28.斬り捨てる

「チッ、クズが」


今夜は思わず舌打ちしちゃうほどには数が多い。


学園長さんが言うことは本当だった。今日は六年生の皆さんと五年生の皆さんが夜の合同サバイバル演習中らしく、学園に五、六年生、それから大半先生方の姿はない。
この時間帯ならいつも夜の自主トレしている人が騒いでいるはずなのに全く声が聞こえない。そうかあの六年生がいないとこんなにも平和な夜が訪れるのだな…。

と思ってはいられない。学園長さんが言うとおり、上級生や先生がいないと明らかにこの忍術学園を襲いに来ましたというオーラ丸出しの黒ずくめの忍者さんが忍び込んできた。

上級生さんや先生方がいるときはぐっすりゆっくり眠れるのだが、いないとなると話しは別だ。一晩刀を腰にぶら下げて屋根の上かヘムヘムが鐘をついてる塔?の上で見張りをせねばならない。ま、これが本来の仕事だしね。しっかり務めますけど。


それに見張りならうちの船の不寝番で慣れてる。一晩中起きて海を見張っていないといけないし。それに猫は夜の方が目が利く。ぼーっとしてても視界で何かが動けばすぐに反応できるぐらいの瞬発力は持ってる。

学園に手を出すということそれすなわち忍術学園の敵。虎の姿を見られても確実に凝らさなくてはならない相手。どの姿で殺そうと何の問題もない。


ただ、銃だけは使うことは出来ない。音で寝ている忍たまくんたちを起こすわけには行かない。万が一にも起きてきて流れ弾なんて当たったらシャレにならん。


…トラウマがあるから、あまり刀で人を斬り殺したくないんだけど。ダメだなぁ血を浴びると興奮しちゃってまずい。中二病か私はまったく。
仕方ない。銃は使えないんだから。サイレンサーでも持ってればよかった。

嗚呼手が震える。感情が抑えられない。



山へと誘い込みそこで殺しそこで処理する。


この傭兵の仕事は裏の仕事だ。あまりバレたくはない。

まだ年端もいかない小さな子供に、人を殺しているところなんて見せたくない。


「で?あなた何処の忍者?なんで忍術学園を襲った?」
「……ッ」


唯一生き残っている一人の顎に切っ先を当て、そう問いかける。どこどこから来た、といわれても、私は解んない。聞いたことを学園長や土井先生にご報告させていただくだけ。

血まみれでもう呼吸すらも危うい忍者の人にそう問いかけるが、返ってくるのは浅く早い呼吸の音だけ。


「私の質問に答えろ」
「…情報を……漏ら…すは………忍者の、恥だ。…殺せ」
「そうか。敵ながら天晴。最期に言い残す事は?」
「ない」


刀を振り下ろし首が舞う。さようなら。良い旅を。


今日はまた返り血が酷いな。この死体はこの辺に置いておこう。んでもって夜が明けたら土井先生に処理してもらおう。





















誰かいる。







そう遠くもないところから、こっちを見てる。なんだ、まだいたのか。面倒くさい。もう私の頭の中は『風呂入りたい』で9割をしめている。帰りたい。逃げたい。


「誰だ。出て来い」


「敵じゃないでーす!」
「俺らですよ」

「あれ、鉢屋さんと尾浜さん?」


木の陰からピョコと顔を出したのはおなじみ学級委員会の五年生のお二人だった。


「三郎でいいですって」
「勘ちゃんでいいですよ」

「じゃぁ三郎と勘ちゃん。どうしたの?サバイバル演習は?」
「俺らでコンビだったんです。一足早く課題終えたので帰ってきちゃいました」
「そっか。二人は優秀なんだね」
「私たち学級委員ですからね」


と呑気に喋りながらこっちに近づいてくる。



「あ、だめ、待って、こっち来ないほうがいい」

歩み寄るのを止めてほしくて、刀を抜き先を二人に向ける。


「何故です?」
「今此処に無数の死体がある。傷の状態も、死に方も様々だけど、あんまり見て気持ちのいいものじゃない」

「…死体……?」
「……何故、死体が…?」


「それから」

「それから?」


「…今の私は何するか解んない。興奮してるの。刀を握っていたいの。何か斬りたいの。無差別に斬り捨てたくなるの。二人を殺すかもしれない。ごめんね。こういう身体なのだから近寄らないでお願い」



こういうことに梃子摺るとどうしても、こういう殺人衝動が抑えられなくなる。どうしようもなく誰かを殺したくなる。無性に、斬り捨てたくなる。


「…香織、さん?」

「お願い、近寄らないで。多分、しばらくすれば大丈夫だけど今はダメお願い話があるならそこからして二人は殺したくない」






















おい!香織!落ち着け!何やってんだ!


ダメよエース離してお願いまだ足りない


やめろ!もうこいつ等死んでるだろ!


ダメだよまだ死んでない人がいるもん


そいつらは白ひげの人間だろうが!


や、止めてください香織さん!


俺ら敵の人間じゃないッスよぉお!!


落ち着け香織!刀を離すんだよい!


隊長やめてください離して離して離して離して!


オヤジ!香織が!香織が!!




……おい香織、何やってんだアホンダラ




パパ、パパ、パパ、


あぁ、俺は此処だ


…パパ、


お前はいい子だ、もうやめられるな


…パパ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい





















「…香織さん?」


ハッとなって顔を上げる。嗚呼、パパはここにいない。エースもいない。マルコ隊長もビスタもいない。制御しなきゃいけないのは自分自身だ。よし、落ち着け。大丈夫。もう殺す人はいない。大丈夫大丈夫。この二人は敵じゃない。落ち着け。よし。落ち着け。

大きく息を吸い大きく吐く。



「うん、ごめん。もう大丈夫。何?」


もう刀を抜かないように、鞘に収めて二人を視界に入れた。



「えっと、これは、」

いつの間にか近くに来ていた二人が、私の服についてる大量の返り血と転がる無数の死体を見て顔を見開く。
そういえば、この二人は私が虎になれることを知っていても、裏で用心棒のようなことをしていることを知らなかった。そりゃ驚くよね。

話せば長くなると頭に置いて、私は学園長先生に表は事務員、裏は忍術学園を襲う輩退治をしていると。
むしろ、上級生がいないときに他の忍者が忍術学園を襲っているという話を初めて聞いたのか、二人は顔をさっと青くさせた。


「え、じゃぁ、今、学園が、奇襲にあったということですか!?」
「そうだね。早い話そういうことかな」
「こ、この人数を香織さん一人で殺したというんですか!?」
「戦闘には慣れているから。心配しないで」

怪我もないよと付け足して、私は学園の方へと顔を向けた。
明かりはない。異常も無い。今夜はもう大丈夫だろう。


「…庄ちゃんと彦四郎の言うことは本当だったのか」
「だったら、学園長先生がその力を無駄にするわけないですね」


「…き、気味悪がらないの?」

「え、なんでですか?」
「だ、だってこんなに人殺してるのに」
「俺らだって同じようなもんですよ」

「こんなに返り血浴びてるのに」
「忍務に出ればそれぐらいありますよ」


「……」


彼等は何故私がこんな身体なのかとかを聞いてこない。過去に一切触れてこない。
助かるなぁ。昔事はできれば思い出したくないし。



「そ、そっか。ならいいや。うん、ありがとう」
「香織さんも学園に戻ります?」
「うん、風呂入りたい」
「ははは、その血はツラいですよね」
「私たちもその気持ち解りますよ」
「ね、臭くてかなわないよ」


今私は人を殺した、けど笑ってる。

船にいたときみたい。心地良いなあ。





……みんな今なにしてんだろ。私死んだことになってるかな。

絶対海に飛び込んで私のこと探しているバカとかいそうで怖い。


もう大丈夫だよなんとかなってるから。
帰れるかわかんないけど今一応楽しんでるから大丈夫だよ。心配しないでね。



私は転がる死体を背後に、三郎と勘ちゃんと学園へと戻った。



「あ、香織さん」
「なぁに三郎」

「このこと黙ってるんで、今度手合わせしてください」
「あ、俺も俺も!」

「べ、別に構わないけど」


この学園の人は本当に手合わせ好きだなぁ…。







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「あ、土井先生」

「香織さん、……その血…また、ですか」

「えぇ、もう大丈夫ですよ」

「そう、ですか…」

「裏山の頂上付近にアりますから」

「わかりました。では明日にでも」

「宜しくお願いします」




何故彼女は私も気付かない敵の気配に気付くのだろうか。








「三郎、勘ちゃん、お風呂行こう」

「いいですy……えっ!?一緒にですか!?」

「えっ、入らないの?」

「入りませんよ!!何考えてんですか!!」

「う、うちの船では野郎どもの背中流してあげてたんだけど…」

「香織さんどんな生活してたんですか!!」

「あ、俺の背中流してください」

「うん、いいよ」

「勘ちゃんコラァアア」
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