人生幸福論 | ナノ


32:答え合わせ  




馬乗りになったハリーが杖先をシリウスの喉元へ向けた。


「ハリー、俺を殺すのか?」


シリウスの震える声が聞こえて来る。


「お前は、僕の両親を殺した」

「否定はしない。しかし、君が全てを知ったら」

「全て?お前は僕の両親をヴォルデモートに売った。それだけ知ればたくさんだ!」

「聞いてくれ。聞かないと君は後悔する。君はわかっていないんだ」

「お前が思っているより僕はたくさん知ってるんだ」


ハリーの声が震えた。


「お前は聞いたことがないだろう?僕の母さんが、ヴォルデモートが僕を殺すのを止めようとして……お前がやったんだ…お前が……」


その時、扉が開かれた。入ってきたのは大きな瓶を抱えたサラだった。


「随分ヒートアップしているな?主役もまだだというのに」


ゆっくりと室内を見回したサラの第一声だった。


「なぜ、何もしない?祐希」

「よく見ろ。俺も杖を向けられているだろ」


ホールドアップした手をひらひらと振ってみせる。


「ふむ」

「あなた、スリザリンの……」

「サルバトア・クリフデンだ。祐希が世話になってる」

「おい、お前はいつから俺の保護者になったんだよ」

「出会った時からだ」

「どちらかというと、俺の方が面倒見てただろうが」

「?記憶がおかしいんじゃないか?」


顔を引きつらせる。本気で言っているあたり、たちが悪い。


どうにも緊迫感にかける会話に、ハリーたちの目が点になる。


「とりあえず、そのままだと、面倒だな」


サラは杖先をハリーへ向けると、ついっと振った。するとハリーは勢い良くシリウスから引き離され、ハーマイオニーたちの元へ引き戻された。


「随分いい面になってるじゃないか。シリウス」

「おかげさまでね」

「バカだな。お前は」

「なんとでも言ってくれ」


殴られた頬をさすりながら、シリウスはなんとか起き上がった。ベッドの上に気だるそうに腰を下ろし、頬の痛みに顔を歪めている。


「あなたも、この人の仲間なの?」


ハーマイオニーの質問を無視して、サラは瓶を部屋の中央においた。


すると、その瓶に注目していたロンは即座に中身に気づき、声をあげた。


「スキャバーズ!?」


駆けよろうとしたロンをサラが杖を向けることで抑える。


「近寄るな。ロナルド・ウィーズリー」

「!」

「今、こいつを逃がされちゃ困る」

「祐希!どういうことだよ!」

「ロンにもすぐに理由がわかる。だが、もうちょっと待ってくれ。役者はまだ揃っていない」

「揃っていないって、どういうこと?」


ハリーが険しい顔のまま問いかける。


それに答えようと口を開いた時、足音が聞こえてきた。


「どうやら一人、来たようだ」


再び扉が開かれた。そこにいたのは、中を見渡して驚いているリーマスだった。


「これは、どういうことだい?」


しかし、見回していたリーマスはサラの足元にある瓶を見て目を見開いた。そして、俺へと顔を向けた後、壁際で成り行きを見守っていたシリウスを見つけた。


「まさか……なぜ、あいつがここに?……まさか、そうだったのか?あいつと入れ替わっていたのか?……僕に何も言わずに?」


リーマスが目玉がこぼれ落ちそうなほど目を見開いたままシリウスへ問いかける。シリウスはゆっくりと頷いた。


すると、リーマスは杖を下ろし、シリウスへ歩み寄ると彼の手を取った。二人はまるで兄弟のように違いを抱きしめあった。


「なんてことなの!?」


ハーマイオニーが叫んだ。


「先生は!先生は!」

「ハーマイオニー」

「その人とグルなんだわ!」

「ハーマイオニー、落ち着きなさい」

「私、誰にも言わなかったのに!先生のために私、隠していたのに!」


サラが目配せをして来た。しかし、俺はそれを黙殺する。


俺は、今手元に杖がないことを心の底から感謝した。もし杖を持っていたら、彼女に向かってなんの呪文を唱えていたかわからないからだ。


「ハーマイオニー!話を聞いてくれ、頼むから!説明するから」

「僕は先生を信じてた。祐希もだ。それなのに、二人はずっとブラックとつながっていたんだ!」

「それは違う。この12年間、僕はシリウスの友ではなかった。しかし、今はそうだ。説明させてくれ」

「ダメよ!ハリー騙されないで!この人はブラックが城に入る手引きをしてたのよ!この人もあなたの死を願ってるんだわ!この人、狼人間なのよ!」


痛いような沈黙が流れた。俺はぎりっと奥歯を噛み締めた。


「いつもの君らしくないね、ハーマイオニー。残念ながら、3問中1問しか合ってない。わたしはシリウスが城に入る手引きはしていないし、もちろんハリーの死を願ってなんかいない」


至って冷静な口調で語りかけるリーマスは青ざめていた。


「しかし、私は狼人間であることは否定しない」

「リーマス」

「祐希。君には聞きたいことがたくさんある」

「だろうな」

「全て話してくれるんだろうね?」

「……聞かれたことには答えよう」


俺が渋々了承すると、リーマスは青い顔のまま苦笑を浮かべた。


「祐希は知ってたっていうのか!?狼男だって言うことを!?」

「俺の保護者はリーマスだと話したはずだ。知らないはずがない」

「正気かよ!?もしかして、祐希も狼男!?」

「そうなることを、リーマスが許すのなら、俺は躊躇わないがな」

「ダメに決まってる」

「うちの保護者は過保護なんだ」


リーマスから諌められる。俺のジョークには誰も笑わなかったが、サラが空気を変えるように、口を開いた。


「さて、話を進めようか」

「進めるって!?全て分かったことじゃないか!祐希と先生がずっとこいつの手引きをしていたんだ!」

「これだから単細胞は嫌いなんだ。順序立ててよく考えろガキが。ルーピン先生にそれが不可能なのはよくわかるはずだ」


サラの毒舌にハリーたちが呆然とする。


「リーマスを呼んだのは俺たちだ。俺と、サラだ」

「あの手紙は祐希たちだったのか」

「騙して悪いな。真実を、知ってもらいたかったんだ」

「いや、構わない」


リーマスの許しの言葉に、一つ頷く。


「まず、そうだな。俺がシリウスと会ったところから話そうか。シリウスとはホグワーツ内で“偶然”鉢合わせた。シリウスは驚くことに、自力でホグワーツに侵入していたんだ。まあ、無理もないだろうけどな。こいつはホグワーツの侵入経路をたくさん知っていたんだから」

「どういうこと?」

「質問は後だ。鉢合わせた俺は、とりあえずシリウスを捕まえた。しかし話してみるとどうもシリウスの目的がハリーではないらしいことを知った。シリウスの目的はただ一人、そこにいるネズミだったんだ」


俺が指さすと、ロンはそんな馬鹿な!と声をあげた。


「こいつはただのネズミじゃない。アニメーガスだ。名前はピーター・ペティグリュー。お前達も、聞いたことのある名前だろう?」


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