大広間に戻った時には、組み分けが終わっていた。
テーブルには見慣れない初々しい顔の生徒たちがたくさんいる。新入生だ。ハーマイオニーが組み分けを見逃したことを残念がっていた。
マクゴナガルは教職員テーブルの自分の席へと闊歩し、俺たちは反対方向のグリフィンドールのテーブルにできるだけ目立たないように歩いた。大広間の後ろの方を3人が通ると周りの生徒が振り返り、ハリーを指さす生徒が何人もいた。
そんななか、何気なくハッフルパフのテーブルに目を向けた時だった。
一人の少女と目があった。
ぱりっとした制服を着た、幼なさを残した顔立ちだった。一年生だ。しかし、そこは問題ではない。驚きに目を見開く彼女の顔を見たとき、俺は思わず足を止めていた。
ハリーとハーマイオニーが俺が止まったことに気付き振り返る。
「祐希?」
名前を呼ばれるが、すぐに反応できなかった。腕を引っ張られグリフィンドールのテーブルに連れて行かれる。その間も、彼女を見失わないように必死に目で追っていた。
テーブルに着くと、ダンブルドアがそれを待っていたかのように話しはじめた。
新入生を歓迎する言葉と、ディメンターに関する注意事項、そして新しい先生についてだった。
リーマスのことだ。
ダンブルドアに紹介されて、立ち上がり一礼する。
続いて紹介に上がったのはなんとハグリッドだった。魔法生物飼育学の教鞭をとることになったのだ。
これには俺たちも驚き顔を見合わせた。グリフィンドールからは割れんばかりの拍手が起こった。ハグリッドは嬉しそうに、しかしとても恥ずかしそうに周りに一礼していた。
「噛みつく本の教科書を指定するなんて、ハグリッド以外いないよな?」
ロンがおかしそうに、どこか迷惑そうに言った。
「さて、これで大切な話は皆終わった。さあ、宴じゃ!」
ダンブルドアが宣言すると、目の前に金のサラ、金の杯に突然食べ物や飲み物が現れた。急にお腹が減っていたことを思いだす。
笑い声やナイフやフォークが触れあう音がにぎやかに響く。
食事が終わった後、俺たちはハグリッドの元へ駆け寄った。
「おめでとう、ハグリッド!」
「みんな、アンタたちのおかげだ」
感極まっているようで、ハグリッドはナプキンに顔をうずめた。マクゴナガルはこの宴中ハグリッドの相手をしていたらしく、慣れたようでどこか呆れを含んだ目でハグリッドを一瞥してから俺たちに寮に戻るように促した。
翌朝、大広間に行くと最初にドラコ・マルフォイが目に入った。
どうやら、何か話をして大勢のスリザリン生を沸かせているらしい。俺たちが横を通り過ぎる時、マルフォイはばかばかしい仕草で気絶するまねをした。そしてどっと笑い声があがる。
思わずガキか。と吐き捨てるようにつぶやいていた。
そして、心中で、まだガキだったか。と納得する。
俺のその言葉が聞こえていたのかマルフォイがむっとした顔をむけてきたが、それを無視した。どうやらサラはまだ起きてきていないらしい。
「知らんぷりよ。相手にするだけ損」
ハーマイオニーがハリーに言った。
その時、俺はちょうど大広間に入って来る生徒を見つけて思わず走り出していた。
ローブにハッフルパフの紋章をつけた彼女だ。
波打つブロンドの髪に、深いグリーンの瞳。彼女は駆け寄ってくる俺に気付くと驚いたように目を丸くした。そんなのも俺は無視して、俺より頭一つ分小さい体を抱き上げ、一周振り回した。彼女から短い悲鳴があがるのも気にせずに、腕の中にすっぽり納まる彼女を抱きしめる。
「ああ!会いたかった!やっと会えた!ヘル!」
「ちょ、やめ、やめてってば!」
「どれだけ待ったと思ってるんだ!寂しかったんだぞ!」
「知らないわよ!っていうか、みんなびっくりしてるから!離して!!」
「嫌だ!もう離すものか!これでやっと4人そろったんだ。去年入って来るかと思ったのにまだ来なかったからっ」
その時、突然頭に強い衝撃が走る。前のめりに倒れそうになった俺は彼女がいることでなんとか踏みとどまった。
「いってえな!何すんだよ!」
「うるさい。朝から迷惑だ。それに、周りのことも考えろ」
「って、サラ!見ろ!ヘルだ!やっと会えた!」
「わかってる。感極まるのも勝手にすればいいが、時と場所を考えろ馬鹿が」
「まったくもって同感ですわ。こんな大広間で何を考えているんだか。彼女はまだ新入生ですよ。これからのことを考えればそんな行動に出られるはずがありませんわ」
絶対零度の視線をサラからもアリィからも受けてうろたえる。
そして、ようやく興奮が収まり冷静になった頭で周りを見回せば、先ほどまでハリーをバカにして大笑いしていたスリザリン生も俺と一緒に来ていたハリーたちも呆然と俺のことを見ていた。
「あちゃー…」
「もう!あちゃーじゃないよ!本当にびっくりしたんだからね!?」
「…悪かったって。でも、本当にうれしかったんだ」
「う…、それは」
彼女も同じ気持ちでいてくれたのか言葉に詰まり視線を彷徨わせる。
「そういや、まだ名前を聞いてなかったな。おれは祐希。祐希・赤司だ。生まれは日本。今は3年生だ」
「俺はサルヴァトア・クリフデン。クリフデン家の長男だな。生まれはイギリスで、同じく3年だ」
「私は、アルウィーン・キンス。今は5年生ですわ」
「わたしは…、レイチェル。レイチェル・バイロン。レイって呼んで」
「レイね。あの部屋のことは覚えてる?」
「あの部屋って…、ああ、わたしたちの部屋?」
「ええ。そうね、夕食後にでもあの部屋で待っていますわ。ゆっくりお話がしたいものです」
「わかった。必ず行くわ。わたしも…、聞いてほしいことがたくさんあるの」
少しだけ俯いたレイは、どこか暗い表情をしていた。何かあったのだろうかと心配になり、俺たち3人は顔を見合わせる。
しかし、新入生であるレイを囲む俺たちはとにかく目立っているらしく、かなり注目を集めてしまっていたためここで話はできないと判断し、とにかく後で会おうと約束し合った。
グリフィンドールの席に座ると、興味津々といったハリーたち三人がいた。
「悪いな。驚かせた」
「君、あの子と知り合いなの!?もしかし、恋人とか?」
「まさか。ただ、古い知り合いだ。ずっと、会えなかったんだ。それが、やっと会えたから…つい感極まっただけさ」
「私びっくりしたわ。だって、あなたとっても…、とってもきれいな顔して笑っていたわよ。本当にうれしそうに」
「嬉しかったんだ。本当に。どこかで再び会えることは諦めかけていたのかもしれない。だから余計にな」
「君って、不思議な知り合いが多いよね。日本に居たのにどこで知り合うの?」
ハリーが小首を傾げて聞いてくる問いはある意味核心に迫っていて苦笑する。
「いろいろとな。俺は、友人は大切にする性質なんだ。お前らのこともな」
そういうと、三人はそろって顔を赤くしていた。
「君って、時々とっても恥ずかしいよ」
「そうか?」
「うん」
ロンの言葉に首をかしげるが、そんな恥ずかしがられるようなことを言った覚えはない。
そのあとはなんだかんだ和やかに朝食を終え、3年生初の授業へ向かった。