人生幸福論 | ナノ


20:逃げ出したバレンタイン  




冬休みが終わり、学校に戻ってくると、ハーマイオニーが秘密の部屋の怪物に襲われたのではないかという噂が立っていた。


まあ、確かに、ハーマイオニーは今は半猫化しているために面会謝絶になっているため勘違いしてもおかしくはないが。


さて、ここで一つ事件が起きた。


ハリーとロンがマートルの女子トイレで黒い表紙の日記帳を拾ってきたのだ。


ロン曰く、五十年前に学校から『特別功労賞』をもらったT・M・リドルのものらしい。


中を開いても何も書かれていない日記にロンは興味などかけらもない様子だったが、ハリーは何かがひっかかっているのかしきりにその日記を気にしているようだった。


二月の初めにはハーマイオニーが退院し、ハリーがその日記を彼女に見せた。


そして、ハーマイオニーは興味津々だった。日記を手に取って詳細を調べ始める。


ハリーもハーマイオニーもこの日記の持ち主が50年前に特別功労賞をもらったことが気になっているらしい。まあそれもそうだろう。俺も最初に聞いた時に思い浮かんだのは、50年前に開かれた秘密の部屋のことだ。それについて何かしらこの人物がしたから、特別功労賞を得られたのかもしれない。


しかし、その時は、ハーマイオニーがいくら調べようと何もでてこなかった。





大広間に入った瞬間、俺は驚きに足を止めた。


いつもなら、今日の空に合わせた空模様があり、朝食が並ぶテーブルにはまだらに生徒がついていりうだけの大広間だというのに、今日は違った。


壁という壁がけばけばしい大きなピンクの花で覆われ、おまけにブルーの天井からはハート型の紙吹雪が舞っていた。


「…何事?」


しかし、その答えは周りをみまわしてすぐに判明した。


ロックハートだ。教員テーブルについている先生方はそろって石のように固い表情をしている。その中で広地、満足げにこの様子を見ている壁に飾られた花とお揃いらしい、目に居たいピンク色のローブを着たロックハートがいた。


女子はこれが彼の仕業だとわかったのか、頬を紅潮させうっとりと教員席に目をやっている。


頼むから、誰か先生止めてくれよ。


席に着くと、先に来ていたロンがげっそりとしていた。その横で、ハーマイオニーはくすくす笑いを抑えきれない様子だった。


やがてハリーがくると、俺と同じように驚きに固まり、ロンにこの状況を聞いていた。


俺は、ただただ無心に朝食をかきこんでいく。途中ハートの紙吹雪が料理に堕ちそうになっていたので、適当に消しておいた。


そして、だいたいの生徒が来たのを見計らったのか、ロックハートは立ち上がり、手を挙げた。


「バレンタインおめでとう!」


日本では、チョコレート会社の陰謀(という説)によって女性から好意のある男性にチョコを渡すとい日であるが、ここイギリスでは違うらしい。ゴドリックの時代にはこんなイベントは存在していなかった。


ハーマイオニーに聞くと、イギリスでは男女ともにメッセージやプレゼントを贈りあう日らしい。


そして、ロックハートの今回のこの騒動は、自分がもらったメッセージカードの自慢と、そのお礼というはた迷惑な思いつきによるものだ。ロックハートが手をたたくと、玄関ホールに続くドアから、無愛想な顔をした小人が十二人ぞろぞろはいってきた。それもただの小人ではない。ロックハートが全員に金色の翼をつけ、ハープを持たせていた。


「私が愛すべき配達キューピッドです!」


俺は最後にウインナーを口に放り込むと席を立った。ロンにどこにいくんだよという顔をされがた、知ったこっちゃない。厄介ごとになりそうな匂いがプンプンしてる。


「先生方もこのお祝いムードにはまりたいと思っていらっしゃるはずです!さあ、スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方を見せてもらってはどうです!ついでに、フリットウィック先生ですが『魅惑の呪文』について私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です」


ああ、地雷踏んだな。


背中で聞いたその言葉に思わず振り返る。フリットウィックはあまりのことに両手で顔を覆い、スネイプは聞きに来たやつは屍の水薬を飲ませてやろうという顔をしている。まあ、当たり前だよなあ。


小人たちは一日中教室に乱入しバレンタイン・カードを配って、先生たちをうんざりさせた。これ、規制する方法ないのか。


そして、なぜか俺のところにも小人はやってきた。誰かがこの状況に便乗してくれたらしい。どうせなら直接渡しに来い。



小人は嬉々として俺に差し出すカード。そしてそれを読みあげるという。


隣を歩いていたロンとハリーが目を丸くしていた。


そしてハーマイオニーからは情熱的ねというコメントをいただいた。


俺は大人しくそれを聞く気にもならず、小人の周辺に魔法をかけて音を消してみる。最初は何かを一生懸命しゃべっていた小人は途中で俺の元まで音が届いていたにことに気づいたのか魔法を打ち消してきた。


やっぱり小人って最強に近いと思うんだが、どうなんだろう。なんでこいつらこんな高等魔法を杖なしで簡単に使える癖に人間の配下に下っているんだか。いや、そういう性質なのだろうが、だからって宝の持ち腐れだろう。


匿名希望からの手紙を読み上げる途中で俺は面倒になってきて、小人に杖を向けた。ハーマイオニーがはっと息を飲む、止めようと手を伸ばしていたがその前に俺は杖振る。すると、その小人はぱっとその場で消えた。


「ちょっと!何をしたの今!」

「何って、ちょっと城の外に飛ばしただけだ」

「城の外にですって!?」

「じゃあ、なにか?俺にあのこっぱずかしいセリフを延々ときいて授業に遅刻しろっていうのか?はた迷惑なバレンタインはお断りだ。くそ、あの似非教師余計なことしやがって」

「でもっ!あまりにかわいそううよ!だって、あの小人はあなたにメッセージを届けにきただけでっ」

「小人だから大丈夫だ。すぐに中に戻ってきてもう一度俺を探し当てるさ。ってことで、俺は逃げるから今日は授業をさぼる」


そういうと、ロンとハリーから非難の声があがった。


「ハリーも逃げた方がいいかもしれないぞ。なんだかんだクイディッチの選手ってのもあって隠れファンが多いみたいだからな」


それだけ言って、俺はまだ文句を言っているハーマイオニーを置いて一目散に階段をかけあがった。目指すは創設者の部屋だ。あそこなら小人だって入ってこれるはずがない。


そして、部屋につくと俺と同じ考えだったのかサラとアリィもいた。


「おやおや、優等生がこんなところにいるなんていいのか?」


にやりと笑い、軽口を言いながら部屋の中に入る。ここの扉は自動的に鍵が閉まる仕組みになっているから大丈夫だろう。


「こんな状態でまともに授業がうけられるとも思えませんもの。あんなキィキィ声ではせっかくのメッセージも台無しですわ」


どうやらアリィのもとにも小人は来たらしい。


「サラも?」

「ああ…」


苦虫をかみつぶしたような顔をしたサラに何かあったのかと首をかしげる。


アリィはすべてをしっているのか、サラのようすにくすくすと忍び笑いをもらした。


「何があったんだ?」

「ふふっ、サラにもコアなファンがいたということですよ」

「そりゃあいるだろう。この顔だぜ?」


俺が言うと、サラから睨まれた。だって本当のことだろう。


「ええ。ですが、そのコアなファンの中に歌を送ってくる強者がいたようですわ」

「!!へえ、ってことは歌われたのか?小人に?」

「小人は私たちの力をもってしても退けるのは一苦労ですからね。おまけに近くにはマルフォイもいたようで、回避するのに苦労したようですよ」

「あー…それはご苦労様」


その場面を想像して思わず顔を引きつらせる。あのキィキィ声で歌われたらたまったものじゃないだろう。せめてもっと歌がうまいやつを連れて来い。


「それで?あなたもここにきたということは、小人からメッセージを届けられたんでしょう?」

「ああ。ったく、わかんねえよなあ。今の俺、日本人の顔立ちだろう?サラたちに比べたら日本人の顔って平たい顔立ちだろう?かっこいい訳ではないと思うんだけどなあ」

「何も女の子が全て顔で惚れるわけではありませんわよ」

「でも、この年頃なら顔が第一条件に入って来るもんじゃねえ?俺の娘はそうだったぜ?」

「娘といえば、私の娘もこの学校にいますよ」

「は?」


思わず目を剥いたのがしかたがないだろう。彼女の娘というのはもちろんロウェナ・レイブンクローの娘であるヘレナ・レイブンクローだ。俺が知っている彼女は確かすごい反抗期の娘だったはずだ。会った瞬間ににらまれたのを覚えている。ロウェナに似た顔で絶対零度の視線を受けてひそかにダメージを負っていたのを思い出し、苦笑を浮かべた。


「ヘレナ嬢は確か、血みどろ男爵の手にかかったんじゃなかったか?」

「ええ。しかも心中を図ってくれやがったので、仕返しもできなかったのですが、思わぬところで出会いまして」


そう語る彼女はとても良い笑顔を浮かべている。


思わずサラと顔を見合わせ引きつった笑みをお互いに浮かべた。


「確かに反抗期でしたが、私にはかわいい可愛い娘でしたのよ。それなのに、求婚にこたえなかっただけで無理心中など言語道断。去年、幽霊となりここにとどまっていることを知り、きっちり報復はさせていただきましたわ」

「……へ、へえ…、ち、ちなみにもうヘレナ嬢にはあったのか?」

「ええもちろん。最初は私が生まれ変わりだと信じてはいただけませんでしたが、あの子と私しか知らない秘密をしゃべったら、顔を真っ青にさせていましたわ」


ふふふと笑うアリィにその時の様子を思い浮かべたらもう、ヘレナ嬢に同情の念しか浮かばなかった。


さすがにもう反抗期は抜けていたらしく、そのあとはお互いにいろいろと親子の会話をして今はすっかり仲良くなっているらしい。灰色のレディと呼ばれ、寮生とて容易に近づくことを許さなかった彼女が、アリィとは大人しく話していたのだから他のレイブンクロー生は驚いたことだろう。


「ならヘレナ嬢は俺たちのことも知っているのか?」


サラの問いかけに、アリィは首を横にふった。アリィ自身については話したが、俺たちのことは黙ったままにしているらしい。まあ、知られても問題はないと思うのだが、アリィは許可を得ていないのに勝手に話せないと主張した。


「そういえば、秘密の部屋のことはどうなってるんだ?」

「ああ。それも話さなければならなかったな」


サラは深く頷くと、杖を取り出しそれを振った。すると空中に二枚の紙が出てきて一枚ずつ俺とアリィのもとに降りてくる。


その紙にはホグワーツの制服を着た女子生徒が書かれていた。


胸元まである赤髪の少女だ。


「これは?」

「ヘビに目撃証言を集めさせた結果から導き出した似顔絵だ」

「今回の犯人が女生徒だということですか?それに、この絵だと随分幼いように思えるのですが…」

「そうだな。背は低めだろう。さすがに人間の見た目年齢までヘビにはわからないようだったが」

「……なあ、これさあ、一年生もあり得るってことだよな?」

「…俺はむしろその可能性が高いと思っている。上級生ならばなぜ今年に入って開かれたのかということが疑問に残る。たまたま今年見つけただけなのかもしれないが、そういった素行のものは見つかっていない。第一、ヘビ語を話せる人間がいたら、今回のように騒ぎになっているはずだ。それに、ヘビ語を操れるような人間がそう何人もいるはずがない」


胸元まである赤毛の少女の顔は、さすがに詳細までわからなかったからだろうのっぺらぼう状態になっている。しかし、そのぼやけた顔のおかげで、俺の頭にはある人物が浮かび上がってきていた。


「……あのさあ、ちょっと心当たりのある人物がいる」

「本当か?」

「…でも、パーセルタングが話せるとは思えないんだよなあ。確証がない。だから、しばらく俺の思う人物を監視してみる」

「グリフィンドール生か?」

「…俺の思っている奴は、ね」

「わかった。疑惑が少しでも黒に変わりそうならすぐに言え。もし犯人が再びバジリスクに服従の呪文をかけていたらお前だろうと襲い掛かって来るぞ」

「わかってる」

「目が使えない以上、いくら祐希だって簡単に太刀打ちできる相手じゃない」


でも一年生がそんな高度な技を使えるのだろうか。まさか彼女に限ってそんなこと。そうやって否定したい気持ちが強いのに、冷静な部分では今まで見てきた小さな出来事をつなげ合わせていく。


ああ、できたらこの予想が外れてくれたらいいのにな。


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