場所には女性の"家族"と似ている男の人も何人かいました。ほっとした女性でしたが直ぐに気付きました。そこにいる全員が女性の事を憎む様に睨み付けている事を。
それは未だ心から消えていない"院長"がよく自分に向けていた表情と同じで、女性は酷く怯えます。
そこの審神者は女性に刀剣達の"玩具"になれと言い、青い髪に青い瞳でその瞳の中の三日月が金の男の人を連れて部屋へと戻っていきました。
連れられた男の人は女性の"家族"と同じ様に瞳の中に三日月を宿していましたが、女性の"家族"とは比べ物にならない程の濁りを持っていました。
彼らは人間を恨み、妬み、悪霊へと化していたのです。彼らは女性に対して刃先を向け切りつけます。
女性は"家族"を、そしてその中で最も大切な人物を思い浮かべて一粒涙を流して刀剣達の憎しみをその身に受けました。




"家族"である9本の刀剣な男の人達は血塗れで倒れている女性を見つけて青ざめました。女性が誘拐された事を知った彼らが死に者狂いでここを見つけ出しました。大切な"家族"を傷付けられた彼らは酷く怒りました。その身を憎しみに任せる事は絶対にしませんが、この本丸の全てと政府に"呪い"をかけたのです。

ーーーー闇に心を沈めた者、闇へと自ら踏み入れた者は、必ずしも罰されると。

それは彼らの最初で最後の"呪い"であり"祝福"でした。
鬼へとなり手にした禍々しい力と本当の意味での"悪鬼"になっていないから残っていた神としての力。
両方を持つ彼らのソレは永遠に続くものでした。どんなに素晴らしい術師でさえ解けないソレは政府の"在り方"さえも変える事になります。


そして、彼らは女性を抱いて自分達の家へと帰っていきました。
女性は一生消えない痛々しい傷痕が出来ました。そして、何日も目覚める事はありませんでした。
そんな女性に誰よりも動揺したのが月白色をした長髪の男の人です。
あの時の女性と同じ様に動揺し、そしてやっと彼は女性がどんな"意味"での大切な存在か覚りました。
8人の男の人はそんな彼にほっとして、又はやっとかと呆れたりしましたが、全員が喜びました。
二人が、どれだけお互いの事を思いやっていたのか知っていたからです。

何日も、何週間も、目覚めない女性に彼らは悲しみましたが、希望だけは捨てませんでした。自分達を"家族"を残さないと信じていたのです。
そんなある日の事でした。月白色をした長髪の男の人が女性をやさしく抱き抱えて外に出たのです。
女性が大好きだった桜が満開だったので見せたかったのです。そこには彼の他の8人の男の人もいました。
この場所は、この満開の桜の下は彼らの思い出が沢山詰まった場所だったからです。
毎年、この場所で花見をしていました。
毎年、この場所でお団子を食べていました。
毎年、この場所で昼寝をしていました。
毎年、この場所で女性の"来た日"を祝っていました。


「戻ってきてくれ。」


それは誰の声だったのか。
ぽつりと、小さな声は全員に聞こえました。毎年と同じ満開の桜の下で目覚めない女性を思い全員が涙を流しました。

そんな時です

「なか、ないで…」

ゆっくり目を開いて弱々しく微笑んだ彼女がいたのは。


そんな女性に抱き抱えていた月白色をした長髪の男の人は強く抱き締めました。
彼の行動にはっとした全員が涙を浮かべながら女性と月白色をした長髪の男の人をいっぺんに抱きしめました。

泣いて、泣きながら嬉しそうに笑う彼らの中心で月白色をした長髪の男の人と女性はーーーーーー






「そしてね、彼と彼女の間に子供が産まれたの。紅い瞳で月白色の髪の可愛らしい女の子がね。」

「ままの、このおはなし、わたしだいすき!」

そう言って嬉しそうに笑った紅い瞳で月白色の髪の可愛らしい少女は少し遠くで見えた月白色の長髪の男の人に気付いて、首に傷痕のある女性の手を引いて向かって走っていった。
抱きつく少女をかかえた月白色の長髪で角を持つ男の人は、首に傷痕があり少女に向かって優しく見つめる女性を愛しそうに見つめた。


ーーー貴女は、今幸せですか?

ーーー大切な"家族"の皆が、貴方がいるから幸せよ、江雪。


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