残りの一ヶ月、俺は予習に精を出した。といっても、ロックハートの著書を読むぐらいだ。
「っていうか、これ本当に全部やったのか?」
「やっていなければ、書けないんじゃないのかい?」
ベッドでぐったりしているリーマスが、俺のつぶやきに首をかしげた。
もうすぐ満月が来るためリーマスは体調がすこぶるすぐれないのだ。
「そうだけどさ、ここまで冒険してたら、さぞ学校では退屈だろうなって思ったんだよ」
「でも、その体験をご教授してくれるんだ。きっと、いい話が聞けるよ」
「どうせなら、リーマスが先生やればいいのに」
「僕はこれだからね。先生なんてできないよ」
「そうか?教え方はうまいと思うよ。おかげで魔法界の知識も大分ついたし」
「君はなんでも吸収するからね。ピーターに比べたら」
「ピーター?」
「僕の学友だよ。彼はちょっと勉強が得意じゃなかったんだ。テストの前にはみんなで彼の勉強を見ていた」
「ああ。あのプロングスとかのあだ名の人たちか」
「そう。彼はワームテール」
『ミミズのような尻尾ねえ』
思わず日本語でしゃべったせいか、リーマスが首をかしげた。ワームテール。ワームとはミミズで、テールはしっぽだ。直訳するとミミズのような尻尾。
まったく、なんでそんなあだ名になったんだか。
「今のは日本語かい?」
「ああ。もともと、日本人だしな。たまに使わないと忘れる」
そういうと、リーマスはちょっとだけ困ったようなさびしいような顔をした。
「やっぱり、日本が恋しい?」
「いや?飯はうまかったけれど、こっちのほうが過ごしやすいよ。子供たちに隠れて勉強する必要もないしな」
リーマスを安心させるように笑みを浮かべた。まったく、彼はどこまでも優しい。きっと、彼が人狼ではなかったら勤め先とかでモテモテだっただろう。顔も悪くない。
彼を受け入れてくれる女性が現れればいいのに。そうすれば、きっともうちょっと前向きに生きて行ってくれるだろう。リーマスは時折とてもネガティブになる。
「さっき、トリュフを作ったんだ。食うだろう?」
「本当かい!もちろん!」
途端に顔をほころばせるリーマスに笑う。
彼はとても甘党だ。機嫌が悪い時でも、こうやって具合が悪い時でも甘いものをあげると途端に笑顔になる。
だからだろう。俺はいつのまにかお菓子作りもよくするようになっていた。それに、彼がああやって寝込むこともあるから、率先して飯をつくったりもしている。魔法が使えないことは面倒だが、まあいいだろう。
ここにきて料理スキルが格段に上がっていったことに苦笑を禁じ得なかった。
「料理は女の仕事だ、って言ってたのにな」
冷蔵庫からトリュフを取り出し寝室へ運ぶ。まあ、彼が喜んでくれるならそれもいいだろう。こうやって、部屋に住まわせてもらっているわけだし。
次の日、俺はロンの家に泊まりに行き、満月の日を過ごした。