人生幸福論 | ナノ


27:終わりの始まり  




寮に戻ると歓声が上がった。一足早く俺が今日退院するという知らせが来ていたらしく、みんなが待ち構えていたらしい。


その中にはハーマイオニーや、まだ傷跡が残るハリーやロンの姿もあった。


そちらに近づこうとすると、目の前に誰かが躍り出てきた。それが俺にとびかかる勢いで来たので、とっさに2歩ほど後ずさることになった。首に回された腕と、鼻先をかすめる赤毛。小柄な体が俺に目いっぱい抱き着いてくる。


周りがヒューと口笛を吹いてはやし立てる中、ウィーズリー家の人間だけはほっとしたように胸をなでおろしていた。


「ジニー」

「ああ、祐希!あたし、なんて言ったらいいか。あたし、覚えてるの。貴方に杖を向けたこと。でも、あれはあたしじゃなくて、」

「ジニー、落ち着いて。大丈夫。全部知ってる」

「あれは、トムが」

「大丈夫。あれがジニーの意志じゃなかったことも、一連の事件の犯人が誰なのかもわかってる」

「じゃあ、許してくれる?」

「もともとジニーには怒ってねえよ。ほら、そんな泣きそうな顔するな。せっかくの祝い事だ。楽しもうぜ?」


涙が浮かぶ目元をそっと拭ってやると、ようやくジニーの顔に笑顔が戻った。それにほっと胸をなでおろす。


「でも、あたし不思議なんだけど、あのときのこと少しだけ覚えてるの。あの時の貴方、まるでバジリスクがくるって知ってるみたいな反応だったわ」

「ハーマイオニーを追いかけてる途中に俺も気づいたんだよ。まあ、もともと見なければ石にならないんじゃないかとは思ってはいたんだけどな。正解だっただろう?まあ、石になったほうが回復は早かったみたいだけど」


冗談めかして肩を竦めて見せる。


その時、おれの両肩にずしりと誰かの腕が乗った。そして、両側から同じ顔が覗き込んでくる。


「「英雄のお帰りだ!」」

「おい、英雄ってなんだそりゃ」

「だって、お前は」

「あのバジリスクと戦って」

「生き延びた男だぞ」


かわるがわる言葉を続ける二人に、相変わらず息がぴったりなことに笑う。


二人の大げさな物言いは今に始まったことじゃないので流しておく。


「我らが妹の抱擁はどうだった?」

「なんだったら、ジニーの彼氏に立候補する?」


二人がにやりとイタズラな笑みを浮かべて俺に耳打ちしてくる。耳打ちといっても、その辺に聞こえるような声でいうものだから、近くにいて聞こえてしまったジニーが顔を真っ赤にした。


「自分らの妹をそう簡単に薦めるなよな。ジニーが気まずい思いするだろ」

「俺らは祐希ならいいぜ。なあ、兄弟」

「ああ。祐希は勇敢だし何より」

「「イタズラ心がわかる」」

「お前らの重要なところはそこか」

「ジニーと結婚したら、俺らの弟だ」

「気が早いな」

「ジニーと結婚したら、お前もウィーズリー家だぜ」

「そういうのは、ジニーと相談して決めるさ。兄貴どもはすっこんでろ」

「おい聞いたか!祐希はその気があるみたいだぞ」

「おう聞いたぜ!あとはジニーの気持ち次第だな」


二人はそろって顔を真っ赤にして目を泳がせているジニーの方を見て、ジニーの答えはと迫っている。可哀そうなジニーはそれに口をぱくぱくとさせるだけで言葉も出てこず、逃げるようにして人ごみの中へ消えてしまった。


「ジニーが好きなのはハリーなんだろ?」

「おや、知っていたのか。でも、あれは」

「「脈ありと見た」」


満足げに頷く二人に呆れて物も言えなくなる。


まあ、ジニーはかわいいと思うけれど、俺の精神年齢とかを考えてしまうとどうも年下とどうこうなるのはなんだか犯罪めいて思えてしまう。自分は大人で相手は子供という感覚が抜けないため、どうにも恋愛感情まではたどりつきそうにない。


そのあと二人から離れ、ようやくハリー、ロン、ハーマイオニーのいる場所までたどり着いた。


「ハリー、ロン。大変だったんだってな。ハーマイオニーも無事で何より」

「祐希も」

「なんだかんだ、祐希が一番重症だったよな」

「仕方ないじゃない。だってバジリスク相手に戦ったのよ?目も開けないのに、よく生きてたと思うわ」

「そうだぜ。どうやって戦ったんだよ」

「どうやってって、目を瞑って気配を読んでだな」

「君って実は何か特殊なことでもやってたの?」

「特殊なこと?」

「だって、気配だなんてわかるわけないだろ!?」

「慣れだろ。それより、お前らの話聞かせろよ。秘密の部屋、行ったんだろ?」


机の上に出されていたパイを口に運びながら二人に問いかける。


すると、興奮気味に俺が気を失ってからのことを次々に話してくれた。サラから聞いていたことと組み合わせながら話を理解していく。


というか、改めて思うが、こいつら厄介ごとに巻き込まれ過ぎやしないだろうか?


悪運が強いというかんなというか。


しかも、闇の魔術に対する防衛術の教師はまたもや今年一年で辞めることになった。ロックハートは記憶を取り戻さなければいけないからだ。俺としては、記憶を失ったまま新たな人生を送ればいいと思う。





あまりにも早く時が過ぎ、もう、ホグワーツ特急に乗って家に帰る時が来た。


コンパートメントの中では、夏休みに入る前に魔法を使うことが許された最後の数時間を楽しむために魔法を使った遊びをしていた。


そんな中、俺はそっと抜け出し、車両の中を歩いていく。


「一人でどうしたんだ?」

「サラ」

「あいつらと遊んでたんじゃないのか?」

「なんだ見てたのか?」

「たまたま前を通りかかったからな」

「あら、お二人ともこんなところでどうしたんですの?」


ばったりと出くわしたアリィは本当に驚いたように俺たちを見ていた。その後ろには彼女の友人らしい少女がいたが、アリィが彼女に一言告げると、彼女は手を振って先へと歩いて行ってしまった。


「一緒に行かなくてよかったのか?」

「ええ。同じコンパートメントですから」


結局車両と車両の合間にある空間に3人で集まってしまった。


「今年もいろいろありましたわね」

「この一年は平穏とは程遠かったな」

「来年もそうなるんじゃないか?」

「勘弁してほしいな」


サラが苦笑をこぼした。それに、同調するようにアリィが肩を竦める。


「2人は夏休みは何か予定があるのですか?」

「俺は両親が旅行に行くと言っていたな」

「俺は何もないぜ?ああ、でも満月の夜はおそらくスネイプのところに行くな」

「あら、いつのまにそのような関係に?」

「同じ薬学馬鹿だからな。意気投合したんだ。面白いぜ?あいつ。できるなら、スネイプも同じ学生だったならもっと楽しめたかもしれないけどな」

「そうですか。貴方と語り合えるというのなら、教授も相当な薬学好きなのでしょうね」


くすくすと笑うアリィに肩を竦める。


「アリィは何か予定はあるのか?」

「そうですわね。パーティーがいくつかありますわ」

「さすが貴族だな」

「おそらくクリフデン家ともそこでお会いしますわね」

「我が家も呼ばれているのか」


げんなりした様子のサラにアリィはもちろんですと大きく頷いた。


廊下からアリィの友達が顔を出した。そして、もうそろそろつくから着替えた方がいいと告げる。


「わかりました。それでは、お二方。夏休みも手紙を送りますわね。サラは旅行では気を付けて。祐希は薬学に熱中しすぎて食事を抜くなんてしないようにしてくださいね」


それに二人そろって頷き返すとアリィは手を振って友達と一緒にコンパートメントへ戻っていった。


「俺たちもそろそろ戻るか」

「そうだな」

「サラ」

「ん?」

「来年も楽しもうぜ」

「お前といると退屈なんてしないさ」


サラもひらりと手を振って戻っていく。その先にはドラコ・マルフォイがクラッブゴイルを連れて立っていた。どうやら戻りが遅いサラを迎えに来ていたらしい。去り際にこちらを睨まれたがにやりと笑い返すと、そっぽを向いてしまった。


俺もコンパートメントに戻ると、そこには散らかった室内があった。


「遅かったね」

「ああ。ちょっと友達と立ち話してたんだ」

「祐希の友達って、あのスリザリンの?」

「なんだ。ハリー。不満そうだな?」

「別に、そういうんじゃないけど…。ただ、僕たちの方が長くいるはずなのに、すごく仲がよさそうに見えるから…」

「ははっ、嫉妬か?」

「そういうんじゃないよ」


ハリーは自分の気持ちを正確に捉えることができずに困惑しているらしい。言葉を探しては違うとうなっているハリーに苦笑を浮かべる。


「あいつらは…、そうだな。過ごす時間とかは関係ないんだ。たとえ遠く離れていても、会えない時間が長くても、あいつらの存在は俺にとっては特別なんだ。きっと、あいつらに出会えたことが、俺の人生においてもっとも幸運なことなんだ」


俺の言葉にハリーが目をぱちりと瞬かせる。


呆然としたその表情に肩を竦め、ハリーの頭を掻きまわすようにして撫でる。


「ハリーにとってはロンとハーマイオニーがそうなんじゃないか?」

「…祐希って、時々すごく同い年じゃないみたいだ」

「ハリー、祐希!もうすぐつくみたいだ」


列車が速度を落とし始めた。ずっと田舎風景しかなかった外の景色がいつの間にか建物が増え都会に染まってきている。


ハリーの顔はあからさまに残念がっていた。


ホグワーツ特急が完全に停車すると、ハリーは羽ペンと羊皮紙の切れ端を歩ちだした。


「これ、電話番号って言うんだ」


番号を三階走り書きし、その羊皮紙を三等分にした。


「君のパパに去年の夏休みに電話の使い方を教えたから、パパが知っているよ。祐希は電話、知ってるんだよね?」

「ああ」

「ダーズリーのところだけど電話してよ。あと二ヶ月もダドリーしか話す相手がいないなんて、僕耐えられない」


ハリーがげんなりした様子でいった。


ハリーの家に暖炉があれば遊びにだって簡単に行けるのだが。


今度、ハリーに何か簡単に会話をできるものでも探してプレゼントしよう。


俺たちは、人波に飲まれながら柵を越え、マグルの世界へと戻った。







fin.
(Next is the Prisoner of Azkaban ...)


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