29.包帯を巻く 「失礼します。新野せn……あれ」 「……」 保健室に入ると、中には青い制服を着た子がいた。 誰だろう。始めて見る子だな。うわ可愛い顔してるなぁ…。男の子なのに…。 「……」 「……」 き、気まずい!なんて気まずいんだこの空気!! ……いやそんなことよりすっげぇ睨まれてる!!めちゃめちゃ睨まれてる!! 「えっと…」 「こんにちは事務員の香織さん新野先生なら今外出中で忍術学園にはおりません善法寺先輩も本日は実習で学園を出ておられます今日は保健室の担当は僕です」 「お、おおぅ…」 き、嫌われている!?これもしかして嫌われている!?凄い睨まれたし凄い眉間に皴寄ってる……! いや一応私部外者だけど、嫌う気持ちも解るけど、こ、ここまであからさまにやられると逆に…ねぇ……。可愛い顔立ちしてんのに眉間に皴なんて申し訳ねぇ。ここは一旦出るか。 「あー、そっか。じゃぁいいや。ごめんね、邪魔しちゃって」 実は腕斬っちゃったんだよな。まぁいいや。改めて来よう。水で洗っておけば大丈夫だろうし。 「ま、待ってください!何処へ行かれるおつもりですか!」 「へ?」 「保健室に御用があるということは怪我でもなさったんではないんですか」 扉を半分ぐらい閉めたところで、ビックリするぐらい大きな声でそれを制止された。 っていうかガッ!と閉める扉をつかまれてスパン!と逆に開かれた。ビックリした。 「えっと…」 「怪我でもしたんですかと聞いているんです」 「あ、うん。腕を斬っちゃって」 「斬っちゃってって……」 これなんだけど、と着物の袖を捲って傷を見せると、青い彼は目を見開いてギョッとした。 「な、なんでこんなに血を出しているんですか!?」 「!?」 「早くこっちに来て下さい!どうしてこんなに垂れ流すまで放っておいたのですか!!」 えっ、もしかして今度はめっちゃ怒られている? 凄い力で保健室に逆戻りするように引っ張られ、指差された場所へ座った。さっき彼が座ってた座布団の上だ。 たくさんの薬草が散らかっていて、それをすりつぶすような器具が置いてある。もしかしてこの子が薬作ってたのかな。凄い。こんな小さい子なのに薬なんて作っちゃうんだ。 うちはナースのお姉ちゃんに任せっぱなしだったからなぁ。関心しちゃう。 「何ニヤニヤしてるんですか!!早く腕を出して!!」 「はいごめんなさい!!」 どうしてこんな怪我をしたのか、そう聞かれ、私はあんまり彼の神経を逆撫でしないようにポツリポツリと話した。 そろそろあの刀も打ち粉しないと錆びてしまうかもしれない。でもお手入れセットとか持ってない。ということで実はさっき戸部先生に刀のお手入れセットをお借りしたのだ。快く貸してくださり、本日の仕事を終えた私は縁側でぽんぽんと手入れをしていたのだ。 そして最後まで終えて、鞘にしまう前に……とりあえず…た……試し斬りしたくて……… 「…自分の腕を斬ったんですか」 「……はい」 それも、予定よりも深く。 すると彼はダン!!と思いっきり床を叩いて 「あなたは一体何を考えているんですか!!!!」 「ごめんなさい!!!!」 めっちゃ怒ってきた。 こ、こんな年下の子に頭ごなしに怒られている!!なんて情けないのかしら自分!! 「香織さんは女性なんですよ!!」 「はい」 「忍者でもなければくのいちでも無いんでしょう!」 「はい…」 「ならば何故自ら自分の身体を傷つけるのですか!!」 「大変申し訳ありませんでした…」 「試し切りなら樹でも葉でも何でもあったでしょう!!」 「学園の立派な樹を切るのは申し訳ないかと思いまして…」 「樹なんて山にいけば腐るほど生えているではありませんか!!」 「山に行くのが面倒だったので…」 「だからといって自分の腕を斬るバカが何処にいるんですか!!」 「此処に…」 「海賊だった頃は海に樹はないからこんな怪我日常茶飯事だったかもしれませんけどここは海ではなく山です!!試し切りなら腕ではなく他の物でしてください!!」 「返す言葉もございません…」 「判断力に欠けています!もっとよく考えて行動してください!!」 「面目次第もございません…」 とりあえず、深く深く土下座した。 でも土下座したら「バカなことしてないで腕を出してください!!」とまた怒られた。…情けない…。子供に怒られるとは情けないよ香織ちゃん…。 エースにバレたら笑われもんだわ…。いや笑ったら逆に殺す。 慣れた手つきで血をふき取り、傷口に薬を塗りこみ、グルグルと綺麗に包帯を巻いていく。うわ、起用だなぁ。凄い。あっという間に止血された。あんなにポタポタたれていたのに。 包帯の巻き方もキレイ。 「怪我を治療するのは我々保健委員会の仕事なんです!バカな行動して僕らの仕事を増やさないでください!今後は知りませんからね!」 「以後十分に気をつけます…」 バカって三回ぐらい言われた…。ツラい…。 もう彼を怒らせないように深く深く土下座をして「失礼致しました」と謝罪を述べ、私は扉の方へと身体を向けた。 「…で、でも!」 「?」 綺麗に巻かれた包帯をまじまじを見つめてすごいなーと感心していたら、後ろからさっきよりは控えめな声で少年が声をかけた。まだ怒られるのだろうか。 「…こ、今夜もう一度、ほ、包帯を変えねばなりません!わ、忘れずに此処へ来て下さいね!」 ……さっき今後は知りませんからと言ったのに…。 「え、だってさっき」 「ほ、放っておくわけにいかないでしょう!そ、そんな深い傷…見せられたんじゃ…」 …………可愛すぎじゃないのかな。 あれかな。ツンデレってやつかな。あんなにガミガミ怒ってたけど、実は心配してくれているのかな。 保健委員さんは心優しい子ばっかりだと聞いたけど(善法寺くんに)、やっぱり彼も保健委員会なんだなぁ。 「うん、もう一回御世話になるね」 「…忘れたらもう知りませんからね」 はーいと間の抜けた返事を返し、私はもう一度保健室へと入り、彼の前に座った。 「じゃぁ私の担当医さん、お名前聞いてもいいでしょうか」 「!!!………二年い組の、………川西、左近です…」 担当医さん、と言う言葉にボン!と顔を赤くしてもじもじとしながらも小さな声で名前を教えてくれた。可愛い。 「川西くんね。ありがとう覚えたよ」 「………べ、別に左近で、いいですよ…」 「……左近くん」 「…!」 「……さ、左近くn「よよよよよ用が済んだならもう帰ってください!!!」 「はい!失礼しました!!」 ビシャッ!と扉を閉められて私はバクバクする心臓を押さえながら保健室から離れた。 私に可愛い担当医さんがつきました。 それにしても綺麗に巻かれているなぁ。子供とは思えない。 二年生、ということはー……11歳か?え、11歳でこのレベルに包帯巻けるの?凄すぎだわドラムもこれにはビックリだろうな。 「お!おーい金吾くん」 廊下をスタスタ歩いていくと遠くで金吾くんがダッシュでどこかへ向かっていくのが目に入った。あれ、もう一人いる。 「あ!香織さんこんにちは!」 「こんにちは、なんだな」 「こんちは。えーっと青色、ってことは君は二年生?」 「は、はい。時友四郎兵衛って言うんだな」 「じゃー…しろくんでいいかな?」 「お好きに呼んでくださって構いません」 「うん、私のことも好きに呼んでね」 ほわーこの子も可愛いなぁ。左近くんとは違うタイプの可愛さだな。 「ところで、そんなに急いで何処行くの?」 「僕らこれから学園長室へ行くんです!」 「呼び出しくらったの?」 「いえ、……実はさっきいけどんマラソン中に…」 「…裏山で山賊を見つけたので…その、ご報告に行くんだな…」 山賊。その言葉を私は聞き逃さなかった。 「…大体どのあたり?」 えーっとと金吾くんが山の方向を指さして大体あの当たりです、と山の頂上辺りをぐるっとしめした。 「大体何人くらいいた?」 「僕らが見たときは…えーっと、5人ぐらいはいたんだな」 「5人か…。余裕だな…」 「「え?」」 「あ、ううん、なんでもない。…そっか解った。実は私これから学園長さんに用事あるから、私から伝えておくよ」 「本当ですか!」 「うん。じゃ、任せておいてね」 「はい、お願いします!」 「お願いします、なんだなー」 こんなにも血で穢れきった私の腕の怪我を治して、心配してくれる。 そんな心優しい子達がいる忍術学園は、私が守らないといけない。 金吾くんの背中を見送り姿が見えなくなったところで、私は歩く方向を変えた。 学園長室へは向かわずに、髪を纏め上げ、 腰にぶら下がる刀に手をかけ、出門表にサインを書いた。 「ほら言っただろう、香織さんが始末しにいくと」 「……なんであいつが…」 「私は後を付ける。お手並み拝見といこうか」 「…チッ」 ------------------------------------------ 「…あれ、左近どうした?」 「数馬、先輩……」 「顔赤いぞ?熱か?…ん?血の匂い…誰か怪我した人でも来たのか?」 「せ、先輩!僕今日は夜も薬作りに来ますから!!!」 「え、どうした」 「まだ終わってないんです!!終わりそうにないんです!!!」 「いや、残りなら僕が」 「いいえ僕がやります!!!!!!!!」 「どうした左近!!」 (29/44) |