スーパーノバ金の破片が降りそそぐ空から一直線に落ちていく黒い影。一隻の軍艦に、盛大な落下音がひびきわたる。そこにはCP-0諜報部員ロブ・ルッチと、革命軍参謀総長サボが対峙していた。
「これは……テゾーロ!」
落ちてきた人物を確認し将校が声をあげる。テゾーロは甲板で完全に伸び、気を失っていた。
「えらく美しく散ったな。神でも降ってきたのかと思った」
『弟』の戦いが終ったことを見届け、炎を解いてサボが微笑む。ルッチは鼻で笑った。
「あいつの通り名は、『怪物』だ。――テゾーロを拘束しろ!」
構えを解き、背を向けるルッチ。今回の騒動の中心人物は捕らえた。その上革命軍の幹部まで捕らえようとする程、軽はずみな行いをする男ではない。
「――何か来る!」
一人の海兵がグラン・テゾーロの方角を指差し注意を呼びかけた。そこには、此方に向かって空を飛んでくる何か――――否、火を噴く小型の乗り物はゆるやかな放物線を描いている。恐らく、猛スピードの助走をつけて外壁から海にまで飛び出してきたのだ。
その見覚えのあるシルエットに、驚愕するサボ。
「あれは……!?」
このままではただ海に沈むだけと思われていたソレから、二つの飛来物が放たれる。高速回転する薄い飛来物は、テゾーロに近づこうとしていた海兵達を蹴散らし、船のマストをクルクルと回って刃を立てた。『巨大手裏剣』だ。よく見れば紐が括りつけられており、あの乗り物へと繋がっている。ギュルルルルと、音を立てて紐が巻かれ始めた。
――海兵達は仰天した。近づいてきた乗り物が、レーシングカートなどではなく、“ジェットエンジンを搭載した車椅子”だったからだ。
オーロはテゾーロのいる軍艦へ砲丸の様に突っ込み、着地を成功させた。しかし、舷門を破壊した際にその体は車椅子から投げ飛ばされてしまう。それでも転がり落ちた勢いのままにテゾーロの傍まで近寄り、床に手をついてなんとか上体を起こしたオーロは、テゾーロの腕を懸命に引っ張りあげた。
「テゾーロ!おい起きろ!テゾーロ!!」
そのとき、滑っていく車椅子を易々と止めてみせた足の主・ルッチが、せせら笑って言い放つ。
「主人のもとへ辿り着けても、これでは助けられまい。クルクルの実の能力者……怪物の右腕、だな?」
「、………………」
二人の周囲を海兵が囲んだ。テゾーロは気絶から覚める気配がなく、オーロは自分の体を片手で支えることに精一杯で、テゾーロを背負うことすらできずにいる。誰がどう見たって彼の行動はただの犬死にだった。
――……そのとき、ルッチとオーロの間に、誰かが歩いてくる。テゾーロ一味の二人を庇う様に立った男を見て、ルッチは眉を顰めた。
「どういうつもりだ……?革命軍」
サボは問いかけに応えず、顔だけ後ろを振りかえり、オーロを見下ろした。
「ジェット噴射、本当だったんだな」
この場に似つかわしくない雑談に、オーロは目を眇める。
「……余計なことはしなくていい、サボ」
「するよ。余計なこと――」
ピッと、パイプの先が、オーロへと向けられた。
「あなたが何の策もなく乗り込んできたとは思わない。だから海軍だけには任せておけない。おれなりに手を打っておこうと思う」
「………………!」
オーロは己の自惚れに気がつく。サボは庇ってくれたのではない。当然だ。“革命軍の幹部”は、最も恐ろしい“敵”の一人なのだから。
「おれも、テゾーロは見逃せない」
「…………ッ」
オーロは、床を握る汗ばんだ手に、力を込めた。
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