俺は今週何度目かぶりにスネイプ教授のもとを訪ねていた。
あの論文を提出してから、すでに何度か先生の監視のもと魔法薬の調合を行っている。しかしいまだにポリジュース薬改の実験を行っているだけで、まだ脱狼薬については教えてもらっていない。禁書の棚を調べられればいいのだけれど、そう簡単に見せてもらえるわけもないのでこうして大人しくポリジュース薬の改良を重ねている。
ちなみに、一種類試すのに一ヶ月ほどかかるため鍋はスネイプから使わない鍋を拝借して俺の周りに4つ置いて効果がありそうな薬草から試している。
こういうのは根気がいるのだ。しかも簡単にできるものではないためどうしても初期段階は前準備に時間がかかる。
なんども考察を重ねては試し、考察を重ねては試し。
可能性を一つ一つしらみつぶしに潰して行くしかないのだ。そうしてはじめて薬というのは完成して行く。だから、人の寿命からすると、魔法薬の歩みはとてもゆっくりなのだ。
ということで、4つの鍋相手に格闘する俺へ、スネイプはとても呆れた目を向けていた。
「貴様、」
「いや、これはダメだ。この効能じゃ役に立たない。ならこっちは?これならここはクリアできるけど、こっちはダメだ。ならこうするしか、いや……それも………」
右の鍋をかき混ぜながらその横の鍋について考察しつつ、さらにその横の鍋の経過を観察しては羊皮紙に書き込み、その横の鍋はとりあえずしばらく放置だ。
「あれ、いつのまに来ていたんです?」
「さっきからいた」
「すみません。気付かなくって。それより、この反応みてください。結構いい感じじゃないですか?このあと、これを3つに分けて、クサカゲロウと、ケンタウロスの尻尾と、アナコンダの肝臓を入れてみるつもりなんです」
「ふむ。それよりも、グリーケニアの皮膚を入れてみてはいかがかね」
「え?それなんですか?」
「………」
スネイプ教授ん視線が痛い。とてもとても呆れた目を向けられている。
「前から思っていたが、貴殿のその薬草に関する知識の偏りをどうにかすることがまずは先決のようだ」
「まあ、確かに。千年もあれば新種の薬草だって多く発見されていて不思議じゃないですしね」
「冗談を言っている暇があったらこれでも読みたまえ」
そうして、セブルスが呼び寄せたのは、とてもとても分厚い一冊の図鑑。その分厚さは俺の手のひらを広げても足りないほどだった。
中をぱらぱらとめくると、薬草と、その見た目、特徴、効能などが書かれている。
「えっ!?いいんですか!?」
俺が目を輝かせて受け取ると、彼はとても奇妙なものを見るような目で見下ろして来た。
「ただし、一週間で返すように」
「わかりました!ありがとうございます!」
俺はそれを大事に机の上に置き、もう一度鍋に向き直る。今日のところはここまでかな。どの鍋もひと段落つけてから、保存魔法をかけて教室の隅に慎重に移動させた。
教室を出てから、俺はスネイプ教授から借りた本を片手に読みながら歩いていると、前方から声をかけられた。
「ん?サラ。こんなところでどうしたんだ?」
「こっちのセリフだ。この辺は我が寮の近くだぞ」
「今までスネイプ教授のところにいたんだ」
「?なぜだ?」
「言ってなかったっけ?今、ポリジュース薬の改良版を作ってるんだ」
サラに言うと、すごく呆れた目を向けられた。その目は俺の顔から、俺の持つ本へ移り、もう一度俺の顔へ戻って来たかと思えば深い深いため息をついた。
「相変わらずの薬学バカだな」
「お?そんなに俺の理論が聞きたいか?今はまだ薬草の特定をしていっている段階なんだけどな」
「いや。必要ない」
「なんだよ。聞けって」
「お前の話に付き合っていたら、陽が暮れるどころか、翌日になる」
「そんなわけないだろ?」
「実際にあっただろうが」
「あったか?」
首をかしげると、再び深いため息をもらった。
「とにかく、さっさと寮に戻ることだ」
「ああ、わかってる」
「本は、寮に戻ってから読め。歩きながら読むな」
「ぶつからないんだからいいだろ?」
「ぶつからないが、階段から落ちるぞ」
「そんなバカなこと……あったな。そんなこと」
「覚えていたようで何よりだ」
「お前、よくそんなくだらないこと覚えてるな」
「階段から落ちたものがいると呼びつけられ、言ってみたらお前だった時の衝撃は忘れようにも忘れられまい。あれほどの珍事はそうそうないからな」
「しょうがない。大人しく寮に戻ってから読むとするか」
確かに、人の気配にはちゃんと気づいて避けられるのだけど、無機物である階段に関しては別だったのだ。うっかり足を踏み外し、本を手放すわけにもいかないと思った結果魔法を使うこともできず落下。幸い軽い怪我で済んだのだが、サラには呆れられ、ヘルガには泣かれ、ロウェナからは説教を食らった。
あれほど、いたたまれないこともないだろう。自分でも馬鹿げたことをしたと思っているだけに。
大人しく寮に戻ってから本を開いた俺は、夕食の時間も忘れ読みふけり、さらには寝ることも忘れ、気づけば朝を迎えており、ハリー、ロンによって本を取り上げられて初めて朝を迎えていると気づくことになる。
睡眠時間はロックハートの授業中にしっかりとらせてもらった。