人生幸福論 | ナノ


29:最後の仕掛け  




「あーっ!!」

バンと勢い良く机を叩いて、立ち上がったレイ。叩かれた机は跳ね上がり、羊皮紙に羽ペンを走らせていた俺とサラは文字がいびつになってしまった。


「おい!いきなりなんだよ!」

「わっすれてた!どうしよう!」

「はあ?」

「シリウス!シリウス!起きて起きて起きて起きて!!」


もうすぐ行われる期末試験のために、創設者の部屋で集まって勉強していた俺たち。シリウスは、すっかりレイからの依頼をすべて完了したため、勉強をしている俺たちをニヤニヤ眺めていたが、飽きたのか寝てしまっていた。


しかし、そんなのは関係ないとばかりに、シリウスに乗りかからんばかりにゆり起こすレイ。


騒々しいレイに、今度はなんだと俺とサラは顔を見合わせる。


「ああ?レイ?なんなんだよ…」


ふわあとあくびをしながらシリウスが起き上がる。


「一個作り忘れてたのがあったの!」

「はあ?あんだけ作っておいて、まだ何かあるのか?」

「ある!これが一番重要!あー、もうなんで忘れてたんだろう!!」


頭をかかえるレイは、散々嘆いた後、きっちり感情を切り替えて、シリウスに作って欲しいものを説明し始めた。


それは、簡単に言ってしまえば盗撮機だった。もちろん音声完備である。


「そんなもの何に使うんだ?」


用途がわからなくて、首をかしげると、レイはくわっと目を剥いた。


「これは今年使うものだから至急!!」

「いつまでだ?」


要望が書き連ねられた紙を見ながらシリウスが問いかける。もうレイに何かを作るように頼まれるのは慣れているからこその対応だろう。


「期末試験終わるまでに!」

「って、もう半月もないじゃないか!無理だ!」

「無理でもやって!大丈夫!二週間寝ないぐらい、なんてことないって!」

「おいおい、それはいくらなんでも無茶だろ」


無理だというシリウスに無理難題を押し付けるレイに、俺とサラは苦笑する。


「人間が不眠不休で居られる期間は、5日が限界らしいぞ。それ以上やると、正しい判断ができなくなるという実験結果が出ている」


サラが真面目くさってどこから仕入れたのかわからない情報を伝える。


「おい、サラ。今はそこじゃねえよ」

「ん?」


首をかしげるサラにため息をつく。


「とりあえず、シリウス。ガンバレ」


ここにレイを止められる人間はいない。シリウスががっくりと項垂れる中、俺はそろどころではないと再び勉強へと戻る。


シリウスは、レイにもう少し詳しい話を聞き、設計図を詰めていく作業に入っていた。まあ、シリウスも頭を使える機会があるのはいいことだよな。


少々こき使いすぎるところがある気がするけれど、大した問題ではないだろう。


「それより、ハーマイオニーの頭がそろそろ爆発しそうなんだがどうしたもんか」

「ああ、逆転時計か。全教科を取っているんだったか?」

「そう。最近やつれちゃって、まあ大変。この前なんか占い学の授業、ボイコットしてたしな」

「ほう、あのグレンジャーが思い切ったことをしたな」

「トレローニーって…あんなんだろ?ハリーに対して、グリムグリム煩いんだよ。それにハーマイオニーが切れた」

「ああ、死の予言か。ポッター相手なら、どう予言しても当たらずとも遠からずになりそうだな」

「占いなんてそんなもんだろ」

「でも、彼女は本物の予言ができるのだろう?」

「それも稀だろ?いつもいつもできないんじゃ、そこまで重要視するに値しねえよ」

「というより、グリムというのは大きな黒い犬だろう?俺の見立てでは」


サラが途中で言葉を切り、顔を背けた。その視線の先にあるのは、レイとあれやこれやと議論を繰り広げているシリウスだ。


「あー、やっぱりそう思うか?」

「シルエットだけなら、グリムとしても成り立つだろうな」

「成り立つな」

「そう考えると、ある意味本当に見えているということになるぞ」

「…読み間違えてちゃ意味ねえよ」

「全くだな」


サラが忍笑いを漏らす。その間も俺たちの手は止まることなく論文を仕上げていく。


テスト期間前の復習ということで、あらゆる教科から山のような課題が出されているのだ。毎日消化していかなければ追いつかないほどの量に、さすがに俺たちも疲れが出てくる。


まあ、このあと教師たちはこの山のような課題を全校生徒分読んで検分しなければならないんだから、教師の方が大変だろうな。採点するのにも頭を使うのだ。


「あと、この前のクイディッチな」

「すごかったな」

「ああすごかった」

「「リーの解説」」

「それとマクゴナガルのやり取りは、もはや名物だろう。俺はあのやり取りだけで腹筋が割れるんじゃないかと思うほど笑ったな」


俺の意見に、サラは神妙に頷く。


「それに、いつも厳格な彼女をあそこまで熱狂させるスポーツというのもまたすごいものだ」

「聞いた話だと、スニッチが見つからなくて、何日も試合が続いたこともあるらしいぜ。まったく魔法界は考えることが突飛すぎる」

「マグル界ではありえんだろうな」

「ありえないね。まあ、マグル界にそんな危険すぎるスポーツもないんだけどな。だって、どこかの選手が行方不明になったこともあるんだろう?」

「それは初耳だ。いったい何をしたら行方不明になるんだ?」

「さあ?誰かが妨害呪文でもかけたんじゃないか」

「ありえるな」


くだらない話を続けながらも俺たちの手は止まらない。


おしゃべりをするのは俺たちの気分転換、というよりちょっとした脳のお遊びだ。


そうこうしているうちに、レイとシリウスの話はまとまったらしく、シリウスは魔法具作成に取り掛かり始め、レイはようやく課題を再開し始めた。


「間に合いそうか?」

「うん!」

「へえ、さすがだな。レイ」

「おい、そこは俺を褒めるところじゃないのか?」

「シリウスの飼い主はレイだからな」


俺はぐっと体を伸ばす。ようやくフリットウィックがだした課題を書き終わったため、次の羊皮紙を取り出す。


「さて、ラストスパートだな」


俺は、机の上に重ねていた本を片付け、新たに課題に必要な教材を机の上にどさりと奥。その反動でサラの文字が少しブレ、睨まれてしまったけど、俺は無視をして課題へ取り掛かった。


もうすぐ、今年最後にして最大のイベントが始まるのだ。


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