人生幸福論 | ナノ


35:終結  




「信じられん!」


ファッジの第一声はそれだった。ハリー、ハーマイオニー、ロンがいくら言葉を尽くしても、ファッジは信じられないと取り合おうとしない。しまいには、その言葉を肯定するセブルスやリーマスの言葉さえ、何かの間違いではないのかと疑い出した。


そこで、俺たちは最終兵器を出すことにした。


「閣下。ぜひ、ご覧に入れたいものがございます」


俺は恭しく礼をすると。胸元につけていたバッジを外した。そして、それを机の上に置き、杖先で三回つつく。すると、バッジから光が漏れたかと思えば医務室の壁にその光が当たり、像を作り出した。


「これは、昨夜の一部始終を映像に収めたものでございます。ピーター・ペティグリューが逃げおおせる可能性も考え、こうして映像に収めさせていただいた次第です」


壁に映し出された映像では、呪文によってネズミがピーター・ペティグリューに戻るところが映し出されている。そして、ペティグリューは自らの罪をしっかり告白している。


それを見てファッジは顔面蒼白だった。


「この映像も、否定なさいますか?」

「な、何を」

「もし閣下がこの映像さえも捏造だとおっしゃるのなら、もしかしたら私はこれをうっかり各報道機関に渡してしまうかもしれませんねえ」


ニヤリと笑ってみせると、大臣はもともと青い顔をさらに白くさせた。


「シリウス・ブラックの拘束を解いていただけますね?」


うなだれたファッジに勝利を確信した。


リーマスは机の上に置かれているバッジをしげしげと眺めている。


「いったい、こんなものいつの間に用意していたんだい?」

「念には念をってな。あいつはよくわかってる」

「あいつ?」

「協力者だ。今はそれ以上言えない」

「君は秘密を抱えすぎているみたいだね」

「近いうちに明らかになるさ」


ちょうどその時、ダンブルドアが医務室へ入ってきた。うなだれるファッジと、壁に映し出された映像を見て、彼は目を輝かせた。


「これはこれは。わしの目が確かなら、動かぬ証拠が出たようですな」

「ああ、まったく忌々しい。おかげで我らは12年間も無実の罪のものをアズカバンに閉じ込めていた笑いものだ!!」

「事実は事実として公表せねばならん。しかるべき処置を」

「わかっとる!」


ファッジは顔を真っ赤にさせて立ち上がった。


「もちろん、ディメンターを引き上げてもらえるのでしょうな」

「ああ!引き上げようとも!くそ!」


ファッジは怒り心頭な様子で出て行った。


「さてさて。随分と用意をして取り組んだようだね。祐希」

「……ええ、まあ。でも、もう一つ仕事が残っているので、やってきてもいいですか?」

「おお、もちろんだとも」

「では、シリウスのこと、宜しくお願いいたします」


俺はハーマイオニーに歩み寄った。


「ハーマイオニー。逆転時計をだして」

「え!?」

「持っているだろう?」


ハーマイオニーはおずおずとそれを首から取り出した。金の鎖の先についている砂時計が目についた。


「借りるぞ」

「使い方がわかるの?」

「ああ。これと同じのを昔見たことがある」

「え?」

「ハリー。手伝ってくれ」

「待て。祐希。何をするつもりだね?」


肩を掴んで引き止めたセブルスを見て、俺はニヤリと笑う。近寄ってきたハリーの首に俺と同じく鎖をかける。


「何って、逆転時計だ。決まってるだろ?」


俺は時計を2回転させた。


すると、時が逆転して行く。強い重力によって食い込む鎖が結構痛い。


医務室には誰もいなくなっていた。


「これ、どういうこと?みんなは?」

「動きながら説明する。ハリー。俺が合図したら、パトローナスを出してくれ」

「パトローナスを?なんで?」

「ハリーたちをおびき寄せるためだよ」

「え?」


俺はハリーの腕を掴んで医務室から飛び出した。時計を見ると、ちょうどいい時間帯だった。


校庭の適当なところに隠れる。


「ねえ、どういうこと?」

「逆転時計。その名前の通り、時を巻き戻せる時計だ。ハーマイオニーは今年に入ってからこれで全ての授業を受けていたんだ。だが、これを使う時はいくつか制約がある。一つは必ず自分とは出くわさないこと」

「どうして?」

「もし、自分の前に、同じ顔の人間が現れたらどう思う?」

「……自分の偽物が現れたって思う」

「そうしたら攻撃するかもしれない。または闇の魔術の可能性だって考えるだろう。自分で自分を殺すなんてナンセンスだろ」

「確かに。っていうことは、今、過去にいるってことだね?」

「そうだ。そして、俺たちは雄鹿によって暴れ柳に導かれた。それはハリー。お前が出した雄鹿だ」

「そうだったんだ!僕、てっきりお父さんだと思ったよ」

「そう思わせるように仕組んだからな」


そうしていると、ハリーたちが学校から出てきた。4人で透明マントをかぶっていると、時々足が見えてしまっている。


「さてさて。ハリー。頼んだぜ?」

「オーケー」


ハリーがパトローナスを作り出した。雄鹿は過去のハリーたちを見据える。過去のハリーは透明マントから飛び出すと雄鹿を追いかけた。


雄鹿は暴れ柳のそばにいくと穴に吸い込まれるようにして消えた。


「僕って、あんなのなんだね」

「第三者目線で自分を見るって奇妙だよな」


ハリーを追いかけていく俺を見て奇妙な気分になる。


とりあえず、全員が無事に暴れ柳に入ったのを見届けて、俺たちはしばらく休憩することにする。そのうち、リーマスとセブルスも中へ入っていった。


「そう言えば、シリウスおじさんのことをいつから匿ってたの?」

「いつだったか……ハロウィンあたりか?」

「言ってくれたらよかったのに」

「俺もシリウスと会ったのは不測の事態だったんだ。ましてや殺人鬼だぜ?そのまま先生に突き出しそうになっていたところを思いとどまっただけでも褒めて欲しいな」

「褒めるっていうか、どうして話を聞く気になったの?」

「いろいろ疑問があったからな。まず、なぜ脱獄がこの時期だったのか。ハリーが狙いならホグワーツに入学後すぐでもよかったはずだ。それが3年経った今。おかしいだろう?知らなかったとしたら、何をきっかけでハリーのことを知ったのか」

「確かに。アズカバンなら情報が限られているはずだね」

「他にも脱獄の方法も謎だったが、時期もおかしかった。ハリーを殺しに行くならそれこそ、脱獄の時期から考えて夏休み期間の方が楽だ。アズカバンからなら、どうとでも行けただろうしな。それに、ホグワーツには先生方がいる。いくら卒業生とはいえ、学校内で行動するには人の目が多く見つかる危険性が高い。そう考えると、本当にハリーが目的なのか怪しいと思った」

「すごいね!僕、そんなことまで考えなかった」


まあ、後付けだしな。


「それで、シリウスに遭遇した時は杖も持っていなかったし、気絶させて縛り上げてからそれらのことを問い詰めたら、まあハリーが目的じゃないってわかって、協力することにしたんだ」

「だったら、その時に教えてくれてもよかったのに」

「こっちにもいろいろ準備が必要だったんだよ」

「ふうん?」

「お、そろそろ出てくるぞ」


時計を見ると、一時間が経過していた。そろそろ出てくる頃だろう。


暴れ柳に注目していると、根元からサラが先に出てきた。続いてスネイプ、縛られたピーター、リーマス、俺たちが続く。


城に向かって歩き出したところで、急激に気温が下がっていった。気がつくと空を覆い尽くすほどのおびただしい数のディメンターがやってきていた。少し離れている俺たちですら寒さやらなにやらでがたがた震えるほどだ。


混乱状態に陥った、過去の俺たち。ディメンターに対応していたセブルスたちがピーターから目を離した隙に、ピーターはセブルスに体当たりをかまし、杖を手にしたかと思えば姿を消した。ネズミになったのだ。


「今ならペティグリューを捕まえられる!」


飛び出したハリーを俺は追いかける。藪の中を抜けるが、ネズミの姿を捉えることができるはずもなく途中で見失ってしまった。


「ハリー。戻るぞ。過去のハリーたちが心配だ」

「うん」


かけもどると、散り散りになった過去の俺たちは必死に抵抗しているがなんせ数が多すぎ、またディメンターと接触してからの時間がたちすぎていた。うまくパトローナスが作れていなかったのだ。


俺とハリーは杖を構え、パトローナスを作り出す。俺たちの守護霊は駆け出し、空を覆い尽くすディメンターを追い払って行く。


「ハリー。来い。隠れるぞ」

「え?」

「バカ。リーマスはまだかろうじて意識があるみたいだ。あとは任せておけば運んでくれるだろ」

「あ、本当だ」

「俺やサラも意識がはっきりしだしている。見つかるとまずい」

「わかった」

「あとは時間まで、適当に隠れるぞ」

「うん」


俺たちは、リーマスたちに見つからないように迂回しながら禁じられた森へ行き、その縁で木の陰に隠れながら時間をやりすごした。


そして、時間ぎりぎりに医務室へと滑り込む。


ちょうど俺たちが過去へ消えるところだった。


「ただいま!」

「万事、うまくいったかね?」


ダンブルドアが目をきらきら輝かせながら問いかける。


「ええ。もちろん。ただネズミは取り逃がしましたが」

「君たちが無事ならば結構」


満足げに頷くと、ダンブルドアは医務室から出て言った。


「ハーマイオニー、これ、返す。ありがとな」

「ええ。でも、いつから気付いていたの?私が逆転時計を使っているって」

「ハーマイオニーの時間割を見た時に予想は立ててたんだ。まあ、本当に全部の科目をやりきるとは思わなかったけどな」


俺は苦笑しながらハーマイオニーに逆転時計を返す。


と、その時だった。再び扉が開いたかと思えば釈放されたらしいシリウスが駆け込んできた。


「シリウスおじさん!」


ハリーをしっかりと抱きしめたシリウスは、そのあと俺の方へきて、お礼を言った。


「祐希。ありがとう。君たちのおかげだ。ファッジは私を解放してくれるそうだ」

「お礼ならあいつに言ってくれ。全部、あいつの作戦だからな」


レイは、まだハリーたちと顔をあわせるには早いと言って、今回は後方支援といったところだった。まったく。自分が立てた作戦だというのに、人にばっかりやらせやがって。レイとアリィはセブルスやリーマスを暴れ柳に誘導する係だった。あと、ディメンター退治後の対処だ。先生を呼んだりなんだり。


だから、リーマスやセブルスはレイとアリィが今回のことに関わっていることを知らない。


俺とサラは学年も同じとあって、なんだかんだ一緒にいることが多い為、表向きに動く要員にされたってわけだ。


「ああ。彼女たちにはあとでお礼を伝えるよ」

「でも、大変なのはこれからだぜ?しばらくは裁判やらなんやらがあるんだろ?」

「そうなるだろう。だが、なるべく早くハリーを迎えにいけるように頑張ることにするよ」


そう言って笑ったシリウスはとても、幸せそうだった。うん、よかった。


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