人生幸福論 | ナノ


12:愚痴  




俺が授業をさぼるのは今回が初めてだったからなのか、ハリーをはじめとした3人にものすごく心配され、どこに行っていたのか問い詰められた。おそらく魔法史の授業中の俺の態度も原因だろうし、もしかしたらスリザリン生と居たことも聞いたのかもしれない。


その3人をなんとかごまかしつつ、俺は今日も地下牢教室へ訪れていた。


今頃、ロックハートから禁書持ち出しのサインをもらってハーマイオニーがポリジュース薬の作り方が載っている『もっとも強力な魔法薬』を持ち出していることだろう。


はたして、あの教師はあれでいいのか。いろいろ問題があるのではないか。


サラに至っては、あんなのは授業とは認めないと言って、あの時間は予習にあてているらしい。まあ、俺も似たようなものだが。あれではサラが教えた方は数百倍ましだろう。ましなんてもんじゃない。サラ、つまりサラザールはもともと魔法技術の教授だったのだから、彼の方がよっぽど実益を兼ねた教え方をしてくれるだろう。


「なあ、スネイプ先生」

「何かね」

「なんで、ロックハートって先生に選ばれたんですか」

「………」


スネイプが黙った。そして、たっぷり、それはもうたっぷり間を取った後、知らんと言い捨てた。


「校長に聞いてみるのだな」

「先生はあの授業を見たことがありますか?」

「ない。噂は聞くが、そんなにひどいのか」

「酷いなんて言葉では語りきれません。自分の書籍をひたすら朗読し、生徒に敵役を演じさせる授業がありますか?一切杖を振らない、呪文も唱えないDADAに何の意味が?」

「…………」

「これなら、上級生が教務を取った方がどれだけましかわかりません。今年の7年生も彼が教えるんですよね?かわいそうに」

「貴様がそこまでいうとはな…」


あきれ果てた声が聞こえ、鍋から顔を上げる。スネイプは自分のデスクに座り、何年生かは知らないがレポートの採点をしているようだった。


彼が次のレポートを手に取り、開いた瞬間眉をしかめた。


それを見て、クッと喉の奥で笑う。


「レポートの出来はどうですか?」

「どうもこうも…」


彼はざっと流し読んだだけで早々にそれを投げ出し、名簿に何やら書き込んだ。


あまりいい出来ではなかったらしい。


魔法薬学の腕は申し分ないのだが、やはり教育者としてはおもしろいほどに偏っている。その偏りを増長させているのはグリフィンドールに対する執拗なまでの敵対心なのだが、何がこの人をそこまでさせるのか。というか、そんな人がなぜ教職についたのだろう。きっと、彼は一人黙々と研究をしているほうが性分に合っているだろうに。


と、思ったので聞いてみた。


「先生はなぜ魔法薬学の教授に?」

「………」


ピタリと動きを止めるスネイプ。しかし、それは一瞬のことで何事もなく手を動かし始めるが、彼の口が開くことは無かった。言えない事情があるのか、言いたくないような理由なのか。誰が見ているわけでもないのに肩をすくめて、適当に話を続ける。


「先生もここの生徒ですか?俺の保護者もここの生徒だったらしいんですよね」

「さよう」

「そういえば、知り合いでしたっけ。同い年ですか」

「………」

「ハハッ、先生はスリザリンでしたから、相容れなかったんでしょうね」

「…グリフィンドールなど、傲慢な奴らの集まりだ」

「それは個人を差すものではありませんよ」


俺はかき回していた鍋を見てから、火を止める。


鍋の中身は、最初に理論立てして予想していた色に変わっていた。うん、成功だろう。


「確かに、傲慢で思い上がりの激しい自分勝手な人間もいるでしょうけれど、グリフィンドールだから、スリザリンだからといってそれが個人を表すものにはなりませんよ。一人一人を見なければ」

「…まるでわかったような口をききますな」

「少なくとも、同級生よりは人生経験が豊富ですからね」

「そういうところが、傲慢だというのだ」

「おや、手厳しい」


肩をすくめる。


こうやって、接してみればやはり彼はおもしろい人間だ。


グリフィンドールに固執しているところや、スリザリン贔屓なところは、まるで子供のようだ。まあ、大人だって元は子供から始まるのだ。子供時代の名残をそのまま残していてもおかしくはない。


そんな一面とは反対に、ある一定のラインからは絶対に他者を受け入れないところや、閉心術のエキスパートと言ってもいいほどの制度を持っていることなどは、薄暗い過去を垣間見させている。


まあ、人などある一面だけで構成されているわけではないのだ。人はいくつもの仮面を使い分ける。どれが本物の自分だったのかすらもわからないぐらいに、場面に応じて自分という仮面を使い分けるものだ。


スネイプを見ると、ようやく最後のレポートの採点が終わったようだった。大きく息を付き、椅子にもたれかかると目頭を指先で揉む。


「お疲れ様です」

「そっちは終わったのか」

「ええ。申し分ない出来ですよ」


よっこらせと言いそうなほど億劫そうに立ち上がったスネイプは、俺の近くに来ると鍋の中を覗き込んだ。


「ほう…、なるほど。理論通りというわけか」

「ええ。とりあえず誤差はなさそうです。あとはクサカゲロウが煎じ終わり次第投入して反応を見るだけですね」

「早いな」

「まあ、もともと初期段階で薬草が絞れたらあとは特に問題はなさそうだったんで、こんなもんでしょう。むしろ、もっと前に気づく人がいてもおかしくはなかったと思うんですけどね」


苦笑しながら鍋を片づける。あとはクサカゲロウのほうに集中したらいいだけだ。


きっと、ポリジュース薬はあれで一度完結されていたから、新たに何かを加えることは難しかったのだろう。魔法薬は科学の結晶だ。それぞれの効果や効能を相乗させ、無駄なものは打消し、必要な薬効を作り出していく。そうする過程で、一度完成されたものを新たに化学式を組みなおすのは途方もないほど困難なのだ。


まあ、俺はもともと知識もあったし、ブランクがあるとはいえ、基礎的なことも応用の仕方も熟知しているのだから、やれないわけじゃない。


他は、誰もそこに気づかなかったということだろうか。


まあ、面倒だしなー。これ。それにポリジュース薬が必要になるようなことが、そう頻繁に起こるとも思えない。


「そういえば、貴様、クリフデンを殴ったそうだな?」

「あれ、もう知ってるんですか?」

「なぜ殴った」

「グリフィンドールから減点しますか?」

「事と場合による」

「理由ははっきり言えません。そのことについてはもう俺たちの間で解決していることですから」

「解決していることならば、言ってもかまわないのでは?」

「そういうわけにもいかないことだってあるでしょう。ただ、そうですね。サラ…、サルヴァトアが道を踏み外すようなことをしたから、それを咎めただけですよ」

「お前たちは友人ではなかったのか」

「友人だからこそでしょう。やることなすこと全て肯定することが友人ではありません。大切だからこそ、間違ったことをしたなら殴ってでも、たとえ敵対することになっても止める。相手には幸せになってほしいですから」


スネイプを見ると、なぜか少しだけ遠い目をしていた。その漆黒の瞳はどこへ向けられているのか。


いつになく揺れている漆黒の瞳に、何か思い当たることがあるらしいと思った。


「幸せの形は人それぞれ。それでも、俺は俺の大切な人が笑っていられればいいと思うんですよね」

「…そうか」

「とにかく、サラに関しては謝りませんよ。あいつも自分が悪いことがわかっているから、おとなしく殴られたんです。でなかったら、今頃俺も頬を腫らしている事でしょうし」


サラならば、容赦なく殴り掛かってくるだろう。あれでいて、腕っぷしは俺よりも強いのだ。まあ、今はどれほどかは知らないが。きっと俺が避ける暇もないような拳を繰り出してくるに違いない。敵とみなせば容赦ないのがサラザールだ。


「そういえば、明日はクィディッチでしたね。スリザリン対グリフィンドール」

「ああ」

「もちろん、観に行きますよね」

「当たり前だ」


鍋を片付け終えて俺は荷物をまとめる。


「それでは」


俺は地下牢教室を出て寮へと戻った。


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