文通と駆引5


「(おや?)」

珍しいことが起こった。ハットリの脚に手紙が括りつけられていなかったのだ。正確にいえば、運ばれる途中で手紙の入った筒が落ちたのだと思われる。紐だけは残っていたからだ。
いつも通りに窓辺までやってきたハットリだったが、落ち込んだ様子で一鳴きすると、そのまますぐに帰ってしまう。

「……ま、どうせ大した手紙ではなかっただろうし、構いはしないけど」

そう呟いたスペッキオだったが、なぜか、妙に落胆している己がいる気がした。





「…………ハトくん、すこしそこで待っていてもらえるかい?」
「クルッポー……?」

翌週もまた筒はなかった。スペッキオはハットリにしばらく留まる様に言い置くと、部屋の中央に置かれてあった二つの箱の前で立ち止まる。馬の頭ほどの大きさの、丁番の取りつけられた開き蓋の木箱。蓋の形はそれぞれ異なり、ひとつはよくある長方形、もうひとつはアーチ状の宝箱の様な形をしていた。
スペッキオは長方形の箱を引き寄せた。ぱかりと蓋をひらくと、中から手紙を書く道具一式を取り出していく。点字盤、点筆、そして紙。蓋を閉じると、その上を机にした。クリップボードの様な板に紙をセットし、点字のマス目がある真鍮製の定規を紙にあて、先端の丸い針状の筆で一穴ずつ打ち込んでいく。初めて送る手紙だった。

珍しいミスをするね。ハトくんの脚には何もなかったよ





────三度目だ。ハットリの脚に手紙がなかったのは、これで三度目。対策が練られた形跡もなかった。この様子ではスペッキオの出した手紙も途中で落ちてしまっていた可能性がある。今度は手紙を二つ用意し、それぞれを袋で包み、二通りの結び方でハットリの左右の足に括りつけた。

結び方が甘かったんじゃないかい?筒は途中で落ちた様だ






約一ヶ月ぶりに、無事に手紙が届いた。ハットリに豆を与えたスペッキオの指先が、進んで小さな紙をひろげていく。しかしその内容を読んで、スペッキオの口元は真一文字に結ばれた。


ハットリに手紙は預けていない


「……………………預けていない?」

と、いうことは。今までわざと何も持たせないまま、ハットリは送られてきていたということになる。それも、何度も。途中で落とした演出までして。果たしてその目的は────…………?


くしゃ。


「…………ガキ」

スペッキオは手の甲に血管を浮き立たせ、笑みを湛えながら手紙を握り潰していた。おそらく目的とは、手紙が届かないことによりスペッキオがどんな反応をするか見てみたかった。そういうことなのだろう。

「…………」

スペッキオは拳の方を見てしばらく立ち尽くしていたが、アーチ型の箱に歩み寄り、蓋をあけた。中にあるのは、何枚もの『紙』。そこへ、新たな一枚を放り入れた。


  
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