ディストーション


「どうだ、素晴らしいだろう?」

テゾーロが示した先、目の前に広がる黄金の牢獄〈ゴールドプリズン〉――――。
船底を照り輝かせる黄金の壁。その穴から流れ出でる砂金の滝。金のつぶに満たされた広大なホールは砂漠を彷彿とさせ、群立する塔は伝説上の黄金の国を再現しているかの様だ。
テゾーロにぜひ見せたいものがあると意気揚々と連れて来られた先は、グラン・テゾーロに住み慣れたオーロでさえも眩暈がするほどの黄金色に満ちていた。腕を広げて得意げに語るテゾーロに、オーロは何も答えない。

「ここではカネに目を眩ませたクズ共が、金に囲まれながら、飢えと渇きに苦しみもがき!朽ち果ててゆくのだ!ハハハハ……実に愉快だろう?」
「……」

黄金の国の再現という考えを改める。求めたものに溢れながらも、命を繋ぐ基本である水も食料もないここは、一つの地獄を具現化している。

「皮肉のつもりか?」
「希望が、絶望に変わる瞬間は……最高の娯楽になり得るという話だ」

「――人生の転落を、ショーにするという事か」

抑揚なく呟いたオーロは、車椅子を反転させる。

「興味がないな」

瞬間、テゾーロの顔の筋肉がぴくりと痙攣した。上機嫌だった表情は一転、険悪の形相を帯びる。鋭い目つきで離れていく背中を睨みつけるも、オーロは振り返ることなく、待機していたタナカさんのもとへ戻っていった。


  
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