文通と駆引2


霧の夜空は高くて黒い。お前の閉ざされた世界を想像する


「……君の主人、案外ロマンチストでまめな性格だったのかい?」
「クルッポー」

相手の見ているものへ思いを馳せる、なんて。恋文の様にも受け取れる。誰かに言い寄るよりも、言い寄られて素っ気ない態度をとる姿ばかり思い浮かべられる彼に、手紙というものは、イメージとして結びつかない。

「随分人間くさいことをするじゃないか」

呟いて、はたとスペッキオは気づいた。もしや、これは。

「…………ああ……そういうこと=H」

────以前スペッキオは青年に問われたことがある。お前はスパンダムを信奉しているが、いったい彼のどこが良いのか、と。だから答えた。人間らしさ≠ノ惹かれたのだと。そんな問いをしてきたロブ・ルッチは、なぜか今、スペッキオという個を手に入れたがっている。だからこそこんな手紙が届く様になったのだとしたら────……。殊勝なことだ、と、スペッキオは初めて、ロブ・ルッチに対して可愛げというものを感じていた。

「稚拙だな。発想が」

文字はたしかに人類最大の発明だ。しかしあの青年がウォーターセブンへ発つ前に宣言していたのは、もっと大層なことではなかったか。


『手解き≠してやろうか。おれならお前をヒトにできる。いや、おれにしかできない。ヒトにすると同時に────……お前には、おれが相応しい≠ニ、証明≠オてやる』


「…………」

懐かしい声を思い出しながら、スペッキオは指先で手紙の凹凸をするりと撫でた。

(……此処は、真っ暗闇じゃない。薄ぼんやりと明るい。濃い霧の中にいる感じだ。正直なところ、光もなければ闇もない。理解するのは難しいだろうが……透明の世界だ)

頭の中で彼の言葉を訂正する。返事は書かなかった。というよりも書けない。そもそも手元に道具がないからだ。
ハットリの飛び立っていく羽音がした。静寂が漂い、そよ風が頬をくすぐる。しばらくするとスペッキオはゆっくり部屋を出ていった。そうして、そこらへんにいた使用人を呼び止める。

「そこの君、用意してもらいたい物があるんだけど」


後日、スペッキオの部屋には『二つの箱』が増えていた。


  
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