帰ると明さんとシガーがいた。


「シガーっ!!」


飛び込んだ私を受け入れてくれたシガー。顔を舐めるシガーをなだめながらその毛並みを堪能する。


「おい。俺には無しか?」

「明さんもおかえりー!」

「シガーとの扱いに差が感じるんだが?」

「気のせい気のせい!」


そう言いながらも、私はシガーのふかふかの毛を撫で回していた。尻尾をちぎれるんじゃないかと思うぐらい振るシガーはやっぱりかわいい!


戻りガツオの刺身や茸と砂ズリの炒め物やらを食べながら、稲葉はなお君の話しをした。


なおくんは今でも貧血症に悩まされているらしい。


「血が薄いねえ。俺のダチにもいるぜ。そいつも男だ。貧血ってのは、だいたいが女の病気だけどな」

「あー、あたしも学生の頃は生理がキツくてキツくて。立ってられなかったわ」


明さんとまり子さんが地酒を取り合うようにしながら飲んでいる。


「私も生理きついんだよねー」

「あれ?でもそういうところ見てないわよ?」

「ああ。もともと不定期なんですよ。環境が変わったせいか、まだ来てないんですよねー」

「俺がいる前でそう言う話はやめてくれ・・・」

「え、そういうの気にする人?」

「むしろ田中が気にするべきじゃないのか?」

「ママだしいいじゃん」

「誰がママだ!」

「い・な・ば!」


語尾にハートをつけて言ってやれば、食べようと取り皿にとっていたカツオを取られた。


「ああっ、私の!」

「お前が変なこと言うからだろ」

「酷いっ!子供か!」

「はいはい。兄弟喧嘩はそこまでネ」


一色さんに止められ素直に言うことを聞く。もともと、私は稲葉をからかうためにやっているため本気で腹を立てているわけではないのだ。


「貧血ってのは、輸血しても治らないもんだから、薬とか飲みながら付き合っていくしかないらしいヨ。本人は自分の症状に慣れるみたいだけどネ。でも、重症になると昏睡状態になることもあるから、やっぱりコワイよネ」

「そうなんすか?貧血で?」

「何かの拍子に脳内の血液成分が足りなくなると、脳の働きが止まるわけヨ。酸素が不足するわけだから当然だよネ。そうしたら、心臓も止まっちゃう。昏睡状態のまま死んじゃうこともあるんだよ」

「そりゃまずいっすね」

「脳貧血ってやつだ」

「柔道とかで“落ちる”って状態があるよね。あれは、脳に酸素がいかなくて起きることで、つまりは同じようなことで〜、あれもすぐに活を入れて意識を戻さないとアブナイ場合もあるんだよねー」

「脳ってデリケートですからね」


明さんや一色さん、秋音さんが言う言葉を聞きながら、そう言えば昔調べたことがあったなあと思い出した。最初はなお君が何の薬を持っているのか教えてもらえなかったため、薬の名前を覚えて、ネットで調べたのだ。それから貧血症のことを知ったというわけだ。そのあと、なお君に確認したら私が調べてきたことにとても驚いていたっけ。


「それにしても、どうやら夕士クンって、その千晶センセと何かと縁があるようだネ」

「身体の相性が」


一色さんの言葉に続けて明さんが言った。それに、私たちは大笑いする。


稲葉は拗ねたように唇を尖らせては、私たちを見ていたが、やがて諦めたらしく深い深いためいきをついていた。




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