人生幸福論 | ナノ


27:お説教  




目覚めた瞬間から、噂は耳に飛び込んできた。それぐらい急速に生徒の口から口へと語られていった噂の内容を耳にするのは至極簡単だった。なぜなら、同室のドラコ・マルフォイが興奮したように普段は白い肌を赤くし、瞳孔が開いた目でもってたたき起こしてきたからである。


朝はゆっくり置きたいサラとしてはこの起こされ方はひどく不機嫌になるには十分だった。


しかし、ドラコの口から語られた噂に、半分眠っていた頭を覚醒させるにはやはり十分だったと言える。


「おい!聞いてるか!?呑気に寝てる場合じゃないぞ!シリウス・ブラックだ!ブラックがホグワーツ内に侵入して、今も逃げおおせてるらしい!」


耳を疑うとはこのことだ。


シリウス・ブラックとは、言わずもがな、創設者の部屋でレイの依頼を文句を言いながらもちょうどいい暇つぶしとして着々とこなしている男で、最初は薄汚い格好に、脱獄からこれまでネズミなどを食って生きてきていたらしいため痩せてがりがりだった。


そんな恰好を女性陣が許すはずもなく、今では身ぎれいになり、提供される食事によって本来の肉を完全に取り戻していた。


その男はほぼ創設者の部屋に軟禁状態になっているはずである。それなのに、なぜこんなうわさが出回るというのか。


サラはとにかく創設者の部屋に行かなくては、と急いで身支度を整えた。


寮を出てまず、警備が強化されていることに気が付いた。すれ違う教師たちもピリピリしているようだ。これは、何かシリウスがやらかしたらしいと早々に理解し、足を急がせた。


そして、創設者の部屋に入って目にしたものは、机に突っ伏し、悪い酒でも飲んだあとかのようにくだを巻いている祐希と、部屋の隅で真っ黒なワンコになって伏せ状態になっているシリウス、そしてシリウスの前で目を吊り上げ、髪の毛を逆立てんばかりに怒り狂っているレイだった。ちなみにアリィは、部屋の隅で傍観している。


「…なんだこのカオスな状態は」

「ああ、サラ。おはようございます」

「おはよう。アリィ。それで、この状況を説明してくれるのか?」

「ええ。もちろん」


そしてアリィから聞いたところによると、シリウスはハリーが自身が送った箒で見事勝利したことに興奮し、せめてお祝いをと思ってグリフィンドール寮に侵入。そこを見つかり、祐希がなんとか見つからずに創設者の部屋まで連れ戻したのだという。


それらを聞いて、もはや呆れしか浮かばなかった。


「シリウス…。お前、馬鹿だろう」


キュウンと、可愛らしく鳴くが、中はただのおっさんである。


「サラ!聞いてくれよ、俺の苦労を!」

「ああ。わかったから、揺らすな。肩を離せ」

「俺がどれだけびっくりしたかわかるか!?気持ちよく寝ているところをロンの叫び声で起こされたかと思えば、黒い馬鹿、じゃなくて黒い影が居て敵だと思うだろ!?そこで、失神呪文の一つも飛ばさなかった俺を褒めてほしいね!あんの馬鹿。本当だったら、普通に吹っ飛ばしていたところだよ。今頃、大けがだぞ馬鹿。それをしなかったのも、ぎりぎりで相手が馬鹿だってわかったからなんだけど、でもその時にはもう足は繰り出しちゃってたんだよな。俺、杖より先に足が出ちゃってさ。それで、とりあえず馬鹿の腹に蹴りを入れて。ざまあみろ。痣できてるんだぜ。ハッ!そんで、即座に姿くらましの呪文をかけて、ここまで逃げてきた俺の手腕!しかも、教師とは合わずに済んだこの幸運!それで!寮に戻ってきてみたら、マクゴナガルもいる中、どうにかこうにかごまかした俺の苦労!」


まさにマシンガントーク。


いつ息継ぎをしているんだと思うほど、怒涛のごとく吐きだされる昨夜の文句に、アリィはおそらく一度聞かされたのだろう我関せずで本なんかを開いている。


シリウスという単語を馬鹿に変換して話す祐希に苦笑しか出てこない。よっぽど鬱憤がたまっているらしい。


ちなみに、レイは、シリウスに延々しかりつけている。


自業自得ではあるが、自分が来る前からされているであろう説教を想えば同情してしまうサラであった。


「おい、その辺にしてやったらどうだ?シリウスも反省してるだろう」

「あれ?サラ。いつ来たの?」

「ついさっきだ」

「サラも聞いたでしょ?シリウスってば信じられないと思わない?」

「その辺にしてやれ。それより、今流れている噂をどうにかしなければならないんじゃないのか?」

「…まあ、いいわ。全員が揃うまではねちねちいじめてやろうって思ってただけだし」


レイが肩を竦めて、一番早く椅子に着席した。どうやら説教はパフォーマンスであったらしい。シリウスへの罰という名の嫌がらせだったのだろう。


「それより、流れている噂はとりあえずそのままでいいよ」

「いいのか?」

「現実問題として、先生を含めた全員に忘却術をかけていくわけにも行かないでしょう」

「それはそうだが」

「ですが、警備が強化されていることもまた事実。動きにくくなることは必至。私たちがここに集まることも控えた方がいいでしょう。どこから教師にこの場所がバレるかわかりませんから」


アリィの言葉には全員が納得したようだった。


「どっちにしても、テスト期間が終わるまでは動かないつもりだから」

「そんなに待てというのか!?」

「シリウス、ハウス!」

レイの言葉に、驚いたシリウスが人間化した。立ち上がったシリウスは目を見開いているが、そんなことは関係ないとばかりにレイがシリウスを叱咤する。指でシリウス用の簡易ベッドを指している。


「シリウスじゃないけど、俺も疑問。なんでそこまで待つ必要があるんだ?ハリーは、マルフォイ相手とはいえ、パトローナスを完成させている」


祐希が挙手をして発言をする。


「それだけじゃないんだよね。もう一個、知っておいて欲しいことがあるの」

「知っておいてほしいこと?」

「トレローニー教授の予言」

「ああ、そういえばあの人は真の預言者であるから雇われていると言われていますわね。普段の授業からはその様子は微塵も感じられませんけれど」

「予言ならレイがすればいいんじゃないか?そのほうが早いし正確だろ」

「変なフラグは立てたくないから嫌だ。それに、あたしはハリーたちと親しくないもん」

「これから嫌でも関わり合いになるだろ。早いか遅いかの差じゃないのか?」

「とにかく!あたしはハリーたちとは自然な成り行きで知り合いたいの!」


レイの強いこだわりを感じて俺たちはこれ以上は何を言っても無駄だと悟り、肩をすくめた。とにかく、ここはレイにしたがっておくべきだろう。


「なら、とりあえず期間はテスト終了後まであるとして、そこからどう動く?招待客も会場も決まっているが、招待状の出し方が問題だろう」

「そこは俺がうまくやればいいだろう。一番厄介な招待客は、生徒であるハリーたち3人だからな。他、教授陣は手紙一つで呼び出せる。それこそ、シリウスの名前を出せば一発だろう」

「考えがあるのか?」


祐希が片頬を釣り上げた。いたずらを思いついたときのように悪どい笑みだった。そして、俺たちは祐希の発言に唖然とすることになる。


「せっかく、懐かしい同級生が揃うんだ。どうせだから、ジェームズ・ポッターにご協力願うとしよう」


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