「こいつは今気を失っているだけだ」
「な、丸コゲじゃねぇか…」
「…だろうな。文次郎その縄で縛ってくれ」
「お、おう」
文次郎、という言葉を出すと、翔子さんは肩を揺らした。
文次郎が持ってきた縄で、男を縛ってもらった。こいつの始末は先生方に任すとしよう。
とりあえず門をくぐり、翔子さんも中と入れた。こうなってしまっては、事情を説明するしかないだろう。
どう説明すれば、あの火柱が起こった原因を語れるだろうか…。
あんなデカい、しかも見たこともない生き物を、どう説明すればいいのだろうか。
異世界からきただなんて誰が信じるだろう。
「…で、そちらは…」
あぁ!そうだ翔子さんがいるじゃないか!
いくら嘘で固めたとしても、この人の服装は見たことがない!誤魔化しようがないじゃないか!
「あ、私は、その」
「こちらは翔子さんという。囮で逃げている最中、俺は大分傷を負って、山道で倒れているところを、とめ…いや、翔子さんが助けてくださった」
「…です」
俺の後ろで身構えていた翔子さんは、一歩横に出て、集まるあいつらに小さく会釈をした。
返したのは伊作と長次だけであった。
「僕、善法寺伊作と言います!留さんを助けてくれたんですか!?本当にありがとう!」
「いえ、と、とんでもないです」
「……もそ…」
「え?え?なななんですって?」
「ありがとう、だとよ」
「あ、いえ、別に」
「留さん怪我は何処?すぐに治療しよう?」
「そ、そうですよ。確か毒を受けてたじゃないですか!ちゃんと抜けたかどうか…」
それも確認しないと!と、翔子さんが俺を向いた瞬間、こいつらの纏う空気が変わった。まずいな。きっとこいつらは、翔子さんが解毒をしたと思っている。
「その女が解毒したのか?」
「やめろ小平太。違う、彼女じゃない」
「じゃぁ誰がしたんだ?自然に抜けたとでも言うのか?」
「ち、違う」
小平太の目が細められた。
「なぁ、翔子とか言ったか?」
「は、はい?」
「お前、くのいちか?」
「…はぁ?」
何を言われているか解っていないだろう。それもそうだ、彼女はポケモントレーナーとかいうものだと言っていた。あいつらとただ旅をしているだけだと言っていた。くのいちであるはずがない。というか、くのいちをいう言葉すら知らないかもしれない。
「留三郎を使って忍術学園の位置を探ろうとしたのか?」
「小平太…やめろ……」
「解毒剤はどうやって作った?その服装が南蛮の忍者服か?どうやって留三郎を手に入れた?足でも開いたか?」
長次が小平太の肩を掴むが小平太はそれを振りほどき、くないを両手に握る。
一歩ずつ近寄ってくる小平太の目は、確実に彼女を殺そうとしている。
「足を開く?なんでです?」
「身体を使って留三郎を誘惑したか?」
「な、何言ってんですか貴方頭大丈夫ですか?」
「口答えするな!」
「いっ、!?」
右手のくないが彼女の頬を掠める。
「痛ッ…!何するんですかまじで!」
「此処へ来た目的はなんだ!お前は何処のくのいちだ!」
小平太が頬を押さえる彼女の胸ぐらに掴みかかった。
その時、彼女の腰が光って、彼女と小平太の間に、俺をここまで運んできたもんじろうが立ちふさがった。
ついに、出てきてしまった。
「な、なんだ、こ、いつ…!」
「ば、化け物だ…!!」
「…………!?」
「う、うわぁああ!」
「こいつは…!?」
「も、もんじろ何してんのやめなさい!!」
ガアァァァア!
もんじろうが叫ぶ。まるで雷でも落ちたような叫び声だった。
もんじろうが空へ叫ぶと、雷が、小平太の足元に何発も落ちる。突然のことに逃げるのに精一杯な小平太はそのままバク転をしながら正面にいる六年の中に戻った。
「もんじろうやめなさい!あんたこんなとこで雷起こしてどうするの!」
その言葉に忍術学園の方の文次郎は、「俺?」という顔をしている。なんだそのマヌケ面は。
「怒っちゃダメ!ここじゃ私たちが異端なの!不審がられても文句言えないんだって!落ち着いて!」
今だ低くうなり声を上げるもんじろうの首に抱きつき、怒りを治めようとする。
きっと主を傷つけた小平太に襲う気でボールから出てきたのだろう。
もんじろうの怒りが含まれた視線はずっと小平太を捕らえている。主である翔子さんを傷つけたのだ、それはそうだろう。
「もんじろ、私は大丈夫だから。ね?」
「…」
なだめるように、責めるような気持ちはふくめず、彼女は頭を撫でた。
もんじろうはそれに答えるように逆立てていた尻尾をおろし、血の流れる彼女の頬を舐める。
「この子に罪はありません。この子だけは傷つけないでください。私は食満さんを此所まで届けに来ただけです。別に此所の場所を誰かに喋るつもりもありません。確かに食満さんの受けた毒を解毒したのは認めます。でも私は、く、くのい、ち?とか言うものではありません。ただ旅をしている者です。
………もう食満さんも届けたことですし、私は此で失礼します。食満さんお元気で」
少し顔を伏せて、悲しそうな声で彼女はそう言ってもんじろうへまたがった。
「あ、翔子さん!待っ
「まちなされぇええ!!!」
が、学園長!煙玉で登場するのはやめてください!