病室と渇慾5 ハットリがルッチの部屋まで帰ってきた。筒、それに────中身をも残したまま。滑り出てきた手紙を見つめながら、ルッチはしばらくその場で停止していた。
「…………部屋には行ったんだな?」
もちろん、と応える様に力強く鳴くハットリ。
「スパンダムが読んだか」
首をよこに振られる。
「…………『あいつ』は、読んだ上で返した。もう……寄越すなという意味か……」
ハットリが、気遣わしげに肯いた。
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「船の修理、大義であ〜〜る!だがしかし────金はびた一文払わないことにしたのであ〜〜る!!」
ドックの一角にて、なにやら一悶着の気配があった。何十人といる海賊の一団の対応にあたっているのは、偶然最も近くにいたルッチ。シルクハットの下から、剣呑な光がギロリとのぞいた。
『もう一度、言ってみろ』
「接客がなってないのであ〜る!その態度も含めて実に不愉快なのであ〜〜る!ゆえに金は払────ばグァッ!?」
ルッチの蹴りが船長の顔面にヒットした。加勢に入ろうとしたパウリーとルルだったが、ルッチが驚異的な速さで数を減らしていくので、周辺にいる職人達だけで十分だろうと見守る態勢を取る。
「誰だよ、“すぐにキレんな”ってひとを愚か者呼ばわりしてやがったのは……」
「朝から機嫌がわるいみたいだな」
海賊団全員がダウンしたところで、パウリーは屍たちの中心に佇むルッチに歩み寄った。
「おいルッチ!さすがに手ェ出すのが早すぎるだろ。つーか最初っからケンカ腰過ぎるんだよ、普段ひとに説教してやがるのはどこのどいつだ?」
『……』
「おい、無視かコラ」
『クルッポー』
「それ返事になってねェからな!」
・
重要な報告があった場合、見逃すことはあの男の失態に繋がる。お前はそんなことはしない名前を出したくなかったが為に曖昧な表現となったが、思わず使ってしまった忌々しい存在。出さずとも理解されるであろう呼称。どうしてこうもムキになってしまうのか、ルッチ自身分からずにいた。否、分かれば滑稽さを自覚することになるからこそ、知らぬふりをしていた。
午前の海列車に乗っていったハットリは、ルッチがガレーラカンパニーから帰宅する頃、同じ様にウォーターセブンの住まいへと帰ってきた。ルッチはハットリの脚に目を向ける。そこには、何もなかった。
「『あいつ』は読んだのか」
もちろん、と応える様に力強く鳴くハットリ。
「もう持ってくるなとは……」
首をよこに振られる。
「…………あんな言葉で納得しやがったのか。あの男を出せばなんでも聞くのか、『あの野郎』は……!」
ハットリが、気遣わしげに肯いた。
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「きのうはよくもやってくれたのであ〜〜る!お礼に来てやっ────ばグァ!?」
翌日、またもやってきた海賊団を、ルッチが問答無用で叩きのめしていた。
「どうしたんだ?ルッチの奴。随分と荒れてるな」
「最近変なんだよな、あいつ」
タイルストンとパウリーが呟く隣で、ルルのメガネがキラリと光った。
「もしかして、あれだろうか……。伝書鳩の噂=v
「「伝書鳩<H?」」
「最近街中で、脚に筒の様なものを括りつけた、ハットリにそっくりな鳥が度々目撃されているらしい。うちの奴等がよく若い女性に声をかけられては“あれはルッチさんのハトですか?”と訊かれているんだ。おれも訊かれた」
3人の背後にいるカクが注意深く聞き耳を立てる中、パウリーが「その噂とあの荒れ様とどう関係があるってんだ?」と質問した。するとルルは、勿体ぶった態度で、告げた。
「────……文通相手と、なにかあったとか」
「文通!?」
「文通!!?」
「(文通──!!?)」
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