「とめさーん!なんでそんな場所に登ってんの!危ないから降りてきなさいよー!」


 エーフィ!


「え、食満さんあそこ屋根瓦はがれているみたいなんですけど」
「何ィ!作兵衛!縄梯子もってこい!」
「は、はいぃ!」

作兵衛は縄梯子を倉庫から取って来て、道具を担いでとめのいる屋根へと登っていった。
気をつけてね、と声をかけるのは、着物に身を包む翔子さんであった。









命の恩人をそのまま追い出すわけには行くまい!

ここで事務員として働きなさい!






学園長の突然の思い付きにより、翔子さんはここに留まる事になった。




あの日、もんじろうの雷の音をきっかけに、他の生徒が集合してしまい、もんじろうの姿を目に入れてしまった。大体の生徒が化物だと騒いだ。それはそうだ、あんなデカい生き物、普通なら見たことがない。


素性を隠しておくのには無理があると、彼女の希望により、学園長先生、及び学園中の人間に、

『信じてもらえないかもしれないが、別の世界から来た』

という話を全校生徒の前でしたのだ。もちろん、殆どの生徒が彼女の話を半信半疑。別の世界から来た、なんて話を誰がそのまま鵜呑みにするのだろうか。


彼女は俺の命の恩人だ。少なくとも俺は信じていると、俺は彼女の身を庇う発言をした。
俺はそのまま、彼女の不思議な供に命を救われた話を、その不思議な共にここまで運んできてもらったという話をした。

六年のいうことだから、ということだけではないだろうが、皆は徐々に彼女を受け入れていってくれた。



翔子さんは小松田さんと共に事務員として、帰れる方法がわかるまで、この学園で暮らすことになった。今日の仕事は小松田さんと書類整理をしたあと、門の前の清掃。

今日やることはそれだけらしく、用具委員会をやっている俺等の元へ顔を出してくれたのだ。肩に、とめを乗っけて。


平太、しんべえ、喜三太はもちろん、作兵衛も彼女を受け入れてくれている。そして、ポケモンという不思議な生き物の存在も。
とめは用具委員の下級生にも懐いてくれているが、同じ名前のよしみということなのか、俺には異常に懐いてくれている。

この学園に来た日は、保健室にいる俺の側を離れようとしなかった。彼女曰く
『食満さんの腕の傷、凄く心配しているみたいなんです』
とのことだった。


包帯を巻いていないほうの腕でとめを撫でると、気持ちよさそうに目を細めるのだった。

俺は完全に彼女も、そしてポケモンという存在も受け入れている。





「せんぱーい!瓦の修理終わりましたー!」
「ご苦労作兵衛!とめと一緒に降りて来い!」
「はい!」

縄梯子から、頭にとめを乗せた作兵衛が降りてくる。

「とめさんありがとうねー!」
「とめさん偉い偉いー!」
「ありがとうね…」

下級生三人に撫で回されるとめはまたも嬉しそうに目を細めた。

「じゃぁ、これ倉庫に返してきます!」
「すまんな作兵衛。では、今日の用具委員はこれで解散とする!」
「「「「ありがとうございました!」」」」


平太の足からスルリと離れて、とめはそのまま俺の肩に飛び乗ってきた。どんだけ俺の肩の居心地がいいのだろうか。


一年生は「とめさんバイバイ!」と手を振り、駆け足で長屋の方に戻っていった。
下級生に「とめさん」といわれるのが、テレる。いや……、俺のことではないのだが。


「とめ、ありがとうな」
「エーフィ!」
「翔子さんも、ありがとうございました」
「いえいえとんでもないです」
「もしよろしければ、この後長屋で茶でもどうです?先日美味い菓子を手に入れまして」
「え、いいんですか!是非是非!」


委員会を終え、今日は任務もない。どうせこの後は夕食の時間を待ち、眠りに付くだけだ。
どうせ暇をするのだ、と、彼女を六年長屋へ招待した。

伊作はまだ委員会中なのだろうか。部屋に姿は見えなかった。

翔子さんが食堂からお茶を持ってきてくださった(本当は俺が行くといったのだが、きかなかった)。押入れから先日伊作から貰った菓子を出し、どうぞと差し出す。
とめは胡坐をかく俺の膝にのり、お菓子を食べる。


「おおおい!とめさんとめさんとめさん!!ボロボロ崩すんじゃない!」
「いえ、大丈夫ですよ」
「すいませんご迷惑をおかけして…」

お茶を飲み少しの談笑。翔子さんもそこそこ此処の生活に慣れては来たみたいだ。

とめを撫でながら話をしていたからか、いつのまにかとめは眠ってしまっていた。




「…」


可愛い。



「あ、すいません、とめさんそんなところで寝ちゃいましたか…」
「いえ気にしないでください」
「……それにしても、とめがこんなに呑気に人の膝で寝るの、始めて見ました……」

それは何か、悲しそうな目で、少し、悲しそうな声だった。



「…そういえば、翔子さんは何故こいつ等と旅を?」

そう尋ねると、彼女は、少し顔を曇らせた。


「みんなの心を、癒すためになんですよ」



どういう意味なのだろうと首をかしげ、膝で眠るとめを見た。






「…私の仲間、全員"わけあり"なんです」



翔子さんは、手にしていた湯飲みを、ゆっくり膝の上に下ろした。

prev next
×
- ナノ -