彼は、逃腰


「実家に帰ります」

パサ、とスパンダムの手から書類の束が落ちた。発言者であるスペッキオを見つめて鼻水が頭をのぞかせている。散歩から帰ってご機嫌のファンクフリードが、そんなスパンダムの頭を鼻先ではみはみしていた。

「なっ……スペッキオ、……ど、どうした?急に……待て待て早まるなおれか!?おれが何かしちまったか!?」
「あ、いや」
「コーヒー熱々なまま持ってくること毎度怒鳴ってたから?!」
「スパンダム」
「なァ待て考え直せ目が見えなくなったってお前はおれより十分強い!欠かせねェ部下だ!もう怒鳴ったりなんてしねェから、な?」
「こんな反応になるとは思わなくてすこし言い方を……」
「おれがここまで言ってもまだ帰るつもりか!?え!?おれの傍から離れるなんざ許さねェ……!言い方変えたって絶対に許可なんか出さねェぞ!」

「スパンダムの実家へ行かせてほしいな、と」
「──────……おれの実家?」

幼い頃に出会いを果たした庭がある、ふたりが幼少期を共に過ごした場所。スペッキオには肉親がいても実家はない。しいていうならグアンハオの養成施設がそれに当てはまるだろうか。しかし生まれた場所でもなければ、家族がいる場所でもない。

「……何しに行くんだよ」
「僕の働く場所を、そこに変えてもらいたいんだ」
「却下だ!あっちィ!」

ドン、とテーブルを叩けば例のごとくコーヒーがこぼれた。口ではない様なので角砂糖の出番はないな、とスパンダムが落ち着くのを待つスペッキオ。ひとしきり騒いだスパンダムは、逆に冷静になれた様だった。

「で。何で急にそんなこと考えた」
「ロブ・ルッチが……」
「ルッチ?あいつがどうした」
「不完全な僕なら倒す意味もなくなると思ってたんだけど……」
「……何の話だ?」
「どうやらダメだったらしい」
「だから何の話?!」

「チャパパ……」

このあと、スペッキオがスパンダムに愛想を尽かして三行半を突きつけたという噂が広まっていた。


  
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -