トーキー


『黄金の牢獄』へ落ちていく名だたる怪盗達。海賊、その他罪人、時に表の世界だけで生きる者達も――。ゲームへの参加すら表明していない人々が、ショーのキャストとしてグラン・テゾーロを賑わせ、観客達を楽しませている。
奴隷の数も次第次第に増えていった。借金を背負う者はいても返済できる者はいないのだから当然の結果だ。テゾーロのショーは華やかさを増し、権勢を誇示するように、衣装の小物から舞台となる建造物に至るまで、何もかもに技術の粋が凝らされ光り輝いている。花火を打ち上げるかのごとく、夜空には黄金の噴水が打ち上げられるようになっていた。



四角い画面を瞳に映すオーロは、何も語らない。





「――最近、元気ないわよねェ、オーロ様」

カリーナの呟きに、タナカさん、ダイス、バカラは驚いた。集まる視線はみな、あの方の調子がわかるの?と半信半疑に問いかけている。オーロの機嫌を正確に読み取れるのは、この中で最も付き合いの長いタナカさんでさえ稀なことだった。

テゾーロが動の人であるならばオーロは静の人である。感情の起伏にもわかりやすい波はなかったが、そのことで仕事や日常のやりとりに支障を来したことはなかった。彼の性格を把握しなければ、と各人が必要に迫られた例は一度もなかったのである。わからずともただ一点、彼のブレない指標さえ理解できていればそれでよかった。
――オーロは、テゾーロの為になることしか考えない、ということ。

あとは共に過ごすなかで、三者三様、それぞれがどこかの感情を垣間見て、少しずつオーロという個人をわかるようになっていった。
しかしカリーナはグラン・テゾーロへ入国してまだ一年にも満たない少女。なのに彼女は自分の判断を欠片も疑うことなく、当然の事実であることを前提に皆に話しかけている。視線を注がれたカリーナは、「だって」と、ある場所を根拠に示した。




移動した先は、オーロの私室の前。
先日カリーナは、この部屋のなかでひしめきあっていた骨董品たちを売り捌くべく、オークション開催の手伝いをした。その催しは無事に終わり、オーロの部屋は広々とした本来の姿を取り戻していた筈なのだが……。

「戻ってますね……」
「戻ってんなァ」
「見事に逆戻りね……」

なかは再び、統一性のないガラクタたちで溢れ返っていた。(カリーナからしてみれば、宝の山なのだが)

「部屋はその人の精神状態を表してる、っていうじゃない?」
「なるほど」
「オーロ様も、案外わかりやすい方だったんだなァ」
「…………」

バカラは一人、思考に耽る。もし少女の言う通りだとするならば、つまり、オーロがいつでも泰然自若として見えていたのはまるきり勘違いで――彼の心は常に過密状態であり、乱れていた、ということになってしまわないだろうか。

それはまるで、疑ったこともない、頑丈であることが当たり前だと思っていた踏みしめる大地のなかに、実は大きな空洞が存在していたと判明するような――いつ地盤が沈下するともしれない危うさに気づかされたような、そんな薄ら寒い心地にさせられた。


  
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -