クリスマス休暇は月の満ち欠けによって決めることにした俺。
だって、もしクリスマス休暇に満月がかぶったとしたら、離れなければいけないんだから意味がないし、リーマスにも気を使わせる。それだったら、このままホグワーツに残って居ようと思ったのだが、どうやら杞憂だったらしい。クリスマス休暇中に満月は来ないことを知って、リーマスに帰る旨を伝えた。
「ポリジュース薬、休暇中にできそうなんだろ?」
「ええ」
「マルフォイも残るみたいだし、やるんだろ?」
「もちろんよ。祐希は帰るんでしょう?」
「ああ。ちょっと心配ではあるんだけどな。まあ、なんかあったらサラに助けを求めたらいいよ」
「サラ?」
「サルヴァトア・クリフデン。もう一人の継承者候補だ」
俺はそういうと、ハーマイオニーは手を止めて俺を見た。鼻の頭にしわをよせている。その顔はとても理解できないと言っていた。
「そういえば、彼、貴方の友達なんですってね。スリザリンに友達がいるなんて、貴方、変わってるわ」
「それ、ロンにもハリーにも言われた」
「ふふっ」
「ハーマイオニー」
「何?」
「ハーマイオニーもマグル生まれなんだから気を付けろよ?」
「…ええ。祐希も、気を付けて帰ってね」
その場でハーマイオニーと別れ、寮に荷物をまとめに行く。夏季休暇ではないため、着替えと冬休みの宿題を持っていくだけでいい。俺はリュックに拡大魔法をかけ、その中に洋服も宿題も全部詰め込んだ。
これ一つでなんとかなるんだから、この魔法は便利だ。にしても、リュックって持ちやすいし、いいよな。
長い時間を経て、ようやくキングズクロス駅についた。9と4分の3番線にはすでにたくさんの親が我が子を迎えに来ている。きっと、誰もが我が子から『秘密の部屋』が開かれマグル生まれの子が石にされていることを知らされているからだろう。
我が子を探す親の視線は必至そのものだった。
その様子をコンパートメントの中から見る。
今出て行っても混雑してい居て、リーマスを見つけるのは困難だと思ったからだ。
しばらくして、親子の姿が半分くらいになったところでようやく腰を上げる。
リュックを背負って駅から出ると、冷たい風が首筋を撫でた。今まで温かいコンパートメントの中だったから余計に風が冷たく感じる。イギリスの冬は寒い。日本でも俺がいたところは、あまり雪が降らない地方だったために、ひさしぶりにここまで振り積もる雪を見ると柄にもなくテンションがあがったのだが、それも去年のことだ。
見慣れてしまえば、寒さしか与えない雪は厄介でしかない。
「祐希」
手を振りながら駆け寄ってくる男の姿が見えた。ぼろぼろのコートを身にまとっている男は、遠目から見ても少しやせたように感じる。
「リーマス。迎え、ありがとう」
「ああ。さあ、帰ろう」
差し出される手を数秒見つめる。手袋に覆われた手は、何のためらいもなく差し出されていて何の他意も感じない。きっとリーマスからしたら、迷子にならないようにとかそういう配慮なのだろうが、精神年齢がアレなため、その手を素直にとるのはためらわれた。
「祐希?どうかしたかい?」
「……いや、この歳になって手を差し出されるのは初めてだなと思っただけだ」
「ああ…、嫌だったかい?」
「気恥ずかしくはあるな。気遣いはうれしい」
「僕はたまに君が本当に12歳なのか疑う時があるよ」
俺の返答に苦笑したリーマスは、そのまま歩き出した。
きっと、サラやアリィはこんな戸惑いを何度も感じてきたのだろう。アリィはまだ女の子だから、親と手をつなぐぐらいそこまで気にしないかもしれないが、サラは特に嫌がっただろうな。
何の他意もなく、取られるのがあたりまえと思って差し出された手を前に、サラが困惑と尊厳と責任感のようなものの間で揺れ動く姿がすぐに頭の中にイメージできた。そばにいたのなら、ためらわず笑ってやるのに。
大人同士、それも男同士で手をつなぐというのは些か、いやかなり抵抗がある。外見的に見て、何の問題もない事は分かっているのだけれど。
周りをみると、俺と同い年の様な子供が親に手を引かれている姿を見かけ、ため息をつく。しかし、やっぱり気恥ずかしいものは気恥ずかしいのだ。
「そういえば、ホグワーツは大変なんだってね。大丈夫だったかい?」
「ああ、秘密の部屋か。俺は大丈夫だ。それに、石になった生徒も魔法薬で治せるからな」
「それならよかった。君も無茶はしないでくれよ?」
「ああ」
「嫌だからね。冬休み明けたと思ったら、君が石になったなんて連絡は」
「と、言われてもなあ。善処はする」
俺の物言いに、リーマスは肩をすくめた。
クリスマス休暇はのんびりと過ごすことができた。学校とは違い、二人だけの家はとても静かで、まったりしていた。
クリスマスは質素になるかと思ったが、思いの外リーマスが張り切っていた。どこからかモミの木を持って着て、いつのまに買ったのか、ツリーに飾る飾りも用意されていた。それらを渡され、飾り付けるように命じられる。
本当に子供に戻ったかのようだ。孤児院ではクリスマスツリーなんてなく、部屋の中を折り紙でつくった輪っかで飾り付けるだけだった。
「やっぱりツリーがあるだけで、華やぐね」
「確かにな」
「当日は料理も頑張るからね!」
「……ああ。俺も手伝うよ」
リーマスに任せたら全部甘口になりそうだ。