バイトから上がって、携帯を確認すると貴子からメッセージが入っていた。確認すると、それは写真だった。しかも、生徒指導室の中で稲葉の手のひらに口付けるなおくんが写っていたのだ。


思わず速攻で貴子に電話をかける。


『もしもーし』

「貴子!あの写真何!?」

『ぐふふっ!激写しちゃったー!あたしもなんでああなったのかは知らないけどー』


上機嫌に笑う貴子に、私も笑う。


「あれ、やばいでしょ!やっぱあの二人デキてるのかなあ?」

『ね!ね!なんか、千晶ちゃんも稲葉には気を許してる感じだし?稲葉も構いにいってるっていうか、構ってもらいに言ってるっていうか』

「稲葉からかってやろ!」

『あ!千晶ちゃんで思い出した。最終日に生徒会主催の特別上演をやることになったんだけど、ちょっと手伝ってほしいんだよね!』

「へえ、何やるの?」

『それは秘密〜』

「えー。まあ、いいや。何すればいいの?」

『紙テープを生徒全員に配ってほしいの!』

「紙テープ?」

『そう。ものは当日渡すから。お願い!』

「まあそれぐらいならいいけど」

『じゃあ、楽しみにしてて!バイトおつかれー』

「はーい。じゃあねー」


貴子の電話を切った後、なおくんに電話をかけてみる。


出ないかもしれないなと思ったが、予想外に早くに電話に出てくれた。


『七海か?』

「なおくん。今だいじょーぶ?」

『ああ。なんかあったか?』

「ううん。そうじゃないよー」

『そうか』


自転車を押しながら携帯を片手に夜道を歩く。


『ん?もしかし今外か?」

「うん。今バイト終わったところだもん。今から帰るところ」

『こんな時間にか?遅くないか?』


時刻は22時30分である。


「だいたいは時間ぎりぎりまで働かせてもらってるからね。シフトにもよるけど」

『・・・迎えに行く』

「ええ?いいよ。っていうか私チャリだもん」

『まさか運転しながら話してるのか?』

「ううん。夜道はさすがに片手運転は怖いから、押しながら歩いてる」

『じゃあ、電話はいいから、ちゃんと自転車に乗って帰れ』

「えー。せっかく電話したのに」

『いいから。これ以上遅くなったら補導されるぞ』

「歩いても30分かからないもん」

『七海』


有無を言わせない響きだった。これ以上押し問答したら、あの怖いなおくんが再来しそうだ。


「わかったよう。あ、そうだ!見たよ!」

『?何を?』

「稲葉の手にキスしてる写真!」


ちょうど何かを飲んでいるときだったのかもしれない。盛大にむせているなおくんに、心配になってくる。


『ゲホゲホッ・・・、おい、その写真、まさか』

「うん。貴子から。大丈夫?」

『・・・大丈夫じゃない』


大きなため息が聞こえて思わず笑う。


「なんでああいうシチュエーションになったの?なおくんってそっちの気があったの?」

『バカなこと言うな。あれは・・・、成り行き上仕方なく、だ』

「手のひらにキスする成り行きってどんな成り行き・・・」

『そこはいいから。その写真、拡散したりするなよ!?』

「それはしないけどー。まあ、貴子はわかんないけどね?バイト上がりに私に送られてたし。桜子とか、由衣は見てるかもねー」

『勘弁してくれ・・・』

「あの辺はBLもいける口だからね。いいネタだね。なおくん」


この写真を見て、悶えている由衣と桜子が容易に想像できる。


「ま、いいや。元気そうな声きいて安心した。最近また顔色悪かったし」

『そんなにか?』 

「あれ、自覚なしですか」

『・・・いや、まあ・・・』

「ご飯ちゃんと食べてる?もし学校で倒れるようなことがあったら、まさ兄に報告しなきゃいけなくなるし」

『・・・待て。政宗の連絡先を知ってるのか?』


あ、口滑らせた。思わず口元を手で覆ったけれど、時すでに遅しだ。


「あー、っと、じゃあ、そろそろ帰るから!またねー!」

『あっ、おい!』


叫んでいるなおくんを無視して通話を切る。携帯はカバンの中につっこみ、自転車に乗ってアパートへ戻った。


アパートについて携帯を確認すると、数回なおくんから電話がかかって来ており、そのあと、メールで「帰ったら報告してくれ」とだけ書かれていた。そのため、メールで「ただいま」と送る。再び電話がかかってくるだろうかと思ったけれど、結局かかっては来ず、私はルリ子さん特製の晩御飯を食べて眠りについた。






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