人生幸福論 | ナノ


09:開かれた扉  




ハロウィーン当日。


俺たちは大広間へは向かわずに「ほとんど首なしニック」のパーティーへと続く道をたどっていた。大広間へ続く道と同じようにキャンドルが立ち並んでいたが、とても楽しい雰囲気とはいえなかった。ひょろりと長い真っ黒な細蝋燭が真っ青な炎をあげている。


階段を一段おりるたびに温度が下がっていき、肌寒くなっていった。


俺も長い間生きてきたが、幽霊のパーティーなんて参加するのは初めてだ。というより、普通は幽霊しか招待しないものなのだろう。会場についても、見渡す限り半透明な幽霊が大勢いた。


気を付けて歩かなければ、その辺の幽霊を通り抜けてしまう。だから、俺たちは4人寄り添って会場の中へ進んだ。


音楽は黒板を爪でひっかいたような耳に不快な音が奏でられていたし、出迎えてくれたニックは普段は暖色の蝋燭の元でみるのとは違い、蒼い蝋燭に照らされ余計に不気味だった。さらに声音まで悲しげにいうものだから、テンションがあがるはずもなかった。


一応中を見て回ることにした俺たちは、ダンス・フロアの端の方を回り込むように歩いた。


途中食べ物をみつけたが、とても食べられるようなものではなかった。というか、ゴーストって食べる必要があるのか?


そのとき、異臭を放つ鮭の中を大きく口を開けて通り抜けるようにしたゴーストがいてハリーがそのゴーストに、味がわかるのかと質問をしていた。


「行こうよ。気分が悪い」


ロンが言った。


俺たちが向きを変えるか変えないうちに、小男がテーブルの下から突然現れた。ピーブズだ。ポルターガイストのピーブズ。周りのゴーストとは違い、鮮やかなオレンジ色のパーティー用帽子をかぶり、くるくる回る蝶ネクタイをつけ、意地の悪そうな大きな顔いっぱいににやにや笑いを浮かべていた。


絡んでくるピーブズを前に、肩をすくめながら俺は3人より一歩前に出てピーブズに向き合った。


「おやあ?」

「ピーブズ、絡んでくるな。この城に居られなくしてやるぞ」

「おやおや、普通の生徒にそんなことができるわけないじゃないかあ」

「へえ、お前は何も知らないんだな。『血みどろ男爵』ですら、俺のことを知っているというのに」


その名前を出した途端、ピーブズの顔色が変化した。目を見開き、俺を凝視する。


「疑うんだったら、俺について聞いてみたらいい」


フンと鼻を鳴らして笑う。そのとき、ナイスタイミングと言えばいいのか、血みどろ男爵と目があって片手をあげて挨拶をすると、彼が頭を下げた。その様子にピーブズが目を丸くして俺と血みどろ男爵を交互に見る。


「わかったら、どっかいけ」


最終勧告とばかりに言い放つと、ピーブズは忌々しげに俺をにらんだがすぐにどっかに消えて行った。


「君、いつからピーブズを追い払えるの!?」

「それより、血みどろ男爵と知り合いなの?祐希」

「まあ、ちょっとね。彼は気難しいけど、話してみたらいい奴だよ」


にっこり笑ってみせると二人は、盛大に顔をしかめて絶対に嫌だと顔で拒否した。


血みどろ男爵とは去年の冬休みに校内探索の際に出くわしたのだ。最初は相手にもされなかったが、俺がしつこく付きまとううちに気を許してくれたらしい。そして、俺の前世を知る数少ない者の一人でもある。


まあ、俺が校内にやたら詳しかったから、疑問に思った彼が問いかけただけなんだけどな。


血みどろ男爵は、普段から生徒と話すような柄じゃないし、約束は守ってくれるタイプだと思ったから、他言無用を言いつけておいたのだ。それからは、見かけたら話す程度の仲を保っている。


それから、ニックが挨拶をしにきてくれて、あまり愉快とは言えない催し物をみるころになると、寒さが限界に達してきていた。


ハーマイオニーを見ると、顔を真っ青にして唇を紫に染めている。このままだと俺たちもあのゴーストの仲間入りをしそうだった。


「行こう」


誰もが同じ思いだったため、さっさと会場を後にした。


まだデザートくらい残っているかもしれないと期待して玄関ホールに出る会談への道を歩いていると、ハリーが突然立ち止まった。周りを見回すハリーを見て俺たち3人は顔を見合わせる。


「ハリー、どうした?」

「またあの声なんだ…。ちょっと黙ってて…ほら、聞こえる!」


ハリーはそういうと再び耳を澄ませ始めた。俺も耳を澄ませるが、何も聞こえない。


ハリーはこっちだと叫ぶとかいだんを 駆け上がっていった。玄関ホールをつっきり、大理石の階段を駆け上がり、二階に出た。


「誰かを殺すつもりだ!」


ハリーが再び叫ぶなり、今度は三階への階段をかけあげる。俺たちも顔を見合わせたが、あの状態のハリーや物騒な言葉を放っておけるはずもなく追いかけた。


ハリーがやっと動くのを止めたとき、むこうの壁に何かが光っているのを見つけた。杖を取り出しつつ、そっと近づいていく。3人も気づいたらしき、同じように近寄っていく。


壁には文字が塗りつけられ、たいまつに照らされて鈍い光を放っていた。


『   秘密の部屋は開かれたり
    継承者の敵よ、気を付けよ   』


「なんだろう、下にぶら下がっているのは?」


ロンの震える声が言った。


足を踏み出すと、ピチャリという音がして、慌てて下を見る。なぜか水たまりができていた。文字下の暗い影に目を凝らした。そして、3人はのけぞるように飛びのいた。


「…ミセス・ノリス…」


おは慌てて駆け寄った。たいまつの腕木に一歩をからませてぶら下がっている。硬直し、目はカッと見開いたままだ。


「ここから離れよう」


ロンが言った言葉に俺は振り返らなかった。そっと手を伸ばし、たいまつから猫を抱き上げる。


手に触れてわかるが、まるで石になっているかのようだ。


「まずいよ!祐希!」


そっと手に魔力を込めてみるが、なぜこうなっているのかはわからなかった。頭の中ではこの状態の解決方法がめぐる。そっと杖をだし呪文を唱えてみるも、何も起こらなかった。


「祐希!」


ロンの鋭い声が飛ぶと当時に、階段を上ってくる何百という足音が聞えた。そして、次の瞬間には生徒たちが廊下にわっと現れた。


今までパーティーの余韻に浸り楽しげに笑っていた声が止んだ。しんと静まり返った中心で俺たちは取り残されていた。


その静けさを破って誰かが叫んだ。


「継承者の敵よ、気を付けよ!次はお前たちの番だぞ、『穢れた血』め!」


ドラコ・マルフォイだった。人垣を押しのけて最前列に進みだしたマルフォイは俺が抱える猫を見て、ニヤッと笑った。いや、もしかしたら、俺を見てだったのかもしれない。


俺はそんなドラコを無感情に眺めていた。 


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