レッド・ライン


軋轢が生じようとも仕事はこなす。そこに個人としての自分が顔を出してはならない。扉の奥へ待機させ、表面をつくろい、事務的な会話に終始する。必要なことだけ。言葉数は最低限に。無駄な話や心が波立つ言葉を口にしてはならない。これ以上ひびが大きく、深く、広がらない為には。


「なぜ奴隷を逃がした?」

逃がしたのではない。完済した数人を船から降ろしただけだ。たったそれだけの言葉にすら幾本もの神経がすり減っていく。

「数が多いな……ボーナスのお陰か」

毎月、営業成績の良い店には特別ボーナスを与えていた。その制度があるからこそ債務者達は自由への希望をつよく抱き、毎日の激務にも懸命に励む様になる。グラン・テゾーロが完成して数年、初期の頃に奴隷となった人間が少しずつ船を出始めていた。

「今後、わたしの許可なくこの国の人間を降ろす事を禁ずる。その賞与システムも今回限りだ」
「! ……せめて半年に一度に減らすまでにしておいたらどうだ。奴隷だからこそやる気を引き出す為のチャンスは必要不可欠だと思うが」
「反対するならば物価を上げるしかないな」
「……テゾーロ……?」
「何か文句でもあるのか。ここでは、わたしがルールだ」

誰一人絶望から抜け出す事は許さない――そう宣言する様にテゾーロが微笑む。異変のきっかけに自分も関わっているのだろうなと思うからこそ、すぐには返せる言葉が見つからなかった。


  
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