人生幸福論 | ナノ


14:会議  




「で?どうだったんだ?」


創設者の部屋に集められた俺たちは、円卓を囲み向き合ていた。


この休日にサラザールの尻拭いをするためにサルヴァトアが秘密の部屋へ行って直接バジリスクと会ってきたからだ。


すでに一人と一匹の犠牲者が出ているためことは一刻を争う。生徒たちは不安に顔を曇らせ、単独行動ができないことにストレスを感じつつある。しかも、相手が無差別ではなくマグル生まれが犠牲者となり、犯行声明まであるのだ。


「結論から言おう。バジリスクを止めるためには犯人を捕まえなければならない」

「…当たり前です」


アリィが眉をしかめた。


そんな当たり前のことが聞きたいんじゃないと言いたげだ。俺もそうだ。そんなことを聞きにここに来たわけじゃない。


「順を追って説明する」


腕を組んで、むっつりと口をへの字に曲げているサラはいつも以上に気難しげに見える。鋭さを含む青い瞳が話を遮るなと睨み付けた。


「まず、俺は立ち入り禁止の森に入りバジリスクのいる秘密の部屋に入った。もともと、あそこは秘密の部屋ではなく幼い王室(Tender Royal house)と呼んでいたがな」

「王室って…、ああ、バジリスクってギリシャ語で小さな王って意味があるんだったか?」

「そうだ。それに、王と呼ばれるにふさわしい姿だった」


どこか恍惚とした表情をするサラに呆れる。んなこと言ってる場合じゃないだろうに。


「王室には確かにバジリスクがいた。ただし、言葉もまともに通じる状態じゃなかったがな」

「サラザールだってわかってもらえなかったのか?」

「今の俺をみてサラザールと理解してもらえるとは思っていない。だが、バジリスクは賢い。突然襲い掛かってこようがなんだろうが、言葉を話せる同朋に無下に攻撃を下すほど馬鹿な奴じゃない」

「ふーん、そういうものか?」

「ああ。普通のヘビだって俺が話せるとわかれば率先して会話してくる」


確かに、興奮しきっていたヘビがサラザールが話しかけることによって大人しくなる姿を何度もみてきている。もともと、動物というのは生存本能が強いために、言葉もわからず自分にとって有害である行動をするものを見つけたら攻撃せずにはいられないというだけであって、無害であればむやみに攻撃してくるようなことはない。


「しかし、バジリスクは話が通じなかった。どうも服従の呪文がかけられているようだった」

「服従の呪文!?」

「バジリスクにですか?それは確かに、闇の魔術に関係していると考えられますね」


サラ曰く、バジリスクはすでに約千年も生きているためかなりの大きさになっているらしい。それにバジリスクは普通の魔法生物ではない。かなり高貴であり、そう簡単に魔法をかけられるような生物ではないはずだ。いくらヘビ語が使えていようとサラザールとて無理やり従わせることは難しいだろう。まあ彼はバジリスクを愛しているため、無理やり従わせるなど絶対にありえないのだが。


「そうだ。どうも、主従関係が生まれているらしく、犯人の命令しか聞けないようになっていた。だからだろう。俺がいくら言葉をつくしても無駄だった」

「じゃあ、どうするんだ?いっそバジリスクを殺すか?」

「やめろ!冗談でもそんなこと口にするな!」


決して俺は冗談でそんなことを言ったわけではない。しかし、それをサラに言えば俺の方が殺されそうだった。


「じゃあ、どうするんだよ。これから第二、第三の被害者が出てくるぞ。今はまだ、ミセス・ノリスもコリンもたまたま直接目をみなかったから死ななかっただけで、次の被害者も運よく何かを通して目を見る”なんて偶然が起きるとは限らない」

「そうだな」

「それに、ハリーが聞いた声によると殺すっていいながら動き回ってるらしい。そんな奴を放置なんてできないぞ」

「わかってる。だから、一応魔法は解いてきた」

「解けたんですか?」

「一応な」

「ですが、やはり犯人を捕まえないといけませんね。サラが定期的にバジリスクの拘束を解きにいくというなら別ですが、根本的な解決をしない限り災難は続きますよ」

「問題は犯人が誰かっていことだよな」

「ヘビ語を話せて闇の魔術を使える人間など限られているだろう」

「限られているどころか、いるかどうかも怪しいですわ。先生方は去年のこともありますし、考えづらいでしょう。生徒に闇の魔術が使えるほどの腕がある人物がいるとは思えません。それとも、私たちの目を欺くほどの実力の持ち主だということでしょうか」

「わからん。だが、バジリスクの話だと、女だったらしい」

「女?」

「小さな女だと。まあ、バジリスクの体が大きい分、その小さいがどれほどのサイズを表すかはわからないがな」

「それじゃあ、手掛かりがないのと変わらないだろ」


ただでさえ、在校生が多い中、女子というだけで、半数に絞れはするが、それでも多い。多すぎる。そんな中から、一人を見つけ出すなど不可能に近い。


「しかし、話をするためとは言え、魔法を解いたのは失敗だったかもしれませんね」

「なんでだ?」

「犯人の他にヘビ語を操れ、しかも闇の魔術を解く人間がいると知られたからですよ。しかも、秘密の部屋の場所、入り方、中にいる怪物のことを知っていることになる。そんな人物がいると知って、犯人が何もしないとは思いません」


確かにそうだ。


ようは、俺たちは犯人の痕跡を掴んだことになる。それも大元のバジリスクという存在を。きっと、犯人は再び秘密の部屋に行くだろう。そしてバジリスクに会い、魔法が解けていることに気づく。バジリスクが自分で解けるわけがないのだから、誰かが解いたと考えるほうが無難だ。


そうなれば、誰かが秘密の部屋に入ったこと、つまりヘビ語が操れ、しかもバジリスクにかかっていた服従の呪文を解いたこと。つまり、強大な敵であろう。


「いや、むしろ俺だと気づかれるぐらいなら好都合だ」

「犯人をあぶりだすつもりですか?自分を囮にして」

「そうだ。他の生徒が狙われるよりはずっといい。俺なら、対処も知っているし、いざという時はヘビ語があるから、察知だってしやすいだろう」

「ですが、バジリスクに服従の呪文がかけられているなら、あなただって他の生徒となんら変わらず危険です。目を見れは、いくら、かのサラザールだろうが死んでしまいますよ」

「わかってる」


サラは譲るつもりはないらしく、深く頷いた。


「まあ、それについてはここで論争してもしょうがない。ただ、知らしめるなら早いうちにしないと、他の生徒へ無差別に襲いかかってくるかもしれない」

「そうだな」


俺がサラを擁護する発言をすると、アリィは憤慨したようにふんと顔をそむけてしまった。まあ、アリィはただサラを心配しているだけであって、もう逃れようもないということはわかっているのだろう。


「その機会をどうやって作るか、か。一番手っ取り早いのはお前が宣言することだよな。秘密の部屋を見つけた!って」

「そんなことしては、犯人の接触以前に先生方に拘束されることになりかねん。そうなればバジリスクの命が危険だ」


こんなときでもバジリスクの命か、と思わなくもないが言葉をのみこんだ。


「なら、ヘビ語を話せるってことを証明するとか?」

「そうだな、それが一番手っ取り早いだろう」

「問題は、どのタイミングでヘビを出して、そのヘビに言うことを聞かせるか、だよな」

「それなら、全校生徒が集まる大広間でが一番効率的でしょうね」


深い深いため息とともにアリィが言った。どうやら、あきらめがついたらしい。


「そうだな」

「だったら、フレッドとジョージにでも協力を仰ぐか。イタズラだっていえば、ヘビを出現させるぐらいやってのけるだろ。それをサラがヘビ語で収拾する」

「彼らを巻き込むつもりですか!?」

「もちろん、仕掛けるのは俺がやるよ。アイデアと下準備で協力してもらうだけさ」

「もしバレたら、グリフィンドールからは多大な減点がありますよ」

「おや、心外だなアルウィーンキンス?この俺がそんなヘマをすると思ってるのか?」


自信満々にいってのければ、アリィは目を見開いた後、苦笑を浮かべた。


「そうですね、失言でした」

「貴様のサプライズ”には何度も煮え湯を飲まされたからな」

「楽しんでたくせによく言うよ」

「馬鹿者。あれは楽しんでいたとはいわん」

「まあまあ、ちょっと時間はかかるかもしれないけど、楽しみにしててくれよ」


ウィンクをしてみせる。


頭の中は、どうやってばれずに大広間でヘビをばらまこうかでいっぱいになっていた。


転生してからというものイタズラというのをする機会はほとんどなかった。去年だって、ハリーたちに奔走されていたし、城の中を探検したりするので忙しかったし。今年に入ってからだって、脱狼薬のためになぜかポリジュース薬の改良をしているし。いや、これについては自分でまいた種なのだが。いまだに脱狼薬のだの字も教えられていないってひどくないだろうか。


とにかく、久しぶりに趣味に費やせるということで俺はウキウキしたまま創設者の部屋を出たのだった。


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