時計を見ると、3時まであと少しだった。
急いで書店を出てグリンゴッツに向かう。
グリンゴッツの前にはすでにサラがいた。
「悪い。またせた」
「いや、大丈夫だ。どこかに行っていたのか?」
「ちゃんと回ったことがなかったから、昼から来てたんだ。観光でもしようかと思って」
「一年の時はどうしてたんだ?」
「俺、言わなかったっけ?俺を担当して連れてきてくれたのってスネイプなんだ。だから、ゆっくり見て回る暇も与えてもらえなかった」
「ああ、なるほどな」
無理だろうというのは、サラにも伝わったらしい。
「そういえば、ハリーたちにあったよ。あと、マルフォイ」
「ああ。そういえばマルフォイ家も今日来るって手紙が来ていたな」
「へえ。マルフォイ氏って魔法省務めなんだろう?ウィーズリーおじさんもそうなんだ。でも、同僚なのに犬猿の仲らしい」
「まあ、当たり前だろう。マルフォイ家は純血主義だ。それにくらべ、ウィーズリー氏はマグル好きって噂だ。実際に会ったことは無いが、双方とも折は合わないだろうな」
「折が合わないもなにも、取っ組み合いの喧嘩してたぞ」
「取っ組み合いの喧嘩?」
「会ったのが、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店だったんだ。あ、そうそう。書店は後回しにしようぜ」
「それは良いが、なぜだ?」
「今、ギルデロイ・ロックハートのサイン会真っただ中で、女性ファンが殺到してるんだ」
肩を竦め、その喧噪がいかにすごいものだったかを聞かせる。ついでにロックハートがどんな人物だったか、も。
「それは確かに…」
「4時30分には終わるらしいから、それまでぶらぶらしてよう」
「わかった」
「俺も、そこでハリーたちにあってずっと書店にいたから、ほとんど回れていないしな」
言いながらすぐそばにあった文房具店にはいる。棚には、何の役に立つのかわからないような文房具から、とても役立ちそうな文房具までさまざま陳列されていた。こんなにも魔法具が発展していることに驚く。
サラは何度か来ているのだろう。興味津々で見て回る俺の後ろを何も言わずついてきてくれていた。
「そうえいば、知ってるか?次のDADAの教授」
「いや。著書はそのギルデロイ・ロックハートだったから、ファンの女性じゃないのか?」
「それが、本人だってよ」
「は?」
「ギルデロイ・ロックハート本人。さっき。サイン会で発表してたよ」
「ふむ、なるほど。まあ人柄はともかく、著書の内容からして数々の偉業を成し遂げているのは確かだ。いい人選だろう」
「へえ、元魔法技術の教授から褒められるとは。じゃあ、期待していようかな」
魔法技術とは、そのまま攻撃防御治癒などの魔法の実技的な授業だ。俺たちの時代にはDADAや、妖精の呪文、変身術などもこれにあたった。あの当時は教えられるスペシャリストが少なかったこともあり、一人の教授がまんべんなく教えるというスタイルを取っていたのだ。
「今は随分授業内容がちがうから、俺が褒めてもどうにもならないだろう」
「そんなことないだろ。魔法技術から派生してできたようなもんなんだし」
気になったインクの色が変わっていくペンと、どんな文字でも消せるインクというのを買って文具店を出る。
次に入ったのはイタズラ専門店だった。日本のおもちゃ屋のように目がちかちかするほど色であふれている。そして子供も多かった。
「そういえば、読んだことがあるのか?ロックハートの著書」
「母がファンなんだ」
肩を落とすサラに、にやりと笑う。
「だったら、サイン本もらって帰ってやったらどうだ?」
「俺がか?やめてくれ」
「性格も強烈だったぞ。あれはまた、クィレルとは違った方向で濃いな」
「どちらにしても、やめておく。面倒だ」
「親孝行してやればいいのに」
「普段から俺は親不孝はしてない」
「そういう問題じゃねえよ」
途中でアイスクリームを買い、時間を見るとサイン会は終わったようなのでようやく本命の書店へ向かった。
書店は酷いありさまだった。すでにロックハートは去ったらしく、先ほどまであんなにごった返していた客も見当たらなかった。静かな書店らしい空気とは裏腹に、大勢の客が踏み荒らしていっただろう荒涼とした店内になっていた。
「どんな喧騒だったのか、想像できるありさまだな」
「すごかったからな。明日の日刊預言者新聞に、おそらくハリーも出るから見とけよ」
「ポッターが?」
「ロックハートに見つかって、一緒に写真を撮られたのさ。かわいそうに」
二人で、お目当ての著書を買い、他にも気になる本を数冊選んで買い物を終えた。