人生幸福論 | ナノ


24:負傷  




クィディッチ競技場に対戦する二チームが万雷の拍手に迎えられ入場した。オリバー・ウッドはゴールの周りをひとっ飛びして、ウォームアップし、マダム・フーチは競技用のボールを取り出した。


誰もが最近の嫌な事件を払しょくするようにこの競技に熱気を注ぎ込んでいた。


この試合結果次第でスリザリン寮の順位も変わってくるため、スリザリン寮生も多く観戦に訪れていた。


隣ではドラコがポッターにののしり声をあげている。


「おい、サルヴァトアはどっちが勝つと思う?」

「さあな」

「僕はハッフルパフだと思うね」

「まあ、ハッフルパフに勝っててもらわなければ俺たちが最下位になるからな」

「君も僕のせいだというのか!」

「そうは言っていないだろう」


目くじらを立てるドラコをあしらうと彼は憤慨した様子を隠すことなく顔を反らした。彼にとって


いよいよホイッスルがなるかどうかというとき、生徒の誰かが声を上げ天を指さした。


場が騒然となり教師陣は驚きに立ち上がる。


それはそうだろう。降り立ったのは銀のライオンだったのだ。


どう見ても守護霊でしかないそれは高等魔法の一つであり、卒業間際の生徒ですら出せるかどうか怪しい魔法だ。


そして、その形には見覚えがあった。嫌な予感に思わず立ち上がる。隣でドラコが、怪訝そうにあのライオンがなんなのかと呟いているが、そんなもの耳にも入ってこなかった。


ライオンは競技場を一周したかと思うと大きく一吠えした。その咆哮は空気を震わせ、その場にいた全員の肌を粟立たせた。


そしてライオンはまっすぐこちらへかけてくる。


周りの生徒が端へと逃げていく。俺のまわりに空間ができると、ライオンはそこに降り立った。


見つめるライオンからはなんの言葉も発せられない。


守護霊ならば何か言伝があるのかと思ったが、何の言葉も届けられないということは、届けられるような状態ではないということか。


「案内しろ」


一言いうと、ライオンは再び呻り声をあげ、今度は地面を蹴り走り出した。そのあとを追う。


周りの状況など気にしている余裕などなかった。


ライオンは祐希の守護霊だ。昔から、神々しいまでのライオンの姿があいつの象徴だった。だからこそ、グリフィンドールのエンブレムにはライオンが使われている。あのエンブレムの動物は俺たちの守護霊をそれぞれ当てはめたものだ。


やがてたどり着いた場所にはすでにアリィがいた。


アリィは赤い水たまりをものともせず膝をつき彼女のローブを浸している。


そのそばには横たえる少年がいた。


短い黒髪が赤い水たまりに浸っている。以前とは比べ物にならないほど薄い顔立ちになった友人が瞳を閉じていた。いつだって彼の黒い瞳は勇気にきらめき強い光を放っているのに、それが向けられることはない。


血の気が引くとはまさにこのことだろう。自分がどこに立っているのかも何もわからなくなる。頭が真っ白になる。周りの音が聞こえなくなる。なんの情報も頭が受け付けなくなった。


何が起きて、どうすればいいのかも何もかもわからず立ち尽くしていた俺を立ち直らせたのはアリィの鋭い声だ。


「サラザール!しっかりしなさい!あなたがしっかりしなくて、祐希が助かるものですか!」

「!!ロウェナ…」

「幸い、一命は取り留めています。止血もしました。」

「…ゴドリックは…」

「ええ。驚くことに生きています」

「そう、か…」

「ですが、この状況…。貴方はどう考えますか?」


彼女にそう言われて、改めて周りを見回した。


すぐそばには女子生徒が倒れている。近づくと驚きに目を見開いたまま固まっていた。


そして、階段を上ったところにはポッターたちといつも一緒に居るハーマイオニー・グレンジャーもいる。


「…ハーマイオニーを追ってきて、犯人と遭遇。そのまま戦闘になったというところか?おそらくそっちの女子生徒は巻き添えをくっただけだろう」


見分をしながらも手際よく担架を出した彼女は、祐希を慎重に担架にのせた。


「先生方は」

「もうすぐ来るだろうな」

「祐希が守護霊を飛ばしてくれて助かりました。あと少し遅ければ間に合わなかったでしょう」

「ロウェが先についてくれて助かった。俺では医療魔法は使えないからな」

「そういえば、昔から下手でしたね」

「これでも精進したんだがな…。だが、本格的にもう一度勉強をするべきか…」


引き裂かれた腹部は祐希の血で赤黒く染まっている。彼の腕は見るも無残な形になっていた。それでも杖を手放していないのはさすがというべきか。


恐らく最後の力を振り絞って守護霊を放ったのだろう。そんな精神状態で守護霊を出せたことに驚くばかりだ。


ドタバタと足音が聞こえてきたと思えば、教師陣が駆け上がってきた。そして、明らかに戦闘があったと思われる廊下の様子や、石になった生徒、そしてアリィによって担架に乗せられている祐希を見て言葉を詰まらせる。


「ミス・キンス…、赤司は…」


マクゴナガル先生が震える声でつぶやく。


「一命は取り留めています。止血もしているのですぐに医務室へ運ばせてください」

「ええ、もちろんです」

「それと、そこの彼女ともう一人、上にグレンジャーが」

「なんと!」


グリフィンドールから二人の犠牲者が出たことにマクゴナガル先生はショックを隠し切れない様子だった。


「事情は後で聞きましょう。とにかく、クィディッチは中止です。すぐに生徒を寮へ返しましょう。他の先生方は石になった生徒を運んでください」

「なんということでしょう!生徒が化け物と遭遇してしまうなんて!ひどいけがだ。大丈夫私は前に瀕死の友人を直したことがある。私に任せなさい、ミス・キンス」


どこから出てきたのか。ロックハートがしゃしゃり出てきて祐希に近寄ろうとしたが、祐希とロックハートの間に体を滑り込ませ、杖をロックハートに向ける。


「祐希に触るな。貴様の手助けなどいらん」

「なっ!ミスター・クリフデン。君はお忘れのようですがね。私は過去に」

「過去のことなどどうでもいい。今祐希に必要なのはマダム・ポンフリーの手当てだ。貴様のような俄者(にわかもの)の手助けなどいらん」


それでも前に出てこようとするロックハートに足払いの呪文を駆け、転がったロックハートをそのままに医務室へと急いだ。


その間、どの教師もロックハートを擁護することもなかったことから、他の教師もロックハートの無能っぷりに気付いているということだろう。


医務室に運んだ祐希はマダム・ポンフリーによってすぐに処置が施された。アリィが施した止血のおかげで、傷についてはほとんど心配はないらしい。しかし、腕は骨が粉々になっていたために直すのにしばらく時間がかかるようだった。


しばらくして、廊下が騒がしくなったかと思えばマクゴナガルに率いられポッターとウィーズリーが医務室に入ってきた。


彼らは医務室の中にいる俺たちに目を丸くしていたがすぐにグレンジャーの姿を見つけると彼女に駆け寄った。


「ハーマイオニー!!」

「3人は図書館近くで発見されました」

「3人?」

「赤司ですよ。ポッター」


マクゴナガルは沈んだ声で、少しだけ祐希が眠るベッドにかかるカーテンを引いた。


二人は飛び上がるとそのカーテンの中へ入っていく。そして、短い悲鳴を上げた。


「二人とも、これがなんだか説明できないでしょうね?3人のそばの床に落ちていたのですが」


マクゴナガルは総意って小さな丸い鏡を見せた。それを見て俺たちは顔を見合わせる。


恐らくはグレンジャーだろう。彼女が賢いと祐希が常々いっていたが、それは本当だったらしい。彼女は気づいたのだ。秘密の部屋の怪物ななんなのか。そのうえで、どうすれば自分が死なずに済むのかを。


「グリフィンドール塔まで送っていきましょう。私もいずれにせよ生徒たちに説明しなければなりません。貴方たちはもう少しここでお待ちなさい。今ダンブルドアがいらっしゃいます」

「なら僕たちも!」

「いいえ。彼らは祐希の第一発見者です。状況をダンブルドアに説明してもらわなければなりません。貴方たちは安全のために寮へ戻るのです」


マクゴナガルはそれ以上引くことはせず、ポッターたちをつれて出て行った。


「…アリィ。どうする?」

「祐希は心当たりがあると言っていましたわね」

「ああ」

「まさか祐希がここまで負傷するだなんて」

「バジリスクがその場にいたのなら目は瞑っていたはずだ。だとしたら、祐希でも手こずって当たり前だろう」

「自分を責めているのですか?」

「……俺が持ち込んだものだからな」

「その自覚があるなら私からは何も言うことはありません」

「罵倒しないのか」

「しても仕方ありませんから」


アリィを見上げる。このぐらいの子供だと女子の方が成長が早いという。現に彼女は俺より少し高い位置に頭があり、見上げなければならない。


その彼女は凪の海のように静かな面持ちをしていた。


ダンブルドアがローブを翻しながら入ってきた。その後ろにはいつも以上に血色が悪そうな顔をしたスネイプと二人に小走りでついてくるフリットウィックの姿があった。


彼らは俺たちを一瞥だけするとすぐに閉められたカーテンの中へ入っていく。そこには処置が施され、今は安静に寝かされている祐希がいる。


その隣のベッドには石にされたグレンジャーたちもいる。


「これは…」


中からダンブルドアの驚いた声が聞こえた。


「校長。赤司は秘密の部屋の怪物と遭遇したと思われます。果敢にもそれに立ち向かおうとして、このような怪我を…」


マクゴナガルは悲痛な面持ちで見解を述べた。


「たとえば…、赤司が一連の騒動の犯人だったとは考えられませんかね。その現場をグレンジャーたちに見られ、争いになり負傷を負った、とは」

「いいや。それはないじゃろう。セブルス。あの呪いは魔法使いが使えるような魔法ではない」

「しかしですな、赤司は高等魔術である守護霊の呪文をつかえているようですが?」

「確かに。2年生が使えるのはちと稀じゃが、犯人ならなおの事、そんな目立つような方法で助けを呼んだりせんじゃろう」


そして、ダンブルドアはマダム・ポンフリーを呼ぶと祐希の状態を聞きだした。


「しばらくは医務室の警備も強めよう。もしかしたら、祐希は犯人を見ているのかもしれぬ」

「それは、生きていると知ったらまた祐希が襲われるということですか!?」

「わからぬ。…それで、君たちは何か知っているかね?」


ダンブルドアの青い氷のような目がこちらに向いた。


アリィと顔を見合わせ、そろって首を横に振る。


「いいえ。私たちが知っているのはあの守護霊が祐希のだということと、彼があそこに倒れていたということだけですわ」

「なぜ2年生の赤司があの呪文をつかえた?」

「それは彼の努力と好奇心としか…。彼が好奇心旺盛で、どれだけ努力家かはスネイプ先生が一番よくわかっていらっしゃるのでは?」


アリィの言葉にスネイプが押し黙った。一緒に薬学の研究をしているのだ。あいつがどういう性格をしているのかはよくわかっているのだろう。


「今日はもうよい。君らも寮に戻るべきじゃ。先生方は二人を寮へ」



それからは警戒態勢が敷かれ、移動教室は先生が次の教室や寮まで付き添い、食事以外で他へ行くことは許されなくなった。自由な時間がなくなったことに生徒からは不満の声が多数にもれていたが、ダンブルドアが連れていかれたことへの不安の声の方が大きかったといえる。


それから事態が動いたのは数日後のことだった。


そして、俺はある決意を固める。


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