病室と渇慾2


手紙を送り届けたハットリが帰ってきた。アイスバーグにも報告を済ませ、この件はひとまず片付いたと思ったルッチであったが、踵を返す前にアイスバーグに呼び止められてしまう。

「ルッチ、念のために確認しておくんだが……相手からも、ちゃんと返事を寄越せる様にはしてあるんだよな?」
『……と、言いますと?』
「名前や住所を書き忘れてやしねェかと心配になってな。初歩的なところだが、人間ってのは浮かれてるときには結構、ぽかをやる」
『クルッポー。問題ありません、返事は想定していないので』

「えっ?」
『?』

……ラブレターじゃなかったのか?と尋ねてくるアイスバーグに、おそらくそう呼ばれるものですね。と返せば、益々不可解そうな顔をされる。────このときルッチは知見を得た。手紙とは、返事を期待するものである≠ニ。
アイスバーグが額に手をあて、がっくりと項垂れていた。その姿を、小首をかしげながら不思議そうに見つめるルッチ。

「……念のためにもう一通送っておけ。どう受け止められるかは分からねェが……繋がったはずのもんが途絶えちまうことの方が、よっぽど悲しいことだ」
『……』

ハットリを使った時点で送り主は自明。スパンダムが任務地を把握していない筈もなかったが、あと一通送るだけならばと、ルッチはおとなしく聞いていた。

「あ、用件だけ書くんじゃねェぞ?一言はなにか添えておいた方がいい」
『一体、どんな』
「ンマー……前回書ききれなかった想いだとか……日常の中の小さな発見だとか……相手が見聞きしてそうな日常風景について触れてみるとか。ああ、いや。お前みてェな不器用そうな男は、無理しねェ方がいいのかもしれんな」
『────……相談しておきながら、こう言うのもなんですが』

ふとアイスバーグの顔が上がり、目が合う。

『こんなにも親身になってくださるとは、思っていませんでした』

────アイスバーグが、ゆるやかに、微笑った。
当人以上に慎重で積極的。その態度について不思議がられることは承知していた、という表情だった。視線がはずれ、アイスバーグの笑みにも変化が見られる。荷物をひとつ下ろした様な、力のふっと抜けた、柔らかな笑顔だった。

「おれァ、伝えられる幸福≠……知っているだけだ」
「…………?」

ルッチはこのとき、この言葉は故人に対する後悔の念の様なものだろうと思い、特に気に留めずにいたのだが。



先日、ガレーラカンパニーを訪ねてきた不審な男────カティ・フラムが、アイスバーグの師であるトムの死んだとされていた『もう一人の弟子』だと知るのは……数年後の話。


  
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