翌朝、外を見れば、大吹雪だった。おかげで学期最後の薬草学は休校になり、ネビルは若干落ち込んでいた。楽しみにしていたんだろう。スプラウト先生は、マンドレイクに靴下をはかせたり、マフラーを巻いてやらなければならないらしい。マンドレイクって結構育てるのめんどくさい薬草だよな。
ハリーは薬草学の時にジャスティンに弁解しようと思っていたらしく、休校になったことに苛立っていた。それにさらに苛立ったハーマイオニーがハリーに探しに行くように促す。
ロンとハーマイオニーは魔法チェスの最中だった。
ハリーがうなずき、立ち上がったので、俺も立ち上がる。
「俺もついていくよ。今一人にならない方がいい」
「うん、ありがとう」
ハリーと共に図書館へ向かう。ジャスティンはハッフルパフ生なので、休校になった分を取り戻そうと勉強をしているかもしれないと思ったのだ。そうでなくても、図書館になら誰かしらハッフルパフ生がいるだろう。
そして、その考えは当たっていた。図書館の奥の方で固まるハッフルパフ生を見つけたのだ。しかし、会話が良くなかった。二人で立ち止まり顔を見合わせる。ハリーが静かにと合図をしてきたので黙った。
「だからさ、」
太った男の子が話をしてえる。内容はハリーがスリザリンの継承者じゃないかというものだった。そのあとにどうも、ジャスティンが以前、マグル出身だとハリーに話していたらしい。まあ、普通に談笑の一つだよな。
でも、確かにスリザリンの継承者がハリーならばその行為はまずかったと考えられるだろう。
「じゃあ、アーニー、あなた、絶対にポッターだって思ってるの?スリザリンのクリフデンだってヘビ語を話してたじゃない。しかも首にまで巻きつかせて!」
「そ、そうだけどさ。でも、どっちも怪しいよ。それに、もしポッターだったらどうする?ジャスティンはうっかり、マグルだってばらしちゃったんだ。次ジャスティンが狙われたらポッターだってことにならない?」
ざわざわと重苦しいささやきが起こり、アーニーは話し続けた。
「それに壁に書かれた言葉を覚えてるか?『継承者の敵よ、気をつけよ』ポッターはフィルチとなんかごたごたがあったんだ。そしてフィルチの猫が襲われていた。あの一年のクリービーは、クィディッチ試合でポッターが泥の中に倒れてるときに写真を撮りまくって、ポッターに嫌がられてた」
随分な話だった。フィルチのことはともかく、コリンに対して、それだけで石にするようなことがあったとしたら、どれだけ器が小さいんだろう。呆れて物もいえなくなるだろう。
そのあともアーニーはヴォルデモートの話までだしてきて、みんなを説得しにかかる。
「はいはい、それぐらいにしておけよ。憶測はそれこそ、時間の無駄だ」
俺が手を叩きながら出ていくと、俺の顔をみて顔面蒼白になった。そして、その後ろにハリーがいるのがわかり今にも卒倒しそうな勢いだった。
「ねえ、ジャスティン知らねえ?」
「あいつに何の用だ?}
「決闘クラブのこと、ハリーが弁解したいんだってさ」
「僕たちみんなあの場にいたんだ。みんな何が起こったのか見てた」
「それじゃあ、僕が話しかけた後で、ヘビが退いたのに気がついただろう?」
ハリーが詰め寄った。アーニーが体を大きく振るわせるが、果敢にも言い張った。
「ぼくが 見たのは、君がヘビ語をはなしたこと、そしてヘビをジャスティンの方に追い立てたことだ」
「追い立てたりしてない!ヘビはジャスティンをかすりもしなかった!」
「ハリー落ち着けって」
怒気をあげるハリーの肩を掴み、どうどうと言って聞かせる。
「こいつらに怒っても仕方ないだろう?現状なんて、恐怖でいくらでも塗り替えられるんだから」
「お、お前こそ怪しいんだからな!」
「俺?」
「あのクリフデンともポッターともつながりがあるじゃないか!お前が二人を操ってる可能性だってあるんだぞ!」
「ハハッ、想像力豊かだなあ。なるほどそうなるか。俺がハリーとサラを従えて、マグル生まれを襲わせて?そうだなあ、何事にも動悸は必要だ。では、名探偵アーニー君。俺がそうする動悸は何だと思う?」
「君もマグルを憎んでいるんだ!こ、孤児院に居たって聞いたし、それに、それに…」
言葉を探しあぐねているらしいアーニーを見て笑みがふかまる。そんな俺を見て、ハリーが隣で顔をひきつらせていたなんて、知らない、知らない。
「俺だったら、そうだなあ。別にマグル生まれだけにする必要はないよなあ?なあ?アーニー?」
「ぼ、僕の家系は九代までさかのぼれる魔女と魔法使いの家系で、僕の血は純血だっ!」
「だから、別に血にこだわる必要はないと思わねえ?」
「ひっ!」
「ちょっと、祐希…。君が脅かしてどうするのさ」
「ハハッ、悪いな。ちょっと楽しくなっちゃって。アーニーも、悪かったって。冗談だから。だいたい、ハリーもサラも人に言われて大人しく従うような玉かよ」
「もう、祐希って…」
「それに、ハリーが言ったのは本当だぜ?ハリーがヘビに退くように言った。これはサラが保障している。っていっても、信用できないだろうけどな。ハリー行こう。ここにいてもしょうがない」
「…うん、そうだね」
ハリーの腕を引いて図書館を出る。少しうるさくしすぎたらしく、マダム・ピンスに睨まれた。
「ねえ、祐希…。クリフデンって、どんな人?」
「どんな?そうだなあ。気難しくて、わからずやで、頑固で、意地っ張りかな。でも、一度内側に入れた相手には甘いんだよなあ、あいつ」
「ふうん、ホグワーツに来る前に知り合ってたんだっけ?ヘビ語が話せること知ってたの?」
「まあな。何度か見たことあるし」
「祐希は怖くないの?その、僕のことも…。だって、君、もマグル生まれかもしれないんだろう?」
「怖くないさ。だって、お前らはただたんにヘビとお話しできるだけだ。世の中探したら、きっと猫や犬と話せる人だっているだろう。それと変わらない。相手がちょっと印象が良くないヘビだっていうだけさ」
「君ってやっぱり変わってる」
「お褒めに預かり光栄です」
肩をすくめながら答える。今まであまり変わってるなんて言われたことは無かったのだが、生まれ変わってからはよく言われるようになったな、と思う。それはたぶん、魔法界にこだわらない考え方だったり、少し同年代よりも大人びた(実際に精神年齢は数えることも怖いぐらいの差があるのだが)言動からだろう。
次の変身術の教科書を取りに帰るために歩く。階段を上り、次の廊下を曲がったところで、そこが異様に暗くて思わずふたりして足を止めた。激しく吹き込む隙間風が松明の明かりを消してしまっていた。
廊下の真ん中まで来たとき、俺は足を止めた。とっさに隣を歩くハリーの腕を引く。突然だったから、ハリーが前のつんのめっていたが、それよりも現状を理解しだした頭は急速に次に取るべき行動を考えていた。
「祐希、何……」
ハリーが廊下にあるものを見た。
ジャスティン・フィンチ・フレッチリーが転がっていた。
そっと近寄り、ふれる。石のように固く冷たい。一連の事件と同じだった。
「ハリー、近くで前のように何か声は聞いたか?」
「ううん」
「そうか…」
ジャスティンは恐怖に顔をひきつらせたまま硬直し、うつろな目が天井を凝視している。そして、もう一つ不可思議なものは「ほとんど首なしニック」だった。こちらは透明ではなく、黒くすすけて、床から十五センチほど上に、じっと動かずに浮いている。首は半分堕ち、顔にはジャスティンと同じ恐怖がはりついていた。
隣でハリーが混乱して、あたりを見回している。
「ハリー落ち着け。人を呼ぼう。下手に逃げた方が疑われる」
「落ち着けって、どうやってっ!だって、ジャスティンが、ニックが、」
「大丈夫だ。どっちも死んでない。いや、ニックは別だけど、とりあえずジャスティンはマンドレイクが出来上がれば助かる」
「なんでそんな落ち着いてられるのさ!祐希!」
「場数の差」
とにかく、誰かを呼ぶために杖を取り出したところで、突然すぐそばの扉がバーンと開き、ポルターガイストのピーブズがしゅーっと飛び出してきた。
「おんやあ、ぽっつり、ぽっつん、ちびのポッター!」
ひょこひょこ上下にゆれながらハリーの脇を通り過ぎようとして、隣に俺がいるのを見つけたと何目を見開き、硬直した。
おい、ニックがバジリスクを見た時と同じ表情ってどういうことだ。
「おーやおや、気づきませんでした。ええ、そうですとも、赤司様」
手をにぎにぎしながら、汚らしい笑みを浮かべて近寄ってくるピーブズ。ある意味いいところに居た。
「ピーブズ、ナイスタイミングだ。もちろん、俺の頼みを聞いてくれるよな?」
この問いかけに断るなんて選択肢はない。
「じゃあ、マクゴナガル先生を呼んできてくれ。そうだなあ、騒ぎ立てず、静かに、だ。できるよな?お前なら」
ピーブズはコクコクと必死に頭を上下に振ると変身術の教室へ飛んで行った。
「さあ、ハリーそろそろ落ち着いてきたか?」
「うん、というか、ピーブズを手なずけてるよね」
「まあな。ちょっとしたコツがあるんだ」
「コツ?」
「ああいうのは強い奴に弱い。つまり、一度ねじ伏せたらあとは下僕同前」
そんな話をしているうちにマクゴナガルが走ってきた。どうやらうまい事お使いをしてくれたらしい。そのまま巻き込まれないうちに逃げたのだろう。
マクゴナガルは現状を見ると、俺たちについてくるようにいった。
そして、ついた場所は、途方もなく醜い大きな石の怪獣像の前で立ち止まった。
校長室だ。そういえば、ここに来るのは久しぶりだ。ここはすでに次代の部屋へと変わってしまっているし、もともと創設者の部屋に行くことはあっても、校長室はほとんど使っていなかったため、探索としてもここに来ることは無かった。
「レモンキャンディー!」
合言葉と同時に、怪獣像がぴょんと飛んで脇により、その背後にあった壁が左右に割れた。壁の奥には螺旋階段があり、エスカレーターのように滑らかに上の方へと動いている。俺たちが階段に乗ると、壁は自動的に閉じた。
校長室の様相は、俺たちがいたことろは変わっていた。
部屋は広く、円形の部屋だ。小さな物音で満ち溢れていた。
ハリーが物珍しげに室内を見て回っている。先ほどまで犯人にされて学校から追放されるんじゃないかと真っ青にしていたとは思えないほど、好奇心に目を輝かせている。
その中でハリーは組み分け帽子を見つけたようだった。ハリーは俺の方をちらっと見た後、帽子を手に取りかぶった。
俺はそんなハリーの様子を視界に入れつつ、ゲッゲと奇妙な鳴き声をあげる鳥に近寄った。不死鳥だ。しかも、燃焼日間近の。なんと珍しいことだろうか。
その鳥を指でつついて遊んでいると、組み分け帽子と会話を終えたらしいハリーが近寄って着た。
「それ、何?」
「なんだと思う?」
俺が問い返すと、ハリーが不死鳥をじっと見つめた。不死鳥も目つきの悪い目でハリーを見返す。
その途端、不死鳥が炎に包まれた。ハリーが驚いて叫び声をあげ、後ずさりして机にぶつかっていた。
「おお、見事だな」
「何が!?それより水!火を消さなきゃ!」
ハリーが焦っている間に、跡形もなく不死鳥は消えてしまった。後に残ったのは、一握りの灰だけだ。
タイミングよく、校長室のドアが開いた。ダンブルドアが陰鬱な顔をしてそこにいた。
ハリーが必死に弁解するなか、ダンブルドは微笑みを向けた。
「そろそろだったのじゃ。あれはこのごろ惨めな様子だったのでな。早くすませてしまうようにと、何度も言い聞かせておったんじゃ」
ぽかんとしているハリーを無視して、俺は室内を見て回る。校長たちの肖像画はどれも眠っているようだった。知らない顔ぶればかりが並ぶ。
途中、ハグリッドの乱入があったが、ダンブルドアは俺たちを犯人だとは考えていないようだ。ハリーがダンブルドアに何か知っているかを聞かれていたが何も答えなかった。
ハリーが帰され、俺だけが残される。
「さて、祐希。君は、わしに何か言いたいことがないかの?」
言いたいこと、か。知っていることならいくらでもあるのだが、それらを言いたいかと問われると、言いたくはないな。言ってしまえばなぜ知っているのか、つまり俺たちの前世について話さなければならなくなる。それは至極面倒だろう。
「強いて言えば……、あの不死鳥、欲しいな」
「………残念ながら、あれをやることはできんよ。わしの大切な友人じゃからの」
「残念」
俺は肩をすくめた。