内緒と伝書 「────それじゃ、僕はこれで」
恨むんならあの海賊団≠恨んでくれ。と言い残してさっさと立ち去ろうとするスペッキオの背を、「待ってください!」とカリファが呼び止めた。
「すこしだけでも……病院へ、寄っていただけませんか?」
「……お見舞い?僕が?」
「あなたが呼べば、ルッチも早く目覚めるかもしれません」
「んー?それはどうかなァ」
「お願いします」
カクとブルーノが、頼み込むカリファの姿を見つめていた。どうしてそこまで懸命に頼むのか、二人は理解している。ロブ・ルッチにとってスペッキオは『特別な人間』であると知っているからだ。
スペッキオはすこしだけ考え込む仕草を見せたあと、カリファに体を向けて、
「達者でね」
優しく手を振り、何も答えることなく去っていった。
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「!」
ルッチが眠る傍らの窓辺にたたずんでいたハットリは、ふと裏庭に見慣れた姿を発見し、降りていった。羽音を聞きつけ、その人物の顔がわずかに上を向く。
「やあ、ハトくん。君も元気そうで良かった」
「クルッポー!」
盲目の男────スペッキオは、肩にハットリが止まると、そのちいさな体を慣れた手つきで撫でさすった。
「シラハナくんにお願いされて来てしまったよ。ま、僕は『先生』だからね。……フフ!」
こみ上げてきたよろこびが思わず溢れ出たという様に肩を揺らしたスペッキオは、にやけた口をゆるやかな笑みにもどすと、内ポケットから何かを取り出した。
「君の相棒に……これを渡しておいてくれるかい?」
「ポ……?」
それは、ちいさく丸められ、紐で括られた紙だった。ハットリは一声鳴くと、訳知り顔でその紐の輪をくわえこむ。するとスペッキオが「お願いね」とだけ告げてその場を動こうとしないので、アイマスクの顔を、ハットリは不思議そうに見つめた。
「ポッポー?」
「んーん、やめておくよ」
体をよこへ傾け、まるで『寄っていかないの?』と尋ねているかの様なハットリに、スペッキオはハッキリと返事する。
「彼はね、遠くにいるくらいがちょうどいいんだ」
風がざわざわと梢を揺らす。スペッキオは、窓が開いているであろうハットリが飛んできた方向を見上げると、「それに」とつけ加えて……────。
「捕まったら……きっとそれで、おわってしまう関係だろうからね」
心残りはないという様に、微笑っていた。
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