人生幸福論 | ナノ


21:リドル日記  




彼女を観察し始めて数日、ハリーが突然五十年前の事件はハグリッドが犯人だったのだと言い出した。


何でも日記に書き込むとリドルから返事が来て、五十年前の出来事を親切にも記憶を見せる形で教えてくれたらしい。


それどんな日記だ。


まあ、確かにハグリッドなら怪物と聞いて興味をそそられただろうし、見つけられるなら見つけたいと思っただろう。ただし、ハグリッドには見つけられるはずがない。なぜなら彼はパーセルタングを話せないからだ。そして、話せたとしてもハグリッドが彼の王を操れるはずがない。サラザールの命によりホグワーツの生徒を殺すなと受けているからだ。ヘビはとても情が深く仲間意識が強く賢い。そのため彼の王はそれを何百年も守り続けてきていた。だからこそ、今までホグワーツの地下にバジリスクという怪物が眠っていながら、誰も被害を受けていないのだ。


それなのに、そのサラザールの命令を破ってまでハグリッドに彼の王が従うだろうか。答えは否だ。つまり、この日記は間違ったことを教えていることになる。


連日、ハリーたちと議論が交わされては平行線をたどる中、俺は別のところに意識を飛ばしていた。


ハリーが持つその日記だ。


誰かがマートルのトイレに捨てたらしいその日記は、ハリーを惹きこめるだけの魔力が込められていることになる。正常な魔法ではない。闇の魔法に近いものだろう。その五十年前につくられたものだとしたら、そうとうな魔力と頭脳をもったものがこの日記をつくったことになる。


「なあ、ハリー」

「何?もう一回聞きたいの?」


苛立ちを隠しきれない様子でハリーが問い返した。それに俺は苦笑を浮かべる。ロンとハーマイオニーがせがむから、何度も何度も語って聞かせた話に、ハリーはうんざりしているらしい。


「違うさ。その日記、俺に貸してくれないか?」

「え?日記を?」

「ああ。書きこんだら、応えてくれるんだろう?仕組みに興味がある。それに、個人的にちょっと調べてみたいこともあるんだ」

「うーん、でも…」


ハリーはポケットからその日記を取り出した。真っ黒な革表紙のそれを、ハリーは肌身離さず持ち歩いていたらしい。


「頼むよ。悪いようにはしないから」

「…わかった。でも、返してね」

「………ああ」


ここまで執着を見せているハリーに違和感を覚える。たしかに好奇心をそそられるものだろうが、肌身離さず持ち歩くものでもあるまい。


その日記を手に取り、俺は大事にポケットに滑り込ませた。






さて、俺は創設者の部屋にきている。もちろんサラとアリィは召集済みだ。


二人が来るまで俺は紅茶と茶菓子を用意して一人先にティータイムに突入してみる。


「うーん、やっぱり俺がいれるよりサラが淹れる方が上手いのはなぜだ…」


首をかしげ手元のティーカップを覗き見る。紅茶色のその液体は誰が淹れても似た色になるというのに、こうも味が変わってしまうのだから、とても不思議だ。こういう繊細な飲み物を淹れるのは苦手だ。ただでさえうまく淹れられないのに、なぜか5回に一回は奇跡の味になってしまう。奇跡と言っても、美味しいほうの奇跡ではない。この世のものとは思えないほどのひどい味になるのだ。自分でも解せない。


これでも、魔法薬ならば俺のほうが断然上手くできるというのに。


紅茶を片手にうんうんうなっているところで、扉が開き、サラとアリィが入ってきた。


「よ!お二人さん」

「こんな時に召集をかけるなんて、お前は馬鹿だろう」

「そうですわ。友人をまくのにどれだけ苦労したか」

「俺は秘密の部屋をあけにいくのかとマルフォイに問い詰められた」

「ハハハッ、まだ疑惑をかけられてるのか」

「まったく、いい迷惑だ」

「貴方の場合あながち間違ってはいないでしょう」


アリィにチクリと刺されたサラが顔をしかめた。


「まあまあ。その真犯人について、ちょっと進展したことがあってな。呼んだんだよ」

「わざわざ守護霊を飛ばすから何事かと思ったぞ」


守護霊とは、その名の通り自分を守護するための霊を呼び出す術だ。ディメンター相手に有効的でもあるが、それ以外に自分の言葉を伝える伝令方法としても用いられることが多い。その人物の心によって姿を変えることも特徴的で、俺は生前と変わらずライオンだった。


「とりあえず座れよ。紅茶も淹れたんだ」

「…お前が淹れたものか」

「…祐希が淹れたものですか」


二人そろって微妙な顔をされた。


「なんだよ。たまには俺が淹れてもいいだろ?」

「サラ、淹れなおしてもらえませんか?」

「ああ。もちろんだ」

「えーっ!俺だって成長してるんだぜ!?」

「馬鹿野郎。お前の紅茶はいつもどんな淹れ方をしたって微妙なんだ。俺が監督して淹れたものですら微妙な味にしかならなかったんだから、諦めろ」

「そうですわ。人間、向き不向きがあるものです。貴方に紅茶をいれるのは不向きなのですよ」

「二人して、ひどいな。今回は奇跡の味じゃなかったんだぞ」


でも、確かに微妙な味であることは確かなので否定のしようがなかった。


ゴドリックの時も、サラザールに付き添われ、手元を監視されながら紅茶を淹れたことがあった。淹れ方も、時間配分もなにもかも同じはずなのに、淹れられた紅茶はやっぱり微妙な味で二人で顔を見合わせ首をかしげたものだ。


譲る気もなさそうなので、ポットの中身を消し、サラに渡す。


サラは慣れた手つきで紅茶を淹れると、あたりにいい香りが漂い始めた。やっぱりサラの淹れた紅茶は匂いもうまそうだ。


「やっぱり、これですわよね」

「そうだよなー」

「彼の紅茶を飲むと、もうあなたが淹れた紅茶は絶対に飲みたくないと思いますの」

「そこまで言うか?」

「だって、微妙なんですもの」

「不味くはないだろ?」

「おいしくもありませんわ」

「でも飲めるだろ」

「5回中4回は、ですがね。進んで手に取りたいとは思いませんね」

「………」


どうあっても飲みたいとは思えないと言われ、さすがに口を閉ざす。


何が原因なのかもわからないから改善のしようがない。


そのうち、サラが新しく紅茶を淹れて、俺たちの前に置いた。それを口にいれると悔しいがやっぱり美味い。美味いものは美味い。


「そう、この味ですよね」

「当たり前だ」

「なんでかなあ…」

「知るか。お前が次に紅茶を淹れるのは、どうしても淹れる人間がいなくてそれでも紅茶を飲みたくなったときに仕方なく、他に選択肢がなくて仕方なくってときに淹れろ」

「はあ?どんな状況だよそれ」

「俺が知るわけがないだろう」

「つまりは、よっぽどのことがない限り淹れるなってことでしょう」


アリィにまで言われてしまいがっくりと肩を落とす。


飲めないほど拙いわけじゃないんだから、別にいいと思うんだよなあ。


「それで?俺たちを呼び出したのは?」

「ああ、そうだった。とりあえずこれを見てくれ」


俺がローブのポケットから取り出したのはあの黒革の日記帳だ。それを机の上に乱雑に置く。


まずアリィが注意深く観察し、それを一ページ捲った。中に何も書かれていないことに首を傾げ、裏をひっくり返し、そこにある名前に目を止めた。


「T・M・リドル…。特別功労賞を獲得した人ね」

「T・M・リドル?」

「そう。トム・マールヴォロ・リドル。50年前、特別功労賞をもらった奴だ。トロフィー室にもその名前が飾られている」


俺の言葉にサラが眉をしかめた。


「50年前…。秘密の部屋が開かれた時か」

「そうだ」

「これはどうしたんですか?」

「ハリーとロンが4階の女子トイレの中で拾った」

「……女子トイレというところは突っ込まないでおきましょう。マートルがいるところですわね」

「あそこはマートルが居ることもあって人が寄り付かないからな。隠れて何かをするにはちょうどいいんだ」

「なるほど。あそこでポリジュース薬を作ったのか」

「ご名答!」


サラの言葉に、アリィが驚きの声をあげた。そういえば、アリィには言っていなかったかもしれない。


「どういうことですか?」

「ちょっと事実確認のために成り済ましただけだ。それで悪さはしてないよ」

「ポリジュース薬を作っている時点で十分悪さをしています!わかっているのですか!?どれだけ校則を破っているのか!」

「もちろん。それも承知済みだろうよ。あ、一応弁解しておくと、俺は一切口出しはしてないからな?」

「まったく。それも問題ですわ。貴方は止めるべき立場でしょうに」

「ずっと疑ってかかるより、真偽をはっきりさせたほうがいいだろう?」

「ポッターたちが疑っていたのはサラですか」

「サラも、だな。マルフォイも疑っていた」

「……マルフォイがそんなことをできる器には思えませんわ」

「おい、一応俺の寮生だぞ」

「事実を言ったまでです」


ふんと鼻を鳴らすアリィだが、すぐに再び手元にある日記に視線を落とす。


「それで、この日記がどうかしたんですか?何も書かれていないようですが」

「実は、ハリーがな、」


俺はここ最近何回も聞いてそらで言えるようになってしまったハリーの体験話を語って聞かせた。


日記に意志が宿っているらしいことと、どうもきな臭いことも一緒に伝えておく。


ちなみに、二人ともハグリッドにそんなことができるはずがないと言ってくれた。


「確かに、怪しいですわね」

「だろう?第一、俺は過去を見せる日記なんて知らん。しかもお話ができるってどんな日記だ。意志でも持っているみたいだ」


ずっと黙って話を聞いていたサラは、おもむろにアリィから日記を取ると、それをぱらぱらと開いて見せた。そのあと杖を取り出し何か呪文を書けたみたいだが、日記には何もおこらなかった。


「意志、か。書き込んでみるか」

「会話してみる?」

「わからなければ聞くのが一番だろう。お前もそのつもりだったんだろう?」


俺はにやりと口角をあげた。


「さあ、ご覧あれ。鬼が出るか蛇が出るか」


俺はもう一つ用意しておいたインク壺と羽ペンを取り出し、羽ペンの先をインクで浸す。


まず、二人にもみえるように、ペンの先からインクをたらす。すると、インクはにじんだかと思うと吸い込まれるようにして消えて行った。


それを確認してから文字を書き込む。


「こんにちわ、T・M・リドル?」


その文字も消えたかと思うとすぐに文字が浮かんできた。


『こんにちは。君は誰?』


「本当に言葉が返ってきましたね」

「ああ。見事だな」

「名乗るのは俺でいいよな」

「好きにしろ」


二人の了承をもらって、もう一度白紙のノートに書き込む。というか、このページだけで済むのなら、こんなに分厚い本じゃなくてもよかったんじゃないだろうか。


「俺は祐希だ」

『初めまして祐希。僕はトム・リドルです。君はこの日記をどんなふうにして見つけたのですか』


さて、どう返事をしようかと悩む。ハリーのことを言ってもいいし、良くない気もする。


「素直に言えばいいんじゃないでしょうか。もし意志があるのなら、隠し立てしてもハリーと貴方の関係を知っている可能性もあります」

「わかった」

「ハリーがあなたに秘密の部屋のことを聞いたの言っていたので、直接話したくて日記を借りました」

『そうですか。ハリーに見せたことは本当です。よければあなたにもお見せいたしましょう』


その言葉に俺は二人に向かって口角をあげて見せてからOKと了承の返事を書いた。その瞬間日記のページがまるで強風にあおられたようにぱらぱらとめくられ、六月のページで止まった。六月十三日と書かれた小さな枠が小型のテレビの画面のようなものにかわっていた。そこに触れると体が引きこまれていくような、無重力を体感した。


気づいた時には、校長室にいた。


しかし、そこにいるのはダンブルドアではない。このまえ校長室に行った時に見た、一代前の校長の姿がそこにはあった。俺には気づかず、蝋燭の灯りで手紙を読んでいる。記憶の中だろう。まるで憂いの篩の中のようだ。確かに記憶を見せられているらしい。


しばらくして少年がやってきた。今の俺よりは少し上だろう。銀色の監督生バッジが胸に光っている。校長が彼をリドルと呼んだ。日記の主はこの少年らしい。随分端整な顔立ちだった。


話しを聞いていると、どうやら今まさに、秘密の部屋の怪物による襲撃にあっているらしく、学校の閉鎖の危機に陥っているらしい。話しの中では、一人死んでしまった話も出ている。志望者が出ている以上、安全性を保障できないのなら学校は経営していけないのは当たり前だろう。


リドルにはそれが、納得できないようだ。


彼は孤児院暮らしらしい。確かに、俺もあそこに帰るぐらいなら学校にいたいと思えるだろう。特にマグルの孤児院など、やりにくいにもほどがある。


「先生、もし、その何者かが捕まったら…もし事件が起こらなくなったら…」

「どういう意味かね?リドル、何かこお襲撃事件について知っているとでも言うのかね?」

「いいえ、先生」


リドルが慌てて答えた。


そうしてリドルが退出するのを追いかける。彼は何か難しい顔をして考え事をしていたが、突然何事かを決心したかのように、急いで歩き出した。途中会ったダンブルドアは、鳶色の髪とひげを蓄えた青年だった。ダンブルドアにもこんな時期があったのだと、思わずまじまじと眺めてしまう。50年まえだから当たり前なのだが、若いな。


でも、そのまなざしは健在だった。何もかも見通すような目をしている。


ダンブルドアと少しだけ会話をしたあと、リドルは地下牢教室に来ていた。寮に帰るつもりはまったくないらしい。ドアの陰に立って身じろぎもせず、外の通路に目を凝らしている。


どれくらいたっただろうか。ドアの向こうで何かが動く気配がした。誰かが忍び足で通路を歩いてきた。リドルはまるで忍者のように静かにするりとドアからにじり出て後をつけた。


五分ほど後をつけたところで、リドルが急に立ち止まり、何か別の物音のする方角に顔をむけた。ドアがぎーと開き、誰かがしゃがれ声でささやいている声がする。


ハグリッドの声だとすぐにわかった。


「おいで、さあ、こっちへ………、この箱の中に」


リドルが物陰から突然飛び出した。中では、大人よりも背も体格もいい少年が大きな箱を傍らに置き、開け放したドアの前にしゃがみ込んでいる。


「こんばんは、ルビウス」

「トム。こんなところでおまえ何してる?」

「観念するんだ。ルビウス、僕は君を突き出すつもりだ。襲撃事件が止まなければ、ホグワーツ校が閉鎖される話まででているんだ」


うん、なんというか。茶番劇だよなあ。


俺は二人とも見えるような位置に立って話を聞いていると、このタイミングでハグリッドを点け、彼を捕まえるというのはあまりにも不自然だ。なにより、ハグリッドがここで何かを飼っていたのを以前から知っていたのだろう。知っていて言わなかったということは、きっとその何かは生徒に害を及ぼすまでに至っていないのだ。


「こいつは誰も殺してねえ!」

「さあ、ルビウス。死んだ女子学生のご両親が、明日学校に来る。娘さんを殺した奴を、確実に始末すること。学校として少なくともそれだけはできる」

「こいつがやったんじゃねえ!こいつにできるはずねえ!」

「どいてくれ」


リドルが杖を取り出した。リドルの呪文は突然燃えるような光で廊下を照らした。ハグリッドの背後のドアがものすごい勢いで開き、ハグリッドが反対側の壁まで吹っ飛ばされた。中からでてきたものを見て、思わず息を飲む。


けむくじゃらの巨大な胴体が、低い位置に吊り下げられている。絡み合った黒い脚、ギラギラ光るたくさんの眼、剃刀のように鋭い挟み。蜘蛛だ。巨大なクモをハグリッドは隠れ育てていたのだ。


リドルを月ころがし、蜘蛛はがさ御祖と大急ぎで廊下を逃げて行き姿を消した。リドルがそれにむけ素早く杖を振り上げたところにハグリッドがとびかかって、杖をひったくるとリドルをまた投げ飛ばした。





そして、また何かに引っ張られるような感じがしたかと思うと俺の目の前には優雅に紅茶を飲むサラとアリィがいた。


「おかえり」

「お帰りなさい。どうでしたか?」


あまりにも、さきほどの殺伐とした光景とは異なりほのぼのとした光景と、声音に肩から力が抜ける。


「俺、どうなってた?」

「固まっていましたわ。日記に目を落としたままずっと。バジリスクににらまれて石になった生徒みたいでしたわよ」

「憂いの篩みたいな反応だったから、放置しておいた。刺激を加えて中途半端に帰ってこられても困るからな」


ふむ、体までいなくなるわけではなかったらしい。なら、やはり記憶を見せるだけでしかないのだろう。にしても、とても怠い。どうも魔力を持って行かれているらしい。自分の手を握っては開いてと感触を確かめる。


「どうかしたか?」

「魔力を持って行かれているっぽいな。怠い」

「まあ、過去を見せるなんてそれだけのことをするんだ。温存しある分だけで事足りるとは思えん」

「50年も持続させるだけのものですからね、外から魔力を供給していてもおかしくはないでしょう。だとるすと、書き込むことによって魔力を微量ずつ渡している可能性もありますわ」

「なら、ハリーの前は誰から魔力を受け取っていたのかが問題になるわけか」

「ええ。それより、五十年前の記憶を見て何かわかりましたか?」

「…ダンブルドアが思ったよりかっこよかった」

「………そんな感想は求めていませんわ」

「いや、悪い。ちょっと意外っていうか、予想外だったから。そうだな、とりあえず、ハグリッドが隠れて育てていたのは巨大な蜘蛛だった。バジリスクではないのは確かだな。あと、タイミングからみるとリドルが怪しい」

「まあそうですわね」


それには、すでに疑っていたといわんばかりにアリィがうなずいた。


「女子生徒が一人死んだことで、学校は閉鎖の危機だったようだ。リドルはもともと、マグルと魔法使いのハーフで、両親を亡くしている。そして、学校がなくなれば当たり前だがマグルの孤児院へ逆戻りになる。それを聞いて、リドルはハグリッドを犯人にしたてあげ突きだしたっていう印象だったな」

「つまり、ハグリッドが何かを飼っていることはもともと知っていたってことですね」

「まあ、ハグリッドだからな。隠し事が上手いとは言えないだろう。ばれていても不思議じゃない。っていうか、普通に教師に見つかっただけでもそれなりな罰を下される生き物だったと思うぞ。あの大きさなら人間を捕食しても不思議じゃない」

「蜘蛛か…。種類はなんだったのだろうな。ハグリッドに聞いたら教えてくれるだろうか。いや、もしかしたら合わせてくれる可能性も…」

「おい、そこの魔法生物馬鹿。不吉なこと言うなよ。あの時点であの蜘蛛は逃げたんだ。もうハグリッドだって行方は知らないだろう。それに、50年前だぞ。もうとっくに死んでるだろうよ」

「いや。魔法生物の節足動物の中には100年を生きるものもいる。現に、バジリスクはまだ生きている」

「……あれは別格だろう?王だぞ」

「ヘビに王がいるんだ。蜘蛛にも王がいてもおかしくないだろう」


何をバカなことを言っているんだという口ぶりで言われてしまい、呆れて二の句が継げなくなった。


ぜひとも会いたいと彼の目が語る。


アリィと顔を見合わせ、この馬鹿は放っておこうとうなずき合った。


「一番はバジリスクに従わないように言うことなんだけど、それは難しいんだろう?なら、もう秘密の部屋自体閉じてしまったらどうだ?」

「それでは根本的な解決にならないでしょう。やはり、犯人を捕まえることが一番ですよ」

「犯人かあ。犯人なあ」


結局はそこに戻ってくるんだよなあと、日記を見下ろす。


そして、筆を手に取り適当なページを開いた。


「彼が犯人なのか?」

『君が見たことが真実だよ』


真実ねえ、と小さく漏らす。


確かに、あの光景だけをみたのなら、ハグリッドが犯人であるかのように思える。しかし、それではどうしてもつじつまは合わないのだ。何より、ハグリッドが逃がした動物はヘビではなかったのだから。


「ハリーの前に君を手にしていたのは誰?」

『わからない。それより君のことを聞かせてほしいな』


その答えが返ってきたところで俺は日記を閉じた。


「これ以上情報を得るのは無理だな」

「これを手に入れた子は、彼の意志に従って秘密の部屋を開けたということでしょうか?」

「まさかこいつに操られていたりしてな」


渇いた笑いをもらしながら言うと、二人はきょとんと眼を瞬かせた。そして、二人の眼は日記へと落とされる。


「考えられなくもありませんね。なんせ、こんな強力な魔力を持つ日記です。他者の魔力を吸いながら生きながらえている、ある意味生きている日記ですから」

「服従の呪文の応用魔術か?複雑怪奇だな。これをつくったのが当時学生だったと考えると空恐ろしいものを感じるな」

「ですが、不可能ではありませんわ。もともとそういう呪いがかかっていたものだったのかもしれません」

「ああ。それに相手に名前を名乗らせている。契約みたいなものも発生しているのかもしれん。日記という時点で自分の心を書いていくものだ。心を開く。つまり無防備な状態になるのだろう。上手く考えられているな」


テンポよく進む二人の会話に唖然とする。


結構冗談で言ったのだが、どうやら二人には何か琴線に触れるモノだったらしい。会話を聞きながら、納得できる部分も多く出てきて、顔を引きつらせる。


「えー…、じゃあ何か?これを持ってたら俺もいつか操られるかもしれないのか?」

「書き込んでいけばな」

「まじか」

「ああ。じゃあ、ハリーの手に渡ったのも偶然じゃないかもしれないのか?」

「それはわからんが、ポッターに過去の映像を見せていろいろ会話を交わしたところを聞くにターゲットを変えたのかもしれんな」

「ハリーならヘビ語も話せるし?」

「そこは前の持ち主でも問題なかったのだから関係ないだろう」

「ですが、ハリーは今疑惑をかけられていますわ。ハリーに憑りつくにはいささか無謀かと。今は彼の一挙一動が注目を集めていますもの」

「だが、あのポッターだ。何に利用されるかわからんだろう。このまま、ポッターを犯人に仕立て上げどうにかするとも考えられる」

「んー、まあこいつの目的は今はいいか。とりあえず、この日記をまた誰かが新たに持つことが問題だよな。つーか、今ここで処分しちまえばそれで終わりじゃないか?」

「それでは、これを前の持ち主が特定できませんわ。本人の意志によるものかどうか確かめなければいけませんもの」

「なら、とりあえずは…」






食堂で一緒になったハリーに日記を返す。ハリーは日記が何か変わっていないか確認してからポケットの中にしまった。


「それで、何かわかったのかい?」


ロンが口に頬張っていたものを飲みこんできてから俺に聞いてきた。それに首をすくめて見せる。


「いーや、全然!」

「なんだー。祐希が自信満々だったから、何かわかるんじゃないかって期待してたのに」

「へえ、俺って結構評価高いんだ?」

「君ってたまに変なところで鋭かったりするだろ?」

「ハハッ、まあ、今回はお手上げってところだな。でも、あまり書き込んだりするなよ?ハリー。前にロンも言ってたけど、姿の見えねえものは信用しないほうがいい」

「うん。わかってるよ」

「ならいいけど」

「それより、もうすぐ三年の選択科目を決めなきゃいけないらしいんだけど、君何か決めた?」

「全然。そういえばどういうのあるんだ?」


それからロンたちと選択科目について話しながら、話はいつの間にか魔法薬学についての愚痴やロックハートの愚痴になっていった。


結局、イースター休暇中に与えられた、選択科目を記入する用紙にはハリーたちと同じ科目にした。特に、古代ルーン文字学は、もともと俺も使っていた文字でもあったわけだし、今更習うことは無いだろう。


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