2.太陽が笑う

「…ぉぇ……」
「うわ汚い。じゃぁね」
「行くな、行かないでくれ」
「酒臭い気持ち悪い。酒臭い」
「…香織……それはねぇんじゃねぇのか…」

案の定、次の日の甲板は地獄絵図だった。

誰だスピリタスをそのまま飲もうとか馬鹿みたいな提案したやつ。
あ、エースだった。

「大体あれはストレートで飲むもんじゃないんだけど」
「昨日の俺は飲める気がしたんだよ!」
「へぇ」
「うわ!香織の冷めた目!」

昨日のアルコールがまだ腹の中に残っていると
朝食の場にいなかったエースは見張り台にいた。

風を浴びながら酔いをさましていたみたいだ。

さすがに空腹はこたえるだろうからとサッチからおむすびを与り
エースに食わせてきてくれというお願いをうけたのだった。

いろんなところでエースの居場所を聞きながら歩き回り
たどり着いたのがここだった。

よかった居た居た。

「サッチからおにぎり与ったんだけど、食べれる?」
「おー食う食う」

なんだ食べれるんじゃない。

「あー、泳ぎてぇ…」
「何言ってんの泳げないくせに」
「二日酔い明けって、シャワー浴びるより海に飛び込んだほうが気持ちいいんだよ」
「…なんとなく解るのが悔しい」
「お前だって泳ぎたいと思ってるくせに!」
「私はエースみたいに酒に溺れるような真似はしないの!大体適度ってもんがあるでしょう!呑みすぎて次の日の戦闘に支障が出たらどうす」
「泳ぎたいと思ってるくせに」
「泳ぎたいよー!!私だって泳ぎたいよ!!!」
「泳ぎてぇよー!!」


悪魔の実の能力者ならではのこの悩み…。


そう、私も幼い頃悪魔の実を食べたうちの一人だった。


この悩みだけはどうすることも出来ない。


「なぁー、俺の酔いをさますために猫になってくれー」
「猫じゃなくてト、ラ、!ホワイトタイガーって言って!」
「頼むよ香織!モフモフさせてくれ!」
「猫なんて言うなら嫌!」

ちぇーっと体育座りに縮こまるエースが…可愛いなんて認めない!!


「…お前、昨日俺の頭蹴っただろ」
「え、起きてたの!?」
「起きたんだよ」
「えー…えっと、ごめん…」

むしゃむしゃとおにぎりを食べながら頭を撫でてくれる。


…あぁ、きっとエースはあの後起きて
私とパパの話を聞いていたんだろうな。

そんでもって今日ちょっと元気が無いのを察してくれたんだろう。


「気にすんな」

って、太陽みたいな笑顔で笑いかけてくれる。


「じゃぁお詫びに虎に」
「いや、いいよ、冗談だ」


そういえばエースは私がこの船に乗ってから
私に怒ったことなんて無い。

いっつも「気にすんな」って終わらせる。

あぁ、この一言が心地いい。


「ここで銃の手入れしてもいい?」
「あぁ、かまわねぇよ」

見張り台はそこそこ広い。
私は両足のホルダー、背のホルダーを取り外し
銃を並べ一週間ほど前の戦闘で空になったであろう銃へ弾を込めた。

すっかり忘れてた。ごめんねー。


「また増えたんじゃねぇの?」
「そうだねー。左足のホルダーはちょっと前につけたんだ」
「これ、見たことねぇな」
「あー、それイゾウのお古。使わなくなったらしいから貰ったんだ」
「…よくそれで動けるな」
「もう慣れちゃった」

走ることに。

銃を扱うことに。


戦うことに。




「まだイゾウのやつは使ってないんだけどね」
「なんで?」
「だって最近戦闘らしい戦闘してないじゃない」

「あぁー…そうだ………ん?」
「何?」
「…おい香織、その銃、さっそく試し打ちできるぞ」
「え?」

そういうとエースは見張り台からさらに上に登り





「3時の方角に敵船が見えたぞー!!!!」




そう大声で叫んだのだった。
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