人生幸福論 | ナノ


26:バカのアホな行動  




グリフィンドール対レイブンクロー戦は、ハリーが見事にマルフォイたちの妨害行為をパトローナスを出すことによって撃退して、勝利を得ることになった。


まるで、もうクィディッチ優勝杯を取ったかのようだった。パーティーはそれから一日中、そして夜になっても続いた。フレッドとジョージは一、二時間いなくなったかと思うと、両手いっぱいにバタービールの瓶やらかぼちゃフィズ、ハニーデュークス店の菓子が詰まった袋を数個、抱えて戻ってきた。


それらはおそらく、『忍びの地図』の力を借りたのだろうとすぐにわかった。


そして、食材の調達には俺も一役買って出た。あまり知られていない厨房から屋敷しもべに頼んで寮に食料を出してもらうように言ったのだ。そのおかげで、飲み物なんかも人揃え談話室に届けられたというわけだ。


俺が厨房の存在を知っていることにフレッドとジョージは驚いていたが、それよりも、そんな場所を知っていながら、知らされていなかったことにハリーとロンは不満そうな顔をしたので、今度連れて行く約束をすることになった。


パーティーが終わったのは、午前一時ごろ。マクゴナガルが就寝時の恰好で現れ、いい加減に寝ろと一喝したからだ。


いまでこの状態なら、優勝した時は三日三晩騒ぎ明かすのではと、マクゴナガルは文句を言いながらも、肩を竦めた。


そして、夜も更け、全員が寝静まった頃、事は起こった。


突然、絶叫が室内に響いたのだ。


飛び起きて、ベッドサイドにあった杖を引っ掴み対象に向けたのはほぼ同時だった。全神経が指先と目に集中し、暗闇の中にたたずむ黒い影を見つけた瞬間、ほぼ同時に体をベッドから踊りだしていた。


そのとき、とっさに攻撃呪文を放たなかった自分をのちに盛大に褒めてやる。


足を繰り出し、相手の腹部めがけて蹴り上げる。相手は短いうめき声をあげてうずくまったすきに、両者に姿くらましの呪文を駆け、部屋からこっそりと抜け出した。そして、未だに腹部を抑えて顔をしかめている相手を無視し、すぐさま創設者の部屋に向かった。その間誰にも会わずにすんだのは奇跡としか言いようがない。


創設者の部屋に入った瞬間、掴んでいた襟首から手をはなし、相手の首あたりを掴んで壁に押し付けた。


鈍い音と、再びうめき声がひびく。しかし、お構いなしに、杖先を喉元に突きつけてやった。いつだって呪文を発動できる状態にしてでも、相手を押さえつけていなければ、この怒りは収まりそうになかったのだ。


そう、祐希は怒っていた。


それはもう、髪が逆立つほど、怒りを感じていた。


「どういうつもりだ?シリウス・ブラック」


シリウスは二度目になるフルネーム呼びに顔をしかめた。初めての時以来、シリウスをブラックという姓をつけて呼んだことは無かった。それは、シリウスが自分の家系を嫌っていることを知っているからだ。しかし、今回は嫌味を最大限に込めてフルネームで呼んだ。


そうされる理由をシリウスも十分に理解してはいた。


「お前はバカなのか?それとも、ついに頭でも狂ったか?俺たちの計画を知っていて、それでなおあの行動をした理由には、さぞ、俺が納得できるような理由が存在しているんだろうな?」

「祐希…」

「もちろん、説明してくれるんだろう?シリウス・ブラック」


その時の祐希の目は、納得できる理由がなければただじゃおかないと雄弁に語っていた。


さしもの、闇払いの仕事をし、いくつもの死線を潜り抜けてきたシリウスでも冷や汗が出てくるほどだった。


「祐希っ、そのだな、俺は別に、君たちの計画を台無しにしようだなんて思ってない」


祐希の目が細められる。


「ただ、その、だな…、ハリーがファイアボルトを使った試合で勝ったらしいじゃないか。だから、ちょっと嬉しくなって、その…」

「つまり、興奮のあまり年甲斐もなく、俺たちとしていた部屋から出るなという約束を破ってグリフィンドール寮に侵入。親心なのかどうかは知らないが、シリウスのことをまったく知らない相手に自己満足というだけで、ハリーの顔を見て一言お祝いでも行って戻ろうと思っていたところ、間抜けにも別人のベッドに侵入した挙句、起きてしまい騒がれた、ということか?」


端々に嫌味をまぜつつ冷静に推理された無いように、シリウスは言い返すすべもなくがっくりとうなだれた。


そんな相手に、祐希は、こいつ馬鹿だとつぶやいた。


「はあ、にしても、どうやって寮に侵入した?」

「これを拾ったんだ」


見せられたのは、小さな紙切れだった。そこには今回の合言葉が書かれている。


「入れない可能性は考えなかったのか。というか、よく太ったレディが許したものだ」

「寝ぼけていたからな」

「それにしても、よく出られたな」

「なんか開いたぞ?」

「まあ、もともと、鍵なんてものはかけていないからな」

「え!??」


シリウスには、この部屋にいてもらうために、鍵をかけていると伝えているのだが、もともとこの部屋にはそんな鍵は存在しない。外から中に入るためには合言葉が必要なのだが、中から外にでるためのカギなど必要ないため作られていないのだ。


しかし、シリウスは鍵がかかっているという言葉をうけて素直に鍵がかかっていると思い込んでいた。


そこが、今回使われた魔法の鍵となる。


必要の部屋と同じように、思い込みによってここの扉はシリウスが何度押したり、引いたりしても開かなかったのだ。


その説明をしてやると、シリウスはぽかんと口を開けた。


「思い込みっていうのは案外利用できるんだが、大方、寝ぼけながら扉を開けたんだろ」


図星だったシリウスは額に手を当て、天を仰いだ。


「さて、これで、シリウスの馬鹿さ加減がわかったことだが、はたしてこれからどうなるか」

「すまん」


素直に謝ったシリウスに、ようやく祐希はシリウスから手を離した。


「俺にもあまり時間はない。説教は明日だな。できる状態ならいいが…」


それよりも、寮を抜け出したことを問題視されそうだ。おそらく、今頃マクゴナガルあたりが召喚されていることだろう。そこに、祐希のベッドがもぬけの殻状態をみたらどうなることやら。


最悪、俺がシリウスをご招待したと言われかねない。まあ、あながち間違ってはいないのだが。


「まあ、いい。とにかく、俺は一度戻る。シリウスはここから出るなよ?」

「ああ。わかっている」

「次に勝手に出たら、鼻毛がわっかになる呪いをかけてやる」


顔をひきつらせたシリウスが、何度もうなずいた。




さて、それから大変だった。


寮に戻ってみると案の定マクゴナガルと、半狂乱となったロンが談話室にいた。まわりにはハリーを始め、同じ室内のものたちや、ガウンを羽織った女子生徒、それに、フレッドジョージにパーシーといった、ウィーズリー兄弟が揃っていた。


その後ろ側にすっとつき、さもずっといましたといったような表情をしてみる。


「あっ!祐希!お前どこ行ってたんだよ!」

「ずっといたよ。みんなが慌てて、気づかなかっただけだろ?」

「え?いたっけ?」

「俺、そんなに存在感ないか??」


みんなして酷いと顔をしかめると、ディーンは悪い悪いと謝った。


それで、周りもそっか、いたのかと納得したようで、ほっと胸をなでおろす。


話しを聞いていると、太ったレディが誰かを通したことを認めたらしい。しかし、寝ぼけていたレディはそれが生徒だったのか、シリウスだったのかは覚えていないらしく、それ以上問い詰めることはできなかったようだ。





その夜、再び城内は警戒態勢が敷かれ、教師たちは場内の捜索に駆り出された。生徒は全員が談話室でまんじりともせずにシリウスの逮捕の知らせを待っていた。そんな中、ハリーはちらちらと俺の方を見てくるから、俺は首をかしげた。


明け方になってようやくマクゴナガルが疲れた顔で戻ってきて、シリウスが逃げおおせたと告げた。


「ねえ、祐希」

「なんだ?」

「僕、見たんだけど、祐希のベッドは確かに空だったよ。どこに行ってたんだい?」

「ふう、やっぱり同室のやつはごまかせないか。実は、リーマスの様子がまた最近よくなさそうだから様子を見に行ってたんだ。必要ならクスリを持って行ってやろうかと思ってね」

「そうだったんだ。ルーピン先生は大丈夫だったの?」

「ああ。まだ大丈夫だろ」

「でも、それなら逃げるブラックと鉢合わせしなくてよかったね」

「まったくだ。もし戦闘になったら、泥仕合もいいところだな」

「え、君、もしかして勝てる気でいるの?」

「おや、ハリーは俺の魔法の実力を知らないとでも?」


ニヤリと笑ってみせると、ハリーはようやく強張っていた顔を緩めさせた。


「君の実力は十分に知っているよ。おかげでテスト勉強も捗ってるしね」

「そうだろ?」

「にしても、やっぱり誰かに教えるべきなのかなあ」

「何を?」

「隻眼の魔女像のことだよ。抜け道がふさがれてないんだもん」

「ハニーデュークス店から入ってきたんじゃないって、わかってるじゃないか。店に侵入したんだったら、噂が僕たちの耳に入ってるはずだろ」


ロンはすぐさまハリーの考えを否定し、ハリーもそれに納得したようだった。


もし、シリウスが動物もどきとしてハニーデュークスから侵入を試みたとしても、それはとても難しい事だっただろう。あんな大きな犬は目立つから、食べ物屋になんか入れっこない。それに、そんないらない苦労をしなくても、あいつはもっと別の抜け道をしっているのだ。


「そういや、まだ言ってなかったな」

「何?」

「パトローナス、おめでとう」

「ありがとう」

「リーマスが言っていたが、ハリーの父親も同じ雄鹿だったらしいぜ」

「え?そうなの?」

「ああ」

「そっか…」


それから、ロンはにわかに英雄になった。誰もがあの夜のことを聞きたがり、聞かれるたびにロンも嬉々として、話して聞かせた。その内容がだんだん誇張されていくのは、男の子たる故だろう。


prev / next

[ list top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -