「そ、それは…どういう、意味でしょうか」



聞いてもつまんないかもしれないですよ。彼女はそう言いながら姿勢を正して、悲しそうに笑った。


「とめさんは、…えっと、先日も軽くですけどお話したとおり、イーブイという別の形から、進化すると言ったじゃないですか?それで、イーブイという元の形のポケモンは、7種類に進化するんです」
「な、七種類にもですか!」

「えぇ。でも進化したら、もう別の形になることはできないんで。イーブイというポケモンは世界中でもすごい研究が進んでいるポケモンなんです。だから、この子は、…イーブイの生体実験の施設にいたんです」
「…!」

「多分、中から逃げ出したんでしょうね。ひどいことをされていたのか、イーブイだったこの子は傷だらけで…。"この森の奥にある建物で、イーブイの生体実験をしている"という噂があった施設の裏の森で倒れていたんです。まだその時、私は子供だったのですが、たまたまそこを通りかかったとき、とめさんが倒れているのを見つけて、急いでポケモンセンター…えっと、ここでいう保健室、ポケモン専門の保健室のような場所へつれていったんです。

無事一命は取り留めたのですが、人間に凄く警戒していて。なかなか私にはなついてくれなかったんです。
その後、すぐジュンサーさん…えーっと……わ、悪い人を取り締まる人がいるのですが、その人のところへ行って、生体実験をしているという噂はどうやら本当みたいだ!と伝えにいったんです。

でも、もう手遅れで。施設は空になっていました。まだあそこにいろんな子が実験でひどいことをされいたのかと思うと、何故もっと早く助けて上げられなかったのだろうと、近くに住んでいたのに…。後悔だらけです…。」

唯一助けられたのが、とめさんでした。そう語る彼女はいつもの元気な姿とは真逆で、苦笑という言葉が似合うような表情をしていた。


「あの施設はもうないよ、私はあそこでやっていたようなことはしないよ。そう伝えると、とめさんは徐々にですが、私に心を開き始めてくれたんです。

エーフィに進化するには、凄く懐いた状態で、お昼にレベルを上げると進化すると、研究で発表されたんです。だから、エーフィに進化してくれたとき、私、心の底から嬉しくて。泣いちゃいましたよ。

それから解るように、今はもう心を開ききってくれているみたいなんです。でも、やっぱり心のトラウマは消すことは出来ないみたいで、私以外の人にはあんまり懐いてくれないんです。だから、食満さんに懐いたとき、本当に驚いたんです。今は用具委員の皆さんにもなついていますし、ぎこちなくですけど、とめさんは学園の方々とも少しずつ仲良くなっていると思うんです」

今度は少し、嬉しそうな表情でとめを見つめた。
彼女は本当に、こいつのことを大事に思っているんだと、改めて感じた。



「もんじろうは、"伝説のポケモン"といわれていたポケモンで。私ととめが旅をしている途中で、出会った子なんです。もちろん伝説といわれているポケモンですから、見つけたら誰もが捕まえたがります。きっとずっと追われて生きてきたのでしょう。私ととめが見つけた時、瀕死の状態でした。あの時のとめと同じ状態。私は見過ごすことが出来なくて、警戒するもんじろうを無理やりですけど、モンスターボールに閉じ込めてポケモンセンターに預けました。もちろん無事体調は回復しました。でも、伝説は伝説のままいて欲しいと思って、最初に出会った森に、もんじろうを放したんです。


『元気でね!今度からは気をつけるんだよー!』


その直後ですよ。私のシャツに噛み付いてきて、あの子は自分から腰のボールに飛び込んだんです。「連れてって」とでも言われているみたいでした。その後すぐもう一度ボールから出して、「貴方は逃がしたんだ」と話をしたのですが、「お前のような人間に出会ったのは初めてだ」って。死ぬまでついてくって言ってきたんです。はは、ただの旅人が伝説の生き物に懐かれてしまいましたよ。」


一口お茶を飲み、今は袖に入れられているボールを一撫でした。

「彼も、あまり他の人には懐いてくれないんです。元々、昔々の伝説で、彼は人の手によって殺されたという文献が残っているみたいなので。人嫌いになるのも無理はありませんが。あ、その伝説によるとホウオウが、えっとせんぞうが生き返らせたという説もあるんですけどね。

でも彼は、最悪、牙をむくんです。あの日七松さんにキレた時のように。あれはめちゃめちゃヤバイ状態だったんで焦りましたけど。今は他の人にはなれずとも、随分丸くなりましたけどね。多分、怪我をしていた食満さんを、あの日の自分と重ねたんでしょうね。それで、大人しく運んでくれたのかもしれません。


あとは、まだ一度しか会ってないでしょうけど、せんぞうも同じです。あの子はとあるお寺の塔のてっぺんにいると聞いたんで、一目だけ見に行こうととめさんと塔を登って。でも、そこで見たのは、怪我だらけでボロボロのせんぞうでした。始めて会ったときは羽根もあんなに綺麗じゃなかったってぐらいボロボロでした。もんじろうと同じように無理矢理ボールにつめてポケモンセンターに急いで。一命を取り留めてホッとしました。

もう一度塔を登って屋根の上でせんぞうをはなしたら、「お前の故郷はどこだ」と聞いてきたんです。あ、私ワカアバタウンというけっこう広い町の出身で。まぁ、知らないでしょうけど。で、そこだと教えたら、急に背に乗せられて、一気に故郷の地へ連れて行ってくれたんです。
そしたらせんぞうは「ここはいい風だ。お前がそのような優しい心を持った理由がわかった気がする」そういってもんじろうと同じように、自分からボールに飛び込んできたんです。」


テレくさそうに顔をほんのり赤く染める彼女は、本当に心の優しい方なのだと思った。


「他の子も同じような心に傷を抱えているんです。

ある子は感謝を忘れた人間に復習するため、大きく進化して、復讐を遂げ、返り血を浴びて体が真っ赤になってしまった子とか。
そしてある子は、ポケモンブリーダーにいいように扱われて、ずっと籠の中に閉じ込められて、ずっと卵を産まされ続けていた子もいます。
あとは、元の飼い主に捨てられて、人間に恨みを持ってしまった子も。

私の仲間は皆、人間に恨みを持ってしまった子なんです。本当に悲しい。だから、私は、彼等と一緒に色んなところに旅に出ているんです。色んなところにいって、色んなものを見れば、もしかしたら、人間への恨みを忘れてくれるのかもしれないと思って。私たちのエゴで、彼等の心に闇を持たせてしまった。それが、私はどうしても見過ごすことが出来なかったんです。」

ポケモンという生き物の生態とか、種類とか、俺は何もわからない。翔子さんが与えてくれた知識しかない。でも、人間が人間以外の生き物と絆を結ぶというのは、そう簡単にできることではない。生物委員会のやつらをみていると痛いほどわかる。
これは彼女が心からこいつらを信頼しているから出来ることなのであろう。


「食満さん、私が元の世界に帰れるまで、とめさん達と仲良くしてあげてくれませんか。その子の心から、人間への恐怖心というものを消してくれませんか」


彼女は真剣な目をして、俺に向かって頭を下げた。






そんな頼み、断るわけがない。

俺もこいつらと同様に、あなたに命を救われたのだ。









「もちろんです。俺にできることがあれば、何でも言ってください。」








俺があなたを、裏切るわけないじゃないですか。











「…ありがとう、ございます……!」

だから、どうか、その涙を拭いてください。
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