病室と渇慾3


ハットリの好物は豆だ


豆だ。
豆である。
紛うことなき、豆。

「………………」

ハットリが豆を銜えて帰ってきた。二通目の手紙を送り届けたあとの話である。指でつまみ上げたそれを見つめてしばし──ルッチは、ハットリを見下ろした。

「…………『あいつ』か?」
「ポッポー」

肯定する様に、ハットリが鳴く。
スパンダムではないという確信はあった。以前、ルッチが三角関係の噂について呼び出しを受けたとき、スパンダムは分かりやすく動揺していた。その根本にある感情が恋の類いかはともかく、あれはあれでイエスマンの幼馴染に執着しているらしい。ならばもしスパンダムが関わっていた場合、考えられる手紙への対応は二通り。すべて破り捨てられるか。すべて受け取るなと指示されているか。
いずれにせよ、豆が持ち帰られるなんていう結果にはならない筈である。手紙に記された、ハットリの好物が渡されるなどという結果には。

「クルッポー」

ハットリの呼び声に応え、ルッチは豆を彼の眼前へ差し出した。小さな粒が、ハットリのくちばしの中へと消えていく。



──────胃袋におさめたハットリは、ふと頭上を見上げ、視線が固定された。
ルッチの、結ばれたままの唇が、かすかにほころんでいる。彼とは随分と長い付き合いになるが、それは今までに見かけたことのない、とてもやわらかな形をしていた。


  
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