エンドロール


車椅子から足を離し、ルッチは口角を上げた。

「策?歩くことも儘ならんノロマに何ができる。そこにいる男は、ただの哀れな愚か者だ」
「あの獣の言う通りだ……サボ」

オーロはサボを真っ直ぐに見つめ返す。その顔は敵対者のものではなく、旧知であることを押し出してきたときの様に、冷静で落ち着きはらっていた。

「君の言葉。色々とあってね……随分、身に染みたよ。ついには、こいつからの信頼さえ失くしてしまった」
「…………」
「今となっては、元々あったものなのかすら分からなくなったが……」
「――もう一度、おれがあなたを誘うと思ってますか?…………同情させる作戦ですか」

サボは得物を下ろさない。炎を絶やさず、瞬きもせず、オーロのうごきに注視し続ける。
厳しい眼差しを向けられているにも関わらず、オーロの目は一瞬驚いた様に見開き、ゆるんだ。

「同情してくれる心が残ってるのか…………優しいな」
「っ、あなたは……!」

ふと、違和感をおぼえたサボは周囲へ目を配る。ルッチも気が付いた。それは花の開花の如くゆっくりと、けれど着実にうごいていた。――――この軍艦だけ、いつのまにか“列から飛び出している”。いや、『回り始めていた』。

「まさか――!」

ボンッ、という派手な音にふり返ったサボは、ルッチが遠退き、彼の元居た位置に炎が上がっているのを目撃する。あそこには“車椅子”があった。偶然ではない、おそらく爆弾が仕込まれていたのだ。とんだカラクリの玉手箱である。

乗員達の気が一点へ引きつけられた隙に、オーロは両手を船へ突き、能力を一気に発動させた。船の回転速度が上がり、海へ放り出される者も現れる。炎上を消そうとてんやわんやしている海兵達も、サボもルッチも、遠心力に体を持っていかれないよう足を踏ん張らせることに必死になった。誰もうごけないまま、軍艦はついに『グラン・テゾーロの壁』と衝突。停止する。

「くっ」

体のぐらつきを立て直したサボは、目視するよりも先に、オーロのいた方へぐんと腕をのばしていた。テゾーロを逃がさない為?オーロの邪魔をする為?どちらもあるが、それよりももっと無意識のところで、ただ、オーロを捕まえなければと思った。
しかし――、指先があとすこしで触れるといったところで、オーロの座る床に、不自然な黒い円を見る。なにかは分からない。だが、砂粒が指のすき間をすり抜けていく感覚をおぼえた。

「オーロ……!」
「さよならだ」

サボの手は空振りし、オーロとテゾーロは船に吸い込まれていく。サボの脇をすり抜けたルッチが拳を振り下ろすも、舌打ちした彼の反応通り、床には大穴が開いただけだった。
甲板を見渡したルッチは、革命軍も消えたことを知る。




物資運搬用、緊急避難用、グラン・テゾーロには様々な船が存在している。『フリュート船』は、軽構造でありながら積載量が多く、少ない乗組員で運航可能な、本来であれば輸送用の船だ。けれど今は、逃走用の船として用いようとしていた。


「ありがとう、タナカさん」

オーロは、丸椅子に下ろしてもらうタイミングでタナカさんに礼を述べる。

「オーロ様が通り道を繋げてくださったからこそですよ。さすがに海をすり抜けることはできませんからね」

すべては作戦通り。ボロボロになりながら並び立つタナカさん、バカラ、ダイスを見て、オーロは口をひらく。

「三人共、よく生きていてくれた。だが気を抜くにはまだ早い、すぐに出航する。タナカさん、船のチェックは?」
「異状なし!」
「ダイス、食糧・物資は?」
「積み込んだぜー!」
「バカラ、舵を頼めるか」
「気絶している人間からも運の補充はしてきました。追われることになっても、切り抜けられますわ」
「心強いな」

オーロの後ろのベッドには、テゾーロが眠っていた。

「頼んだぞ、みんな」
「「「はい!!」」」

各自持ち場へ走っていくのを見届けたオーロは、テゾーロへ向き直り、その寝顔を静かに眺める。窓の外から砲撃音がするも、この船に当たる気はしなかった。

夜明けの光が空をあかるく照らしだす。グラン・テゾーロから、花火の音が打ちあがった。

「祝いの門出か?それとも俺の……最後の審判か――――……」






――――――――報告。
テゾーロ一味、船長ギルド・テゾーロ。幹部四名。

『逃亡』。


  
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