1.父の膝の上

やめて…―――!

触らないで……――!!


帰して…―!


私は、人間なのに…―!!







「…っ!」

久々に、五年前まで見ていた悪夢をみた。

嗚呼、気持ち悪い。

あの悪夢の日々からはもう解放されたのに、
まだ誰かに体を触り続けられているような気がする。

私の部屋にはもちろん誰もいない。
たまに酔っぱらって入ってくるクルーもいるが、今日はいないみたいだ。

甲板からは酒で倒れたクルーの鼾が聞こえる。

一足先に宴を離脱しておいて正解だったかも知れない。
酒は強い方だと思うけど、今日の酒でチャンポンだけには耐えられそうに無かった。

誰も起こさないようにそっと部屋を出て風呂場へ向かった。
幸い今は誰も使っていないようだ。

髪をまとめ服を脱ぎ、太ももの内側に入れられたパパの海賊旗をみて笑みがこぼれる。

街で変なやつらに絡まれ組敷かれても
足を開けば恐怖に顔が歪むのが楽しい。

あと一歩で快楽へといけるというときに見せられる
"白ひげ海賊団の乗組員"を決定付けるこのマーク。

これには何度も助けられた。


今はこの船のクルー。
そしてパパの娘。

血は繋がっているわけではないけれど、
私を助けてくれたあの日から

海賊「エドワード・ニューゲート」は私のパパだ。



「っ、」

吐き気がする。

さっき見た夢を、昔を思い出して
腹の底から何かがこみ上げてる。

夢で触られたような感覚に陥ってから
全身が汚くなった気がしてしょうがない。

シャワーを浴び必要以上に体をこする。

キタナイ。
私はキタナイ。


赤く摩れた全身を鏡で見る。
さっきよりは綺麗になった。と、思う。

頭は寝る前に洗った。
体を洗いたかっただけ。

私は体を拭いて風呂場を出る。
潮風に吹かれながら満月の月を見上げ部屋へと急いだ。


「香織」


甲板から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
パパだ。

「起きてたの」
「お前の足音で起きたんだよ」
「嘘。耳遠いくせに」
「年寄り扱いすんじゃねぇ」
「パパはもう歳じゃない」
「グラララ!俺の娘は反抗期か」

パパはまた手元にある大きな酒樽を手にした。
酒は控えろって言われてなかったっけ。

「……パパ」
「あぁ、来い」

足元に転がるクルーを踏まないようにパパの下へ急gあ、ごめんエース。


「久々だな、香織が夢に魘されるのは」
「…また見ちゃった」
「過去は変わんねぇんだ。仕方ねぇさ」

パパの膝の上に乗る。
ここから見ると本当に酔いつぶれたやつら多いな。

学べよお前等次の日顔面蒼白になるくせに。


酔いつぶれた連中をみて明日を想像してふふっ、と笑う。

するとパパは私の腕を掴んでまた悲しそうな声を出す。

「香織」
「何?」
「夢をみるのは仕方ねぇ。だけどな、てめぇの体を傷つけるなとは何度も言った筈だ」

さっきお風呂でこすりすぎたのか、腕からは血が出ていた。
あれま、傷になってたのか。気づかなかった。

「あ、」
「アホンダラ」
「ごめんなさい…」
「お前はもう奴隷じゃねぇんだ。香織は、俺の娘だ」
「…」

汚くねぇよといいながら、私の頭を優しく撫でてくれる。

「傷つけるのはやめろ。嫁入り前の癖に」
「結婚なんかしないから安心して」
「バカヤロウ。孫の顔を見ずに死ねるか」
「海賊だもん。結婚なんかできるわけないじゃない」
「息子どもに何人かいいのがいるだろ」
「えー、パパは近親相姦が好きなのー?」
「…グラララララ!!ああ言えばこう言いやがって!!」

さらに頭をぐしゃぐしゃに撫でてお酒を一気に飲み干す。
私はパパの腹に背を預け、ゆっくり眠気に身を任せていった。

「…パパ、…」
「あぁ、いい、そのまま寝ろ。」
「……おや、…な…」


最後に聞こえたのは空になった酒樽が海に投げられた音だった。
(1/44)
* 前へ 目次 次へ #
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -